組織 仕事の未来 小さな目標を1つずつクリアするワンイヤー・デザイン法で達成能力を磨く

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2020.12.03
小さな目標を1つずつクリアするワンイヤー・デザイン法で達成能力を磨く

目標を3つ程度設定し、1年ごとに見直し必要に応じて再設定する。
変化が激しい時代だからこそ、目標は短期で設定するのが効果的だという。
自分はどうなりたいのか、興味関心はどこにあるのか、心の変化によって目標も柔軟に変更していく。
そんな目標達成手法を提唱する寿山泰二氏に、目標の立て方と達成に向けての歩み方についてお聞きした。

興味関心を掘り起こし複数の目標を見つける

VUCAといわれる先の見えづらい時代に、新型コロナウイルスが人々を襲った。ますます将来に不安を感じる人が増えていると寿山氏は指摘する。

「例えば、日本を代表する航空会社がここまでの苦境に立たされるなど、昨年は誰も想像すらしていなかったさまざまなことが起こっています。先の見えない時代には、1つのことに固執するのではなく、複数の選択肢を持つ考え方が必要です。自分が幸せを感じるものが複数あれば、新型コロナなどの外的要因で1つが叶わなくなったとしても、残った目標に向かって頑張ることができます」

寿山氏がキャリアデザインのために編み出した手法の一つが「目標達成ロードマップ」だ。現在を起点として、「40歳 営業課長」などと今の自分の状態を記入した後は、自分がこの先どうなりたいのか、何に興味関心があるのかを掘り起こしていく。

「TOEICで800点をとる」「新規事業を立ち上げる」「独立起業する」「中小企業診断士の資格をとる」など、思い浮かぶ目標をどんどん書き出す。仕事内容には直接関係ない「満員電車に乗らない」「家族と戸建てに住む」といった、働き方やプライベートの目標も含めてよい。

幅広く思考をめぐらせるうちに、忘れていた目標を思い出すこともあるかもしれない。

こうしてたくさんの目標を抽出した後は、実現したい順に優先順位をつけ、上位3つ程度に絞り込む。次に、その3つの目標のさらに先にある目指したい状態を書き入れる。例えば、「TOEICで800点をとる」の先には「海外支社で働く」があり、「中小企業診断士の資格をとる」の先は「経営コンサルタントとして独立する」といった目標になるだろう。

目標に向かって進んでいると、例えば経営コンサルタントとして外資系企業を担当すれば、TOEIC800点の目標が生かされるなど、最初は関連性がなかったように見える3つの目標が交わることもある。これを寿山氏は「夢をつなぐ架け橋」(図1)と呼んでいる。

図1夢をつなぐ架け橋

(参考事例)

夢をつなぐ架け橋

出所:『社会人基礎力が身につくキャリアデザインブック』(寿山泰二/金子書房)を基に作成

  • 「現在」のところに、自分の現状のキャリアを記入する。
  • 今後、自分が「どのような人生を送りたいのか」、実現したい夢や目標などを複数(2つ以上)抽出し、優先順位をつけ、上位1番から3番までを記入する。
  • 1番から3番の先にある、さらなる夢・目標をA、B、Cに記入する。
  • 1番から3番の夢・目標を叶えるために必要な知識・スキル、努力・時間、お金・環境などを考えて実践する。さらにその先のA、B、Cを叶えるために同様に考え実践する。

目標を細かく分解して1年ごとに見直そう

将来の大きな道筋が見えたら、具体的な行動については短期間に区切って目標を設定し、定期的に見直していく。これが寿山氏の提唱する「ワンイヤー・デザイン法」(図2)だ。

図2ワンイヤー・デザイン法

ワンイヤー・デザイン法

出所:寿山泰二氏の取材を基に作成

「長期の目標を設定してしまうと、向かっている間に状況が変わることもあり得ますし、モチベーションの維持も難しくなります。企業の会計期間も1年なので、1年ごとに見直して軌道修正するとよいでしょう」

目標達成ロードマップで立てた「TOEIC800点」という目標の場合、「1日10個英単語を覚える」といったような目標を細かく分解していく。このとき、目標をできるだけ数値化することがポイントだ。そうすると目標に対して今足りていないことがわかりやすく、モチベーションも維持しやすい。

目標を設定した後は、途中で目標を見失ったり、挫折したりしないように、目に見えるところに目標を書いて貼り出したり、周囲に宣言して応援してもらうなど継続できる工夫をしよう。

TOEICの模試を定期的に受けて何点足りないか明らかにするなど、定期的に進捗を確認することも重要だ。

そうして1年後に、立てた目標を考え直す機会を設ける。

「人間は健康状態も気持ちも変わります。1年に一度目標を考え直すことは、自分の心の"潮目"に気づくことだといえるでしょう」

ここで大事なのは、変化に気付いたら勇気を持って目標を切り替えることだ。モチベーションを失ったり、外的要因で達成が不可能になってしまったりした目標にしがみつく必要はない。

「継続は力なりという言葉もあり、1つの目標を追い続ける美徳ももちろんあります。そうして継続できる目標は、本物といっていいでしょう。継続できることも1つの才能です。だから、設定した目標が本物かどうか、本気でそこに到達したいのかどうか、1年に一度しっかり見つめ直してみてください。継続しているのに結果が出ない場合は、努力の方法や考え方が間違っている可能性があるので、軌道修正しましょう。

また、今回の新型コロナのように、外的要因で目指すキャリアの方向に進めないような場合も出てくるかもしれません。そのために選択肢を複数用意しておくのです。何が変わればまたチャンスがあるのかを見極めつつ、気持ちを切り替えていくことが重要です」

他方、ワンイヤー・デザイン法はリーダーが部下の適材適所を考えるときにも使える。「これを1つのツールとして、今部下は何ができていて、何ができていないのか、将来何をしたいのか、相手の心にしっかり寄り添ってほしい」と寿山氏はアドバイスする。

「目標は立てるだけでは、当然達成できません。そこに到達するためにどうすればいいのかを考え、ゴールに向かって進んでいく必要があります。苦労して達成した目標は自分だけの強みになるでしょう。

さらに、次の目標を見いだしたときも、自分で自分の背中を押して進んでいくことができるはずです。1年ごとに目の前の目標を1つひとつクリアしていくことで、目標達成のために必要な能力を身につけることができるでしょう」

Profile

寿山泰二氏

寿山泰二氏
阪南大学国際コミュニケーション学部 教授

神戸商科大学大学院経営学研究科修士課程修了。
兵庫教育大学大学院学校教育研究科修士課程教育臨床心理コース修了。武庫川女子大学大学院臨床教育学研究科博士後期課程修了。博士(臨床教育学)。民間企業、会計事務所などを経て、阪南大学国際コミュニケーション学部教授、キャリア委員、インターンシップ委員、税理士、CFP、臨床心理士、学校心理士、シニア産業カウンセラー、キャリアコンサルタント。