人財 組織 「怒りの感情」に向き合うことが、アンガーマネジメントの第一歩

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2019.08.28

ストレス軽減・メンタルヘルスの向上がすべての従業員に求められるなか、ストレスと向き合い、前向きな力に変えていく対処法として注目されているアンガーマネジメントについて、臨床心理士の関屋裕希氏に話を聞いた。

怒りを予防し、適切に扱うメンタルトレーニングとして注目されているアンガーマネジメント。職場のメンタルヘルスに詳しい、臨床心理士の関屋裕希氏も、カウンセリングを担当する企業内健康管理室でのニーズの高まりを実感するという。その理由を次のように考察する。

「怒りっぽい人が増えたというわけではなく、ダイバーシティが推進されたことが影響していると考えられます。

ここ数年、職場では、さまざまなバックグラウンドや雇用形態が異なる人たちと協働するようになりました。それにより多くの人は、多様な考え方や価値観に遭遇し、人間関係の摩擦が生じる環境で働いているといえます。

そういった現代の職場において、環境自体を変えることは難しいけれど、イライラやモヤモヤを抱えたまま過ごすよりは、心身ともに健康的に過ごしたい。こういったニーズから、働く人のアンガーマネジメントへの関心が高まっていったのでしょう」

即効性がある5つのクールダウン法

「職場では声を荒らげたくない」「イライラを表に出したくない」という人には、関屋氏はアンガーマネジメントのなかでも一般的な手法として知られる「クールダウン法(図1参照)」を推奨する。

「怒りの感情が表に出やすい人には、即効性のある対処法が有効です。なぜなら、なかには、怒りを表に出してしまった自分をキャパシティが小さいと責めてしまい、それが引き金となりうつなどの二次的な問題を引き起こしてしまう場合があるからです」

クールダウン法を実践し、自身で怒りを制御できるようになれば、健康なメンタルを保ちやすくなると、関屋氏は語る。

図1 怒りを抑える5つのクールダウン法

  概要 カッとなったその場で使える 怒りがなかなか消えないときに使える
呼吸法 鼻からゆっくり息を吸って、口からゆっくり吐く。吐くときに時間をかけるのがポイント
漸進的筋弛緩法 ぐっと体に力を入れて、5秒間筋肉を緊張させた後、体をゆるめる ×
カウンティング カッとなって怒鳴ったり、机を叩く前に、10秒数える。口に出しても、心の中で数えてもOK ×
イメージ法 自分の気持ちが和らぐイメージを準備して思い出す。実在するイメージでも、空想のイメージでもOK
リマインダー法 「短気は損気」など、自分の怒りが和らぎそうな言葉を準備して、言い聞かせる

POINT 関屋氏は5つのクールダウン法すべてを覚える必要はないと説く。「カッとなったその場で使えるもの」「怒りがなかなか消えないときに使えるもの」を各々一つ、職場環境に応じて選ぶといいそうだ。

そのほか、職場で多くみられるのは、怒りを「なかったこと」にして押さえ込んでしまう人たちだ。

本人も気づかぬ間に、偏頭痛、腹痛、動悸などの体調面の問題や、過食、衝動買いなどのような行動面の問題を抱えてしまうことがあるため、そういう傾向にある人たちは、怒りの感情がどこから来るのか、自身と向き合うことが必要だと関屋氏は助言する。

「怒り」は悪者ではない。大事なものに気づくチャンス

「ポジティブ心理学の視点から『怒り』を捉えると、怒りは悪ではなく、人間にとって必要な役割を担っていることがわかってきました。怒りは、自分が大切にしている何かが傷つけられることで生じます。

たとえば、一生懸命取り組んだ仕事に理由もなしにダメ出しされたら、誰だってショックを受け、『なぜなのか?』と相手に腹を立てるでしょう。そういうときは、怒りの感情がどこから来たのかに目を向けてみてください。

すると、仕事に真面目に取り組んでいたからショックを受けた自分に気づくことができるはずです。『一生懸命取り組んだのだから腹が立つのは自然なこと』と怒りを感じた自分をポジティブに受け入れることができれば、『また頑張ろう』というエネルギーが湧いてくるでしょう。

このように、怒りの感情を自分なりに論理的に解釈して、根本から鎮める方法もアンガーマネジメントの手法の一つです」

怒りを「自分の大切なものに気づかせてくれる存在」とポジティブに捉えることによって、自身の大事なものを守るためには具体的にどのような行動が必要なのかを考えることができると関屋氏は言う(図2参照)。自身の怒りの感情をポジティブに解釈して行動へつなげるためのヒントにしてはどうだろうか。

図2 大事なものを守るための行動

怒りを感じた状況 大事なもの 大事なものを守るための行動アイデア
上司が曖昧な指示や情報不足の指示を出した挙句、後から細かくダメ出しをしてくる
  • 自分が取り組んだ仕事
  • 仕事にかかった時間
  • 指示が曖昧だった場合には、具体化する質問をする
  • 6割できたところで、一度見てもらう
会議で、自分の出した企画書に複数の人から否定的な意見を言われた
  • 企画を通すこと
  • その場では、冷静に回答する
  • 後で否定的な意見に反証できるだけの情報を収集する
後輩が上司から理不尽なことを言われている
  • 目をかけている後輩
  • 後輩の話を聴いて励ます
  • 上司との仲介に入る

Profile

関屋裕希氏
臨床心理士。博士(心理学)
東京大学大学院医学系研究科 精神保健学分野 客員研究員

早稲田大学第一文学部心理学専修卒業、筑波大学大学院人間総合科学研究科発達臨床心理学分野博士課程修了後、2012年より現所属にて特任研究員として勤務。専門は産業精神保健(職場のメンタルヘルス)。業種や企業規模を問わず、ストレスマネジメントに関する講演、企業の組織的なストレス対策に関するコンサルティング、執筆活動を行っている。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)がある。