働き方 組織 仕事の未来 インタビュー・対談 意志をもってキャリアを描く。新しい時代にふさわしい働き方をつくるために

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2021.10.20
スペシャル対談 意志をもってキャリアを描く。新しい時代にふさわしい働き方をつくるために

コロナ禍以降、働き方やキャリア形成のあり方があらためて見直されるようになっています。先の見通せない時代にふさわしいワークスタイルやキャリアの描き方とはどのようなものなのでしょうか。グループ社員33万人を抱える巨大企業であるNTT副社長の島田明氏と、Adecco Group日本代表の川崎健一郎が、新しい働き方をつくるためのチャレンジについて語り合いました。

自分の意志でキャリアを描く時代に

川崎

VUCAといわれる変動の激しい時代を迎え、さらに昨年からのコロナ禍の影響もあって、働き方が大きく変化しています。それに伴い人々のキャリア観も変化しているように感じます。島田さんは現在の変化をどのように見ていらっしゃいますか。

島田

コロナ禍のなかでリモートワークが増えたことで、自分のキャリアをじっくり考える機会が増えた人が多いのは確かです。しかし、どの方向に向かえばいいのかといった判断は、なかなか難しいのが実情だと思います。

会社としても、先を見通した人財育成が非常に難しくなっています。これまでは、中長期的な戦略を立てて、それに合った人財を育てていけばよかった。しかしこれからの時代、どういうスキルや経験が本当に役に立つのかはわかりません。一つの方向に向かった人財育成は、会社と社員の双方にとってリスクになります。多様なキャリア形成が必要になってきているように思います。

川崎

おっしゃるように、コロナ禍において、自分の働き方、さらにいえば生き方について考える人は間違いなく増えていると思います。一方で、変化を求めていない人もまだまだ多いという事実もあります。社内調査でも、ライフビジョン、つまりこれからの自分の生き方を明確に言語化できる人は6割程度にとどまっています。そこで私たちは、社員が自らライフビジョンを考える仕組みをつくって、意識変革を促す取り組みを昨年から始めました。ビジョンは会社が与えるものではなく、自発的に描いていくものである。そんな意識を浸透させたいと思っています。

島田

自発性はとても大事ですね。私は以前、アメリカのグループ企業で働いたことがあります。アメリカの人たちは、まず自分がどこに住みたいかという意志があって、それを踏まえて自分のスキルに合った仕事を探すのが普通です。かたや日本の場合は、住む場所も仕事の内容もすべて会社が決めるという時代が長く続いてきました。しかしこれからの時代は、川崎さんがおっしゃるように、自分の意志で自発的にキャリアを描いていかなければなりません。

川崎

社員が自発性を持って、やりたい仕事に打ち込めるようになれば、会社全体の生産性やクリエイティビティは間違いなく上がります。会社がやるべきことは、社員の「やる気スイッチ」をオンにして、モチベーションを上げる支援をすることだと思っています。

課題発見力は「仕事をつくり出す力」

島田

新しいことを生み出すには、意志と意志のぶつかり合いが必要です。会社のなかに自立した人が増えるということは、意志と意志がぶつかり合う機会が増えるということです。会社としては、一人ひとりの意志を尊重し、できるだけ希望に合ったポジションを提供すること。それから社内に閉じたスキルではなく、社会で広く通用する汎用的スキルを身につけるサポートをすること。その2つが大切だと思います。

川崎

汎用的なスキルがあれば、自分の力で生きていくことができますからね。私たちは、そのようなスキルを「3スキルセット」と定義しています。「内発的動機を高める力」「問題解決能力」「デジタルリテラシー」──。その3つが必要であるという考え方です。

モチベーションには内発的なものと外発的なものがありますが、より持続するのは内発的モチベーションです。それは本人のなかから生み出す以外にありません。では、それを生み出すにはどうすればいいか。私たちは、キャリアコーチングの仕組みを使って、それぞれの内面にある意志や欲求を引き出す手伝いをしています。質問を繰り返し投げかけることによって内面と向き合ってもらい、モチベーションが生まれるのを根気強く待つのが最良の方法であると私たちは考えています。

2つめの問題解決能力は、自ら課題を発見し、それを解決できる力を意味します。私たちはそれを「課題解決2.0」と呼んでいます。3つめのデジタルリテラシーは、デジタルテクノロジーを利用する力です。その力は、これからの社会人のいわば「読み・書き・そろばん」になるはずです。

島田

課題を発見する力は、これからの時代に非常に重要になると思います。課題発見力とは、仕事をつくり出す力にほかならないからです。お客さまの課題を見つけて、その解決を支援する。それが仕事の本質です。そのような力を身につけるには、いろいろなバックグラウンドをもった人たちと接し、知識を得て、勘を磨くことが必要です。

川崎

おっしゃるとおりですね。本質的な課題さえわかれば、ソリューションを考えるのはそれほど難しいことではありません。Adecco Groupのグループ会社であるModis VSNでは、10年以上前から、エンジニアが顧客の課題を発見して解決策を提案するバリューチェーンイノベーターというサービスを提供してきました。その考え方をグループ全体で実践しようというのが「課題解決2.0」です。

本質的な課題を発見するには、ロジカルシンキングだけではなく、島田さんがおっしゃる勘、あるいは直観力を鍛えるためのデザインシンキングが必要です。ロジックだけに頼るのではなく、相手に徹底的に共感し、痛みや悩みを感じ取り、そこから仮説を組み立てていく。そこまでのスキルを身につけようというのが「課題解決2.0」の考え方です。

島田

課題を見出す力の基礎となるのは知識ですが、知識にはおのずと限界があります。ノーベル経済学賞を受賞したカーネギーメロン大学のハーバート・サイモンは、それを「限定された合理性」と表現しています。身につけた知識をもとに合理的判断をしたとしても、その判断が必ずしも合理的でない場合がありうるということです。

「限定された合理性」を補完するのは、経験であり、ほかの人の知恵だと私は考えています。お客さまやビジネスパートナーとのコミュニケーションを通じて、知恵を授かり、経験を積んでいくことによって、本質的課題を見出す力が磨かれる。そんなふうに思いますね。

ジョブ型雇用制度のメリットと課題

川崎

NTTグループは、昨年からジョブ型雇用の働き方を導入されましたね。その狙いをお聞かせいただけますか。

島田

グループの主要会社すべての上位管理職のおよそ半数が2020年からジョブ型雇用に移行し、さらに2021年の10月からは全管理職がジョブ型雇用になります。これによって、在職年数などの要件がすべてなくなり、求められるスキルがあれば年齢に関係なく上位のポジションに就くことができるようになりました。

私たちが目指したのは、チャレンジするマインドを社内に根づかせることです。挑戦する意志さえあれば、誰でも上のポジションを目指すことができる。だからどんどんチャレンジしてほしい──。そのような会社の思いを伝えるための制度改革です。

川崎

Adecco Groupも、2021年4月から全社員がジョブ型雇用に移行しました。また、就業経験のない入社したばかりの若手社員を課長クラス、部長クラスのポジションに任用するという新しい試みも行っています。5年、10年働かないと責任ある立場に就くことはできない。そんなこれまでの常識を覆すための試みです。当初は社内に波紋が広がりましたが、やってよかったと思っています。若い人たちは発想が新しいし、デジタルリテラシーも極めて高い。ポジションに求められるレベルに見合った能力をもっている。ほかの社員たちもそう納得してくれています。

島田

新しい人事制度を入れること自体は難しいことではありません。大変なのは、それを運用していくことです。新しい仕組みを機能させるためには、思い切った制度活用が求められます。その点で、能力のある若い社員をマネジメントのポジションにつけるという試みは大いに意味があることだと思います。トップダウンで制度に「魂」を入れていくことが時には必要です。

川崎

ジョブ型雇用を導入してからの1年間で見えてきた課題はありますか。

島田

ジョブ型雇用を入れるということは、定期人事という考え方がなくなるということです。そのポジションに見合った仕事ができる人はそのまま働き続けられるし、そうでない人は別のポジションに移ることになります。

問題は、降職になるケース、あるいはポストオフになるケースをどう考えるかです。ジョブ型雇用の制度では、例えば部長職から課長職への降職が起こり得ます。役職が下がったなら、本人が努力をしてもう一度上の役職を目指せばいいというのが私の考えです。一方、ポストオフ、つまり役職がまったくなくなってしまった人に対しては、何らかのキャリア支援が必要になると思います。

アメリカでは「Up or Out」、つまり、その会社での昇職、昇給が見込めないならば、別の会社に行けばいいという考え方が基本です。日本では、まだそこまで振り切るのは難しいでしょう。チャレンジの機会を会社が提供することが、ある程度は必要だと思います。

川崎

Adecco Groupでも、ジョブ型雇用制度の導入にともなって、処遇が下がってしまう社員が15%ほどいました。当人からすれば大変ショックだったと思いますが、丁寧にコミュニケーションをし、移行期間を設けながら、次のステップにチャレンジするための支援を提供しています。

ジョブ型雇用制度を導入するならば、同時にジョブディスクリプションと現在のスキルとのギャップを埋めるための研修メニューを用意することが必須だと私は考えています。グループ内には、各種研修コンテンツが600以上ありますが、今後も拡充していく予定です。もっとも、コンテンツの多さに対し、利用率は必ずしも高くはありません。サポートをどれだけ手厚くしても、最終的にはやはり一人ひとりの内発的動機がなければならないと感じています。

ジョブ型雇用には課題もありますが、仕事と処遇のギャップがなくなったことは明確なメリットといっていいと思います。自分の仕事に求められる要件は何で、それ以上の処遇を求めるには、どのような努力が必要か。その点が非常にわかりやすくなりました。

島田

逆にいえば、自動的に処遇が良くなることはないということですよね。自分が希望するポジションに就きたいという意志があって、そこに向かってやるべきことをやらなければ、キャリアアップはありません。そのマインドセットが浸透しないと、ジョブ型雇用制度はうまくいかないと思っています。もちろん、管理職のパフォーマンスを評価するさらに上位職の人たちのマインドも変わらなければなりません。私たちは、今回の制度変更に移行期間を2年ほど設けています。その2年の間に社員のマインドをどれだけ変えられるかが勝負ですね。

「専門性」の再定義が必要になる

川崎

Adecco Groupには、社内にキャリアコンサルティングのプロがいます。今年に入ってから、サービスとしてだけではなく、社員にもコンサルティングをしてもらう仕組みをつくりました。いわば社内副業です。もちろん副業手当も支給しています。NTTグループでは副業を許可されていますか。

島田

許可制での副業を一部認めていますが、むしろ推奨しているのは、社内の別部署で働くスタイルの副業です。まずは、それぞれの会社のなかで通常とは異なる仕事を体験することによって、経験値を上げてもらおうと考えています。

川崎

副業をすることのメリットは、物事を俯瞰する力が身につけられることです。一つの仕事の範囲だけを見るのではなく、複数の仕事を体験し、いろいろな知見をもった人とコミュニケーションをとって視野を広げることができれば、その成果は必ず本業に生かされるはずです。

島田

ええ。今後は日本でも副業を認める会社が間違いなく増えていくでしょうね。

川崎

NTTはKDDIと共同で、就職氷河期世代を対象とした就労支援プロジェクトを2021年2月にスタートされました。私たちAdecco Groupも、このプロジェクトにキャリアコーチングと教育プログラムを提供させていただいています。業界のトップ企業2社がタッグを組んだ素晴らしい取り組みですね。

島田

第一期募集に対しておよそ8,300名超の方々が応募し、全員にリモートワーク研修と社会人基礎研修を受けていただき、そのうち500名が能力開発プロジェクトの対象になりました。その人たちに資格取得などのチャレンジをしてもらい、就職の機会を提供するという流れになります。

川崎

プロジェクトでは数百名以上の雇用を創出する予定だそうですね。このプロジェクトを始め、ジョブ型雇用制度の導入、副業の推進など、グループ社員30万人を超える巨大企業であるNTTが社会的意義のあるチャレンジを続けていることは、多くの企業の経営者や人事担当者を間違いなく勇気づけていると思います。ぜひこれからもチャレンジを続け、私たちを鼓舞し続けてください。

島田

今後、ジョブ型雇用の働き方が広がっていくと、専門性の再定義が必要になってくるはずです。また専門分野をあらためて整理することも必要でしょう。人財ビジネスのプロフェッショナルであるAdecco Groupの皆さんに、その取り組みをぜひ先導してほしいと思います。新しい働き方の形を共につくっていきましょう。

Profile

島田明氏

島田明氏
日本電信電話株式会社 代表取締役副社長 副社長執行役員

1957年生まれ。1981年日本電信電話公社入社。1996年NTT Europe Ltd.代表取締役副社長。2007年西日本電信電話株式会社 財務部長、2011年東日本電信電話株式会社 取締役 総務人事部長を歴任。2015年日本電信電話株式会社 常務取締役 総務部門長に就任。NTTグループ全体の人事、総務等の統括業務を経て、2018年10月から代表取締役副社長に就任。現在、同社代表取締役副社長 副社長執行役員を務める。

川崎健一郎

川崎健一郎
Adecco Group日本代表

1976年生まれ、東京都出身。1999年青山学院大学理工学部を卒業後、株式会社ベンチャーセーフネット(現 株式会社VSN、以下「VSN」)入社。2003年事業部長としてIT事業部を立ち上げる。常務取締役、専務取締役を経て、10年に代表取締役社長&CEOに就任。2012年、VSNのAdecco Group入りに伴い、アデコ株式会社(以下「アデコ」)の取締役に就任。2014年からAdecco Group日本代表に就任し、アデコの代表取締役社長とVSN代表取締役社長を兼務。