人財 組織 組織の調和が生まれればチームのメンバーは「個」を発揮できる

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2019.07.05
佐々木則夫氏 元サッカー日本女子代表チーム監督/十文字学園女子大学副学長/大宮アルディージャトータルアドバイザー

ベンチからの指示を待つ「野球型組織」ではなく、一人ひとりが自主的に動く「サッカー型組織」を企業は目指すべきである──。
そういわれるようになって久しい。では、理想的なサッカー型組織とはどのようなものなのだろうか。
2011年にサッカー日本女子代表チームを率いて世界一に導いた佐々木則夫氏に、組織とリーダーのあり方について聞いた。

──サッカー日本女子代表の監督に就任されたのは2007年末でした。どこから組織づくりに着手されたのですか。

たとえて言うと、「象さんの絵」を点線で描くことから始めました。チームづくりで最も大切なのは、あるべき姿のイメージをメンバーにつかんでもらうことです。そのために大まかな絵を見せて、ここに鼻があり、ここに耳があり、ここに目があるということを示したわけです。これは監督やコーチなどマネジメント主導でやらなければならないことです。

──「実線」ではなく「点線」で描く。そこに選手の自主性が生まれる余地があるといえそうですね。

一つひとつの線を実際に描いていくのは、マネジメントと選手の共同作業です。最初は薄い線でいいんです。焦らず、時間をかけて、その線を濃くしていけばいい。それがある程度できた段階で、チーム運営を徐々に選手主導に切り替えていきました。そこからですね、一人ひとりの工夫が重要になるのは。

──選手主導になるまでにどのくらいの時間がかかったのでしょうか。

2年くらいでした。最初はマネジメントと選手の役割のバランスは8対2くらいでしたが、それが徐々に4対6になり、ついには2対8になりました。

──08年のアジアカップで3位。その後、10年の東アジア選手権で優勝して、翌11年には世界一になりました。まさに、選手主導になっていく過程でチームも強くなっていったということですね。選手のリーダーであるキャプテンはどのような視点で選んだのですか。

08年の北京五輪後に澤穂希をキャプテンに指名したのは、いわば「背中」で人を引っ張ることができる選手だったからです。僕たちはあの時点でチャレンジャーでした。チャレンジする組織に求められるのは、挑戦の象徴になれるリーダーです。

彼女は「無言実行型」で、言葉よりもプレーで仲間のリスペクトを集めるタイプでした。彼女のプレーを見れば、みんなが自分も頑張ろうと思える。そんなところに彼女のリーダーとしての才覚があったと思います。

──選手の自主性や自発性はどのようにして伸ばしていったのですか。

サッカーには基本があり、チーム戦術にも基礎となる考え方があります。さらにゲームごとにやるべきことの優先順位が変わります。一人ひとりがそれらをしっかり押さえておくことがまずは大切で、それさえできれば、あとは個が持っているものを生かしていけばいい。それが僕の考え方でした。

もっとも、いきなり個の力を発揮できるとは限らないので、ポジションごと、あるいは右サイド、左サイドの選手が集まって、グループでミーティングをする機会を増やしました。そうやって最も近い仲間との意識を合わせることができれば、個も力を発揮しやすくなります。

──個と組織のバランスについてはどうお考えですか。

組織全体の調和が個を生かす。そう考えています。僕が監督になってから世界一になるまで、チームのメンバーはほとんど変わっていません。それでも3年の間に目に見えて強くなったのは、個々の選手がレベルアップしたことももちろんですが、チームの調和ができて、そのなかで一人ひとりが伸び伸びと動けるようになったことが大きいと思っています。

仮にスタープレーヤーがいなくても、組織づくりがうまくいけば、チームのパフォーマンスは上がるものです。組織は人間社会がつくった便利な道具です。それをうまく使って個を伸ばしていけばいいのだと思います。

──コミュニケーションにおいて、とくに気をつけていたことは何ですか。

タイミングですね。例えば、選手同士でいい会話が進んでいるときに、それを止めるような発言はしない。あるいは練習中に、「ここでアドバイスをすべき」というタイミングを見極めて声をかける。そんなことを心がけていました。タイミングがずれると、伝わるものも伝わらなくなります。

練習以外の場面でもそうです。いきなり重要なことから話し始めると、相手は構えて心のシャッターを閉ざしてしまいます。ある選手に何かを伝えたいと思ったら、まずは「昨日はよく眠れたか」とか、「今日は体調がよさそうだな」とか、そんな何気ない会話をしてから、タイミングを見計らって、「あとで10分くらい時間がもらえるかな」と言えば、選手も心を開いてくれます。

──組織のリーダーに求められるものをあらためてお聞かせください。

まずは、自分の性格や流儀をメンバーに理解してもらうことが大切だと思います。僕は、選手からフランクに話しかけられることは何とも思わなかったけれど、人の話をしっかり聞かない選手に対しては厳しい態度を取りました。そんなふうに自分の一貫したやり方を見せれば、選手も「ノリさんはこういう人だから」と理解してくれます。

それから、自分が上にいると思わずに、チームの一員としてメンバーと同じ目線を共有することも大切だと思います。僕はよく選手たちに「もし君たちに失礼なことを言ってしまったら、指摘してほしい」と伝えていました。また、うまくコミュニケーションがとれない選手がいた場合は、チームスタッフやほかの選手に「今日、あいつどうなの」と聞いたり、「調子がどうか聞いといてよ」とお願いしたりしていました。

そうやって、自分の思っていることを率直に伝えたり、仲間の力を借りたりしながら、チームの一員として行動することで、組織をまとめていく。それがリーダーの1つのあり方だと思います。一人ですべてをやろうとせず、頼れるところは頼りながら、決断すべきときはしっかり決断する。そんなリーダー像がこれからの時代には求められていくような気がしますね。

Profile

佐々木則夫氏
元サッカー日本女子代表チーム監督
十文字学園女子大学副学長
大宮アルディージャトータルアドバイザー

1958年山形県生まれ。帝京高校、明治大学を経て日本電信電話公社に入社。電電関東/NTT関東サッカー部(大宮アルディージャの前身)でプレーする。2006年にサッカー日本女子代表コーチおよびU-17日本女子代表監督に、07年末には日本女子代表監督に就任した。08年東アジア選手権で優勝。北京五輪4位。11年FIFA女子ワールドカップドイツ大会で優勝。以後、12年ロンドン五輪、15年FIFA女子ワールドカップカナダ大会と世界大会3大会連続でチームをファイナルに導いた。16年に代表監督を辞任し、十文字学園女子大学副学長、大宮アルディージャトータルアドバイザーに就任した。