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ゴールに向かって突き進む機動力と柔軟性
―トルコに見る働き方―

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2026.04.14
ゴールに向かって突き進む機動力と柔軟性―トルコに見る働き方―

欧州や湾岸諸国、中央アジアの狭間に位置し、ものづくりの国として独自の産業を持つトルコ。新しいものに挑戦する意欲にあふれ、高い機動力と柔軟性を持つという。トルコの人々はどのように働き、仕事に対してどんな価値観を持っているのか。2020年から5年間、ジェトロのイスタンブール事務所に勤務した友田椋子さんに話を聞いた。

長い歴史を持つものづくりの国

――トルコのビジネスを取り巻く環境について、特徴を教えてください。

トルコの人口は9000万人弱で、国土は日本の倍ほどの広さです。イスタンブールに1500万人が暮らしており、国内のGDPの約3割を占めています。一極集中が進み、イスタンブールが経済の中心ではありますが、人数でいえば地方で暮らす人々の方が圧倒的に多いため、イスタンブールだけを見てトルコ全体を語ることはできないと思っています。イスタンブールと地方とでは人々の暮らしも働き方も大きく異なっており、都市部と地方との地域格差が課題になっています。

ビジネスを取り巻く環境としては、トルコ通貨の「リラ」が不安定な状況にあります。私がトルコに渡航した2020年は1ドル約7.5リラだったのが、2025年現在は1ドル40リラほどになっており、それに伴いインフレが激しく進行しています。中心部での例として、日本円換算で500円程度だった外食時のランチ代が、2025年には2000円を超えるような体感値でした。

物価がどんどん上がっていくため、最低賃金の改定も年1回では追いつかず、年度の途中に臨時で賃金改定が行われることもありました。リラの価値が下がっているので、給与を受け取ったらすぐにドルやゴールド(金)に換える人もいます。トルコはEU(欧州連合)にとっての生産拠点のような位置づけが強く、少し前までは勤勉な働き手が低コストで働く国という印象でしたが、今は賃金が上がり人件費の安い国ではなくなっているといえます。

――トルコの主要産業はどんなものでしょうか。

繊維から自動車部品、家電など製造業が盛んで、ものづくりに長い歴史を持つ国です。海外から部品などを仕入れ、加工することに長けています。最近では、国産メーカーTOGG(トッグ)による電気自動車も開発されました。充電ステーションに補助金を出すなど、国をあげて力を入れています。

多角化経営をしている大手の財閥系企業もありますが、中堅・中小企業も多く、最近では若者たちによるFintech(フィンテック)やゲーム、食品デリバリーなどIT系スタートアップ企業も勢いがあります。

――インバウンド産業はいかがですか。日本企業も進出しているのでしょうか。

トルコの人口や経済の規模から考えると、進出日系企業数や在留邦人数は意外と少ないという印象を持たれることが多いです。トルコに在留している日本人は1700人程度で、日系企業の数も約300社に留まっています。理由のひとつとして、「1:5」の規制が挙げられます。トルコでは、外国人雇用1人につき、トルコ人を5人雇用しなければならない法律があるのです。この1:5の規制が、海外から人財を送り込むことが難しくなっている1つの要因といわれています。

日本から見ると、トルコは中東諸国の1つというイメージを持つと思いますが、産業の面ではアラブの湾岸諸国とは一線を画す製造大国です。政府としても自国の産業を守りたいという思いが強くあるのだと思います。

最初から完璧を目指さず、瞬発力と柔軟性でプロジェクトを成し遂げる

――トルコの企業に勤めるビジネスパーソンたちは、どのような働き方をしていますか。

企業で働く人たちは、マネジメント層と工場のライン作業を担うなどの現場の働き手とに大きく分かれており、その賃金格差は拡大しています。

ジョブの内容に沿って雇用されるジョブディスクリプション型で、人財の流動は激しく、同業種で転職をしながらキャリアを積むケースもよくあります。欧州などの海外や他の企業で働いてスキルや経験を磨いたのち、以前の会社に戻るケースもあります。現場の働き手がスキルを高めてマネジメント層に昇進していくこともあります。

日本より若者が多く人財は豊富ではありますが、高度人財の採用は取り合いが激しくなっています。広いコネクションを持つ人が人気のある会社に入社できるような文化もあります。また、企業は宗教への配慮が求められます。イスラム教徒も多く、ムスリム(イスラム教徒)の社員のために労働時間内にお祈りの時間を確保したり、ラマダン(断食)の時期は、イスラム教徒でない人は目立たない場所で食事したりと、宗教に対して配慮する文化が当たり前に根付いています。

労働者による訴訟も多く、雇用者を守る制度は整備されています。例えば日本では有給休暇を使い切れないまま期限切れで消滅するケースもありますが、トルコでは使わない分は消えずに積み上がっていき、きちんと取得、あるいは企業側が買い取る文化があります。

コロナ禍以降、テレワークも進みました。イスタンブールは人口が集中しているうえ、自家用車で通勤する人が多く都市部の渋滞がひどいので、混雑を避けるためにテレワークをする人も多いですね。Wi-fi環境は整っているので日本と同様、オンライン会議やチャットシステムを使って在宅ワークをしています。

――仕事に対する価値観や働く姿勢はいかがですか。

マネジメント層と一般社員とで異なりますが、現場で働く一般社員は勤勉で残業もいとわないため、周辺国と比べると「トルコの人はよく働く」と評価されています。生活のために仕事をするという意識もありますが、長い歴史のある産業に携わることに自信と誇りを持って働いています。

リラが不安定でビジネス環境の変化も激しいため、瞬発力に長けているところも特徴だと思います。前述した電気自動車も、政府が号令をかけてから驚くほど短期間で開発が進みました。

権威主義が根付いたトップダウンの組織が多い傾向にあり、トップから号令がかかったら、とにかくやる。そのスピード感や機動力には目を見張るものがあります。マネージャーに昇進すると自己主張をする人も増えますが、現場の実働部隊は基本的に従順に指示に従います。

プロジェクトの途中で方向性が変わったり、間違いに気付いたりした場合も、手を動かしながらその時々の最善を尽くし、最後には帳尻をきちんと合わせるしなやかさがあります。私もたびたび「今回はさすがに無理だろう」という局面を見てきましたが、いつも最後にはしっかり仕上げるのがトルコ人です。最初から完璧を目指さず、走りながら考えていくスタイルで、柔軟性に長けているからだと思います。

コネクションを駆使できるのも強みで、必要とあらばすぐ人と連絡をとり、周囲を巻き込みながらうまく動いていきます。

トルコの街中の風景 レストランや階段で寝る猫の家族

日本のドラマのリメイクが人気

――女性の社会進出はいかがですか。

イスタンブールでは働く女性が多いのですが、産休は最初の数カ月しか国の給与保障がないため、1年を待たずに職場復帰を選ぶ女性も多いです。食事は手作りが基本で、レトルト食品を売っている店も日本と比べるとかなり少ないのですが、大家族で暮らす家庭が多いので、家族の力を借りながら育児をしています。

ただ、最近では晩婚・少子化の波がトルコにも押し寄せており、少しずつですが核家族化も進んでいます。地方では信仰のあついムスリムの家庭も多く、専業主婦の女性も都市部と比べると多い印象です。また、就学率や就職率がエリアによって異なるのがトルコの実態かと思います。

――コンテンツビジネスも人気と聞きました。

主要な娯楽がテレビで、家族揃ってテレビを見る文化が残っています。自国のコンテンツはもちろん、Netflixなどで世界のコンテンツが見られるようになった影響もあり、近年コンテンツビジネスはさらに盛り上がっています。韓国ドラマや日本のアニメもよく見られています。年配の人からよく聞く日本の印象は「トヨタ」や「ソニー」ですが、若者たちに聞くと「NARUTO(ナルト)」や「ポケットモンスター」が多く挙げられるのも、人気の表れだと感じます。

自国でのコンテンツ制作にも歴史があります。実はトルコはアメリカ、イギリスに次いで世界で3番目にドラマ制作本数が多い国といわれており、年間約150カ国に番組を輸出しています。トルコのドラマは1話2時間ほどと長めですが、人気が出ると30~40話以上の長編エピソードまで続きます。アジアのドラマはトルコとは文化や言語も違い、さらに1話60分程度でトルコの人にとっては短いということで当初はあまり注目されていませんでしたが、ドラマへのニーズが高い国なので優れた脚本への需要が出始め、近年では海外ドラマのリメイク版が盛り上がっています。韓国、イギリスに次いで、日本のドラマのリメイク版も注目され始めています。

――今、コンテンツ分野では生成AIの活用も注目されていますが、トルコのビジネスの中で、AIはどの程度使われていますか。

先日開催された大規模なドラマの展示会では、AIドラマが発表されていました。今後、映像技術やキャラクターの画像生成、ストーリー作成の補助などにAIが使われる場面が増えるのではと思います。新しい技術を実験的に取り入れることに抵抗が少ない国民性なので、商機があると思ったらすぐに試せる文化があります。

工場の自動化も大きなテーマです。現状、トルコの平均年齢は約34歳と日本よりまだまだ若く、人手は足りているかもしれませんが、製造業や建設業といった現場作業への若者たちからの人気はやや下がっているようです。ロボットアームにAIのソフトウエアを組み込んだ検品システムなど、日本企業の自動化装置も取り入れられていますので、日本企業にとってはチャンスだと思います。

――改めて、友田さんが考えるトルコの魅力は何だと思われますか。

トルコの強さはやはり瞬発力と柔軟性です。ダイナミックな動きとエネルギーは、日本も見習う余地があると思います。石橋をたたかずダッシュで渡り切るトルコ人と、石橋をたたきながら慎重に渡る日本人。お互いの強みをかけ合わせれば、良いビジネスが生み出せるのではないかと思います。

イスタンブールの風景

 

Profile

友田椋子氏

友田椋子氏
日本貿易振興機構( JETRO:ジェトロ) デジタルマーケティング部コンテンツ課

2014年、日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。農林水産・食品部、アトランタ事務所、熊本貿易情報センターを経て2020~2025年にイスタンブール事務所にビジネス開発部長として勤務。食品業界やコンテンツ業界を中心に、日本企業のトルコ進出支援などに携わる。現在はデジタルマーケティング部コンテンツ課所属。