組織 人財 予測不可能な時代に求められるのは"自分軸"を持つリーダーシップ

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2020.08.17
レジリエンスを高めるU理論に基づく「オーセンティック・セルフ」とは?

自分の内面によりどころを持ち、真心を持って人と接することができるようなリーダーになるためには、「自分軸」が必要だ。自分軸とは、「自分が何をするべきか」を考える指針となるものであり、オーセンティック・リーダーシップの土台となる。新型コロナウイルスのパンデミックによる影響など、予測不可能な時代だからこそ、自分軸はより重要になる。ではどうすれば自分軸を持てるようになるのか。
グローバル企業を対象にリーダーを育成するウーマンズリーダーシップインスティテュート代表取締役の川嶋治子氏に聞いた。

経済的に豊かになり、成熟した現代社会では、働く目的が以前とは変化している。高度経済成長期には人々は生活や所有のために働いていたが、今は仕事によって自己実現を目指すようになった。このような時代には、「部下にただ指示命令する一方通行のリーダーシップでは、人は動かない」と川嶋治子氏は語る。

川嶋氏は日本でまだ「オーセンティック・リーダーシップ」という言葉がなじみのない時期から、「自分軸のリーダーシップ」という言葉を用いながら多くのリーダーを育成してきた。川嶋氏が提唱する、自分軸を身に付けるための3つのステップを説明しよう(図1参照)。

図1自分軸を持つリーダーシップを育む3ステップ

1

強みと弱みを分析

オンライン診断ツールを使い、自身の強みを診断する。ひっくり返すと強みは弱みになる。これまで自分が気づかなかった行動や思考の傾向が見えてくる。子どもの頃からアイデンティティを問われる海外の人とは違って、内省に慣れていない日本人にはこれらのツールを入り口にすると自己を客観視でき、自己理解が進みやすい。

2

価値観の探求

自分が「快適だと思うもの」「不快だと思うもの」を書き出してみる。「人と話すのが好き」「一人で黙々と作業するのが好き」など、仕事の枠を取り払い、自分が感じるままに書き出すのがポイント。一人の人間として、大事にしているあり方や価値観が見えてくる。自分の価値観が書き出せたら、周囲の人ともシェアしてみよう。

3

パーパス(目的)を掘り下げる

自分は何のために仕事をするのか。その「パーパス (Purpose)」を探る一つの方法は、自分が最も影響を受けた、尊敬する人物(実在していない歴史上の偉人でもOK)を3人書き出す。その人のどこをリスペクトしているのか、考え方や実績を探っていくと、共通点が見えてくる。その共通点が自身のパーパスを見つけるヒントになる。

出典:ウーマンズリーダーシップインスティテュート株式会社 川嶋治子

専門の診断ツールを使い強みと弱みを分析

最初のステップは、自分の強みと弱みの分析だ。川嶋氏の育成プログラムでは、先天的な強み・弱みを診断するツールとして、一般社団法人 日本適性力学協会が提供している「タレントダイナミクス」を使用している。オンラインで設問に回答することで、自分が持っている才能や思考傾向、行動傾向が診断できる。

「日本人は自分のアイデンティティと向き合うことに慣れていません。入り口としてアセスメントツールを使うことで、内省のきっかけを作っています」と川嶋氏は説明する。この診断により自己を客観視できるようになるという。

「快」「不快」を書き出し価値観を探求する

次のステップは価値観の探求だ。価値観の探究の入り口として、まず自分が感じる物事の「快」と「不快」を箇条書きにしていく。

「ここでは仕事の枠を取り払って考えてください。人の笑顔が好き、物を手作りするのが好きなど、どんなことでもOK。人が大事にしている価値観や人生観は、プライベートでも仕事でも根源は同じ。頭で考えすぎず、感覚や自分のハートで感じながら探ってほしい」

この作業により自分が大切にしている価値観の傾向が見えてくる。他人ともシェアをすると相手の価値観の傾向も知ることができ、自己受容とともに、自分とは違う価値観を認める「他者受容」もできるようになる。

自分は何を成し遂げたいか仕事のパーパス(目的)を探す

続いてのステップは「パーパス(目的)」を掘り下げること。ここからは仕事に絞り込んだ作業になる。「自分が最も仕事の充足感ややりがい、生きがいを得られるもの」がパーパスだ。誰のことを思い、何を成し遂げたときが最も喜びを感じるのか、自分の内面と対話していく。

このときヒントになるのが「パーパスレベル」だ。レベルには7段階あり、「個人」「家族」「友人・知人」「組織」「業界」「国」「世界・地球規模」と仕事によって成し遂げたいレベルがそれぞれ違う。世の中には「家族のために働きたい」と考える人もいれば、「世界・地球規模でビジネスをしたい」と考える人もいるだろう。グーグルやアップルなどグローバル企業の経営者は、間違いなく「世界・地球規模」のパーパスを持っている。

川嶋氏は「年齢を重ねることでパーパスレベルが上がるとは一概にはいえない」と話す。実際、新入社員の時期から地球規模のレベルで仕事をする人もいれば、課長や管理職になっても家族レベルの人もいるという。

「私が提供するパーパスの研修で成果が出るのは、本部長以上の場合がほとんど。実際にリーダーとなって部下と向き合い、もがき苦しんだ経験から内省しパーパスが磨かれていくことも多いのです。でも、最初からリーダーだった人はいません。予備軍の若い人たちも、目の前の仕事に集中し、自分の人生を歩みながら、やがてリーダーとして開花していくプロセスを踏めるときがきます」と川嶋氏はエールを送る。

さまざまな視点で物事を捉える訓練を

リーダー予備軍の若手社員にも、今のうちから準備できることはあるという。それは「視座」を高める訓練だ。図2 にある人称ピラミッドは、自分が仕事をするうえで見えている世界を表している。

図2組織を俯瞰するための人称の相関図

1人称の自分目線でしか物事を見ていない人には、それより上の世界は見えないが、55人称の業界目線で物事を見ている人は、自分より下の世界はすべて見えている。自分にはまだ見えていない世界があるかもしれないと想像し、人と会話をしたり世の中のニュースを見たりすることが、視座を高める訓練になる。

画像

出典:日本経営教育研究所 石原明『すべてが見えてくる飛躍の法則』(アスペクト)

一般社員が2人称の目線なのに対し、経営者は5 人称の業界目線で仕事をしている。1人称の人に5人称の世界は見えないが、5人称の人は自分より下の世界はすべて見えている。

「リーダー予備軍は、世の中には自分には見えていない高い目線や広い視野があると意識しながら人の話を聞いたり、報道を見たりすることをおすすめします。自分の目線では文句を言いたくなるような経営層の意思決定にも実はもっと高い視野からの意思決定や配慮があるのでは、と考えることで、視座が高くなっていきます」

今回紹介したステップのように、自己との対話により育てていく自分軸のリーダーシップは、能力や資質ではなくマインドセットなので、本人の取り組み方次第で誰もが身に付けることができる。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、これまで以上に世の中は不確実性を増している。

「不確実性が高く予測不可能な時代には、なおさら自分軸を持つリーダーが求められます。多くの人が不安を感じ、安定感・確実感、愛・つながりを求めています。どこかの国同士が争い合う戦争と違って、今は世界中が同じ敵に相対している。これからはグローバリゼーションが進み、人と人との隔たりがなくなっていくはず。

自分とは人種や価値観が違っても、慈しみや思いやり、人としての柔らかさを持ち、人の痛みを理解できるリーダーシップが求められていくでしょう」

Profile

川嶋治子氏

川嶋治子氏
ウーマンズリーダーシップインスティテュート株式会社 代表取締役
組織変革コンサルタント/リーダーシップ開発専門家

10年以上にわたり上場企業経営幹部のリーダーシップ開発を手がける。企業経営者、官公庁・上場企業・多国籍企業の経営幹部1万人以上の指導実績を持つ。世界基準のリーダー育成を日本で展開することをミッションとし、欧州のグローバル企業役員や女性役員育成専門機関の日本代表を務めた経験をいかし、海外の先進事例と日本市場固有の課題解決を融合したコンサルティング・プログラム開発を得意とする。