組織 仕事の未来 インタビュー・対談 確かなライフビジョンが「躍動」を生み出す。これからの時代のキャリアとは

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2021.02.26
スペシャル対談 川崎健一郎×廣瀬俊朗氏

人生100年時代を迎え、長期的な視点に立ったキャリア形成が求められるようになっています。いきいきと働き続けながら、確かな成果を生み出していくには、どのようなマインドセットが必要なのでしょうか。元ラグビー日本代表主将で、現在はアスリートの教育・キャリア支援などに取り組んでいる廣瀬俊朗氏を招き、Adecco Group日本代表の川崎健一郎と語り合っていただきました。

人生は一度だけだから、思い切りやってみよう

川崎

廣瀬さんは選手生活引退後、3年ほどで起業されていますよね。現役時代からビジネスをやりたいという思いがあったのですか。

廣瀬

漠然と考えていましたね。でも、具体的にやりたいテーマがあったわけではありません。東芝のラグビーチームのコーチをやりながらビジネス・ブレークスルー大学大学院に通い始めたのは、ビジネスの基礎知識を身につけて、自分なりのテーマを見つけたいと思ったからです。

川崎

確か2019年頃のインタビューで、東芝を退社して起業したのは「人生は一度だけだから、思い切りやってみようと思ったため」とおっしゃっていました。そんなふうに考えるようになったきっかけは何だったのですか。

廣瀬

阪神と東日本。あの2つの震災の経験が大きかったと思います。自然の力で人間の生活がめちゃくちゃになっているのを見て、人は自然に生かされているし、いつ自分の人生が終わるかわからない、だったらやりたいことをやるべきだと考えるようになりました。

川崎

私は中学からバスケットボールを始めて、高校まではほとんどバスケだけの生活でした。だから、高校3年生で引退したときは、これからどうしようとずいぶん悩みました。いい大学に入って、いい会社に勤めるのがいい人生だとみんな言うけれど、それで本当にいいのだろうか。そもそも自分は何のために生きていくのだろうか──。そう考えて、「一度だけの人生だから、自分のやり方で幸せに生きたい」と思うようになったんです。

廣瀬

なるほど。共通するものがありますね。

川崎

ええ、まさに。じゃあ幸せって何だと考えて、出した答えが「時間」でした。バスケはご存じのとおり、時間制限のルールがとても多いスポーツなので、バスケ選手は時間にとても敏感になるんです。時間はすべての人に平等に与えられている唯一のものですよね。その時間を自由にコントロールできるのが、人にとって一番の幸せなのではないかと。では、時間をコントロールできる職業は何か。社長じゃないか。それで人生の最初の目標が「社長になること」になったわけです。

生き方のビジョンが働き方を決める

廣瀬

仕事を選ぶときに自分なりの人生観や目標を持つことはとても大事だと思います。僕が元アスリートの仲間と立ち上げた「アポロプロジェクト」は、アスリートのセカンドキャリア支援を取り組みの1つの柱にしているのですが、とくにフォーカスしているのがマインドセットです。アスリートは、引退したあとになかなか目標を見つけられずに苦しむケースが多いので、自分が何をやりたいのか、どんな生き方をしていきたいのかを一緒に考えていくマインドセットプログラムをつくりました。アスリート経験者にはパワーがあるので、ビジョンさえ定まれば、どんどん行動を起こしていけると思うんです。

川崎

マインドセットやビジョンは本当に大切ですね。日本人には、何のために働くのか、何のために生きるのかといったことを真剣に考えている人が、実は決して多くはないといえます。つまり、ビジョンがないということです。廣瀬さんがおっしゃるように、人生のビジョンがなければエネルギーは生まれません。だからこそ、働く人たちが「ライフビジョン」を見つけ、そこから「キャリアビジョン」を明確にしていく支援をしていきたいと考えています。

廣瀬

ライフビジョンを見つけるということは、目の前の仕事から将来を見るのではなく、「どう生きるか」という目標からバックキャストしてこれからの働き方を決めていくということですよね。僕がラッキーだったのは、現役時代にチームのなかに外国人選手がたくさんいたことです。彼らはみんな、自分の生き方や家族を常に優先していました。選手生活はいつか終わる。でも、その先も人生は続いていく。そこでどう生きていくか──。そんなことを考えるきっかけを彼らからもらったと思っています。

必要なのは「条件」ではなく「ビジョン」のマッチング

川崎

キャリアビジョンを実現するには、本当に自分に合った仕事を選ぶことが重要です。そのマッチングをするのがまさしく私たち人財会社の役割なのですが、これまで人財会社は、基本的に「条件」のマッチングをしてきたと言えます。職種的条件、金銭的条件、時間的条件、場所的条件。それらを軸に人と企業を結びつけることにひたすら取り組んできたわけです。

しかし、これからの時代に必要なのは、「条件」ではなく「ビジョン」のマッチングです。企業側はどんな会社になろうとしているのか。働き手はどんな生き方をしていきたいと考えているのか──。そのビジョンがマッチするということは、本当の意味での適財適所、適所適財が実現するということです。そうすれば、人は持てる力を最大限発揮することができます。その「人財の躍動化」が世のなかを元気にし、さらには日本全体の生産性を上げていくことにもつながるはずです。私たちはこれからの5年間でそんなチャレンジをしていきたいと考えています。

廣瀬

「躍動」はいい言葉ですね。内側から湧き上がるエネルギーによって動いていくというイメージがあります。

川崎

ビジョンがあれば、誰からも強制されることもなく、いきいきと働くことができます。そして、自分の力を遺憾なく発揮することができます。それをあらわす言葉が、まさしく「躍動」です。しかも、その躍動のエネルギーは周りの人たちにも伝播していきます。そういう現象があちこちで起きれば、低いと言われ続けてきた日本の生産性は、大きく改善していくはずです。

廣瀬

アポロプロジェクトでアスリートがビジョンを見つけることを支援したいと考えているのも、確かなビジョンがあればそれを目指して大きな力を発揮することができるからです。そして、その力は社会にもいい影響を与えられると思っています。アスリートを変えることによって、社会を変える。それがこのプロジェクトの最終ミッションです。そう考えれば、Adecco Groupの皆さんが目指しているものと僕たちが目指しているものには、共通する点が多いですね。

川崎

アスリートのパワーを社会のパワーにしていくということですね。素晴らしいミッションですし、まさに私たちのチャレンジと共通していると思います。

どう生きたいか──。その思いがパワーになる

廣瀬

一方で、とくにプロのアスリートには、どうしても過去の自分にすがってしまうという弱さがあります。大きな試合の究極の場面で、多くの人に注目されて結果を出す醍醐味。あのライブ感から離れられないと、先の人生がかなりしんどくなります。そこからいかにマインドチェンジするかが元アスリートの課題でもあるし、それを支援する僕たちの課題でもあります。

川崎

マインドチェンジができるかどうかは、人生を大きく左右しますよね。私が社長になることを目標にしたのは17歳のときでしたが、「時間を自分でコントロールしたい」という動機自体は極めて利己的なものでした。それに気づいたのは、29歳で独立起業のチャンスが巡ってきたときです。部下からは「僕たちはどうするんですか?」と聞かれました。そのとき、自分のことしか考えていなかったと気づかされました。

ちょうどその頃、ある本に「人生で一番の後悔は何ですか」というアンケートが載っているのを見たんです。男性も女性も圧倒的1位だったのが、「もっと人の役に立ちたかった」という答えでした。衝撃でしたね。それまでは自分の幸せを追求することがいい人生だと思っていましたから。しかし、その生き方ではきっと自分は後悔するだろうとそのとき思いました。死ぬときに後悔しないために必要なことは、利己ではなく利他である。そう考えました。それから、私は自分の目標を「人のために役立つ社長になること」に変えたんです。

廣瀬

大きなマインドチェンジがあったわけですね。

川崎

そうです。そこからはまったくぶれはありません。人財会社の社長は、人の仕事や生き方を支援できる素晴らしいポジションです。人の役に立てる仕事です。私は今本当にやりたいことをやれていると感じています。

廣瀬

やはり、いきいきと自分らしく働くためには、「どう生きたいか」という思いが何より大切なのだと思います。僕のこれからの目標の1つは、自分らしく生きたり働いたりしている人の姿を見て、多くの人が勇気づけられるようなコミュニティをつくることです。コミュニティとはいわば、一人ひとりの「輝き」をシェアして、みんなのパワーにできるプラットフォームです。でも、僕と仲間だけでそれを実現させるのは難しいかもしれません。今後、Adecco Groupの皆さんともコラボレーションさせていただける可能性を探っていければと思います。

川崎

ええ、多くの人たちを躍動させる活動にぜひ一緒に取り組んでいきましょう。

Profile

廣瀬俊朗氏

廣瀬俊朗氏
株式会社HiRAKU 代表取締役
元ラグビー日本代表キャプテン。

1981年生まれ、大阪府出身。2007年に日本代表選手に選出され、12年から13年までキャプテンを務め、15年のW杯では日本代表史上初の同大会3勝に貢献する。16年にラグビー引退。
現役引退後は、大前研一氏が学長を務める「ビジネス・ブレークスルー大学大学院」にて経営管理修士(MBA)を取得。現在は、株式会社HiRAKU代表取締役として、ラグビーに限定せずスポーツの普及、教育、食、健康に重点をおいたさまざまなプロジェクトに取り組んでいる。一般社団法人「スポーツを止めるな」共同代表理事。一般社団法人アポロプロジェクト専務理事。著書に『なんのために勝つのか。ラグビー日本代表を結束させたリーダーシップ論』(東洋館出版社)など。2020年10月より日本テレビ系ニュース番組『news zero』に木曜パートナーとして出演中。

川崎健一郎

川崎健一郎
Adecco Group日本代表

1976年生まれ、東京都出身。99年青山学院大学理工学部を卒業後、株式会社ベンチャーセーフネット(現 株式会社VSN、以下「VSN」)入社。2003年事業部長としてIT事業部を立ち上げる。常務取締役、専務取締役を経て、10年に代表取締役社長&CEOに就任。12年、VSNのAdecco Group入りに伴い、アデコ株式会社(以下「アデコ」)の取締役に就任。14年からAdecco Group日本代表に就任し、アデコの代表取締役社長とVSN社長を兼務。