働き方 仕事の未来 組織 グローバル 「人と違っていい」という寛容性が幸福度を高める~フィンランドに見る働き方~

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2022.04.08
「人と違っていい」という寛容性が幸福度を高める~フィンランドに見る働き方~

国連が発表する「世界幸福度ランキング2022」で、5年連続の1位となったフィンランド。残業はほとんどなく、プライベートな時間を大切にしつつ効率的に働くことで、高いGDPを維持している。フィンランド出身で、フィンランドと日本それぞれの企業で働いた経験を持つラウラ・コピロウ氏に、フィンランドにおける人々の働き方や仕事に対する考え方などについて聞いた。

――フィンランドの働き方と、日本の働き方の違いを教えてください。

フィンランド人は、仕事とプライベートを分けて考え、ワークライフバランスを重視して働いている人が多いですね。自分の仕事を片づけ、成果を出せていれば、仕事が終わればすぐに帰っても全く問題ありません。実際、みんな早く帰る傾向にあり、家族との時間を楽しんだり、趣味を満喫したりしています。16~17時過ぎにはオフィスからほとんど人がいなくなります。もちろん、有給休暇を取るのも当たり前のことで、日本のように罪悪感を覚えたり、休暇を取る理由を申告したり、周囲に謝ったりすることもありません。メールの自動返信に「大変申し訳ございませんが、お休みをいただいております」とお詫びの言葉を入れる発想もないのです。

日本企業はプロセスが評価される傾向にあり、残業して長時間頑張った人がすごいと褒められたりしますが、フィンランドは全く逆の考え方です。フィンランドではむしろ、早く帰っている人のほうが「限られた時間のなかで効率の良い働き方ができている」と評価されます。私は日本在住歴11年なのでだいぶ慣れましたが、はじめはこの感覚の違いに戸惑いました。

――効率化は、日本企業の大きな課題になっています。フィンランドではどのように業務効率化を図っているのでしょうか。

方法はたくさんありますが、例えばこの2つがまずあります。
1つは、「形ではなく中身を重視する」ことです。例えば、日本ではきれいに整った見栄えのする企画書作りに時間を費やしますが、フィンランドでは企画内容が伝わればそれでよいと考えています。わざわざプリントアウトして配ることもありません。力を入れるべきところに集中し、手をかけなくてもよいところは省くことで、効率化を図っています。

もう1つは、「上下関係を気にしない」ことです。フィンランドはオフィスでの上下関係がなく、上司をファーストネームで呼びます。組織もフラットなので、仕事で悩んだり迷ったりしたときにはすぐに上司に相談できる雰囲気があります。「上司に相談するからには考えをあらかじめまとめておき、資料も用意しないと…」などと身構える必要がないので、この点も効率化につながっていると感じます。新入社員でもすぐに対等な立場になれるのも仕事を進めやすくしていると考えています。

とはいえ、これらはフィンランド企業が比較的小規模だからこそ、できていることだとも思います。フィンランドでは大手といわれる企業でも、従業員数はさほど多くなく、組織もコンパクトなのです。「上司への相談のしやすさ」は、企業規模も影響しているかもしれません。

――日本企業や日本人の働き方と似ている点はありますか。

規律を守る点ですね。納期を常に気にしながら仕事を進め、締め切りは絶対に守る。ミーティングの時間に遅れない。わざわざ契約書に落とし込まなくてもルールを守る。こういった真面目な姿勢は、フィンランドと日本は非常に似ていると思います。

国民性にも類似点があると感じます。謙虚で自己アピールが苦手なところですね。日本人は謙虚な国民性であることを世界でも知られていますが、フィンランド人も実はとても謙虚です。仕事においても必要以上にへりくだり、自分のスキルを低く伝える人も少なくありません。

シャイな人が多くて、パーソナルスペースが広い点も似ていますね。お互いの領域にぐいぐいと入り込んでくるタイプは少ないので、日本人とフィンランド人は仲良くなりやすいのではないかと思います。普段は内気だけどサウナや飲み会の場で打ち解けて仲良くなる点も似ているかもしれません。

「何もしない時間」を楽しむ

――フィンランド人はプライベートの時間を大切にしているとのことですが、平日の夜や休日はどのように過ごされるのでしょうか。

フィンランド人は、おうち時間が大好きです。フィンランドにも四季があり、冬の期間が長いので、家にいる時間が必然的に長くなります。そのため、家での生活をどう快適に過ごすかを追求し、創意工夫する人が多いのです。自宅でできる編み物やDIYなどものづくりをする人は多く、その結果、フィンランドならではのプロダクトデザインが世界的にも注目されるようになりました。

夏のホリデーシーズンには、多くのフィンランド人が田舎に向かい、サマーコテージでのんびりと休暇を過ごします。サマーコテージとは森や湖畔など大自然の中に建てられたシンプルなセカンドハウスで、ここでしばしの間、日常を忘れ、シンプルな生活を楽しみます。こういった自然と共存する夏を過ごすスタイルは、大手企業のCEOレベルの人でも変わりません。

私の実家もサマーコテージを持っていて、夏には家族全員でゆったり過ごすのが習慣です。当初は水道もなかったぐらいの小屋で、サウナを楽しんだらそのまま湖で体を洗うというような素朴な生活を何週間も送ります。余計なものをそぎ落とすことで、リフレッシュすることができるのです。何もしない時間を過ごし、ゆっくりと思考をめぐらす時間を大切にしています。

ただ、私自身はあまりゆっくりするのが好きではなく、だからこそ日本が合っているのかもしれません。サマーコテージにしばらくいると、「そろそろ日本に帰りたいな」と思ってしまうようになりました。

サマーコテージ 居心地の良い森の中のサマーコテージ
湖 18万8,000もの湖があるフィンランド

――日本の生活にすっかりなじんでいるのですね。日本ではどのように余暇を楽しまれていますか。

私は人と話すのが好きなので、友人とスイーツを食べながらカフェでおしゃべりすることが多いですね。それからサウナに毎晩通っています。いつか自宅にもサウナがほしいです。

サウナは今、世界的にブームで、日本でもサウナを楽しむ人が増えていますね。2020年にはフィンランド式サウナの伝統がユネスコ無形文化遺産に登録されました。フィンランド人にとってサウナは日常生活の一部です。ストレス社会で心身の負担を抱える人が増えていますが、効果的なストレス解消方法として注目されていると感じます。

サウナに入ると身も心もリラックスした状態になるので、自分と向き合い、瞑想するのにもぴったりです。スマホを持ち込めないので、デジタルデトックスにもなりますよ。

――フィンランドでは、仕事中の休憩も重視されていると聞きました。

フィンランドでは、仕事中にコーヒー休憩を取る権利が法律で定められています。労働時間によって何回コーヒー休憩を取るのかも決まっています。

フィンランド人は自身のプライベートを重視するので、日本のように仕事帰りに同僚と連れ立って飲みに行くことはしませんが、その分コーヒー休憩の時間に積極的にコミュニケーションを取っています。コーヒーを飲みながらざっくばらんに語り合うことでお互い分かり合えますし、たわいのない会話から新しいアイデアが生まれることも多いのです。

日常のなかでたくさんの幸せを感じることができる国民性

――国連発表の「世界幸福度ランキング2022」で、フィンランドは5年連続の1位となりました。その理由について、ラウラさんご自身はどのようにとらえていますか。

フィンランド人はそもそも、幸せを感じる基準がシンプルなのだと思います。日常の些細なことに小さな幸せを感じられるという意味です。

例えば、フィンランドは四季がある一方で、夏には太陽が1日中沈まない白夜や、冬には太陽が全く顔を出さない極夜があります。そして、冬の期間はどんよりとした天候が長く続きます。

そのため、太陽が少し顔を出しているだけでも「今日はなんていい日なんだ」とうれしくなりますし、「こんな日に大切な人とおいしいご飯を食べられるなんて、本当に幸せ!」と思うのです。

日本人は、今日の幸せよりも明日の幸せを期待する人が多いように感じます。明日のことよりも、目の前にある小さな幸せに気付いたほうが、幸福度が高まるのではないかと思ったりします。

フィンランドならではの「自分らしさを重視する」という考え方も、幸福度につながっていると感じます。自分らしく生きるには、他人の自分らしさも認め、「自分と違っていてもいい」という寛容性が大切です。この寛容性こそが、フィンランド人ならではの国民性といえるでしょう。

寛容性があるからこそ、まわりの目を気にせず自分らしさを追求することができますし、自分と違う生き方をしている人と比べて羨ましく思ったり、不公平だと感じたりすることもあまりないと思います。

小さな幸せについての写真 夏の白夜で夜なので外がまだ明るくて、バルコニーで夜ご飯が食べられる幸せ 夏に訪れる白夜。夜なのに明るいため、夕食をバルコニーで楽しめることに幸せを感じるそう
朝に家族と一緒に父が作ったパンを食べる幸せ、作った父も喜んでもらえるのが幸せ 父親が作ってくれた朝食を家族そろって食べる幸せな時間。お礼を言われた父親も喜び、皆が幸せな気分に

――フィンランドには、「シス(SISU)」という伝統的な考え方もあるそうですね。意味を教えてください。

シスとは、フィンランド語で「忍耐力」や「あきらめずにやり遂げる力」などの意味を持つ言葉です。我慢や自己犠牲という意味ではなく、「自分にとってより良い明日のために、物事を進める」というポジティブニュアンスの言葉です。そして、誰かに強制されるものではなく、あくまで「自分のために、自ら頑張る」「心の中にあるポジティブな力」というのがシスの本質です。

フィンランド人は日本人と同様に謙虚なので、自分自身で「私にはシスがあります」と言ったりはしません。自分でひそかに頑張るのです。まわりの人から「あの人はシスがあるね」と言われるのは、最上級の褒め言葉です。

自分が楽しいと思えるものに目を向ける

――ラウラさんが考える、「自分らしく生きるために大切なこと」とは何でしょうか。

「自分は何を楽しいと感じるのか」を軸に物事を進めることが大切だと思います。自分が楽しいと思うことは、すなわち自分の得意分野であり、最も力を発揮しやすい分野ともいえます。

みんなが自分にとって本当に楽しいと思えるものに取り組めば、それぞれの分野で力を発揮できる状態になっていきます。世の中をパズルのようにとらえれば、人はみんな一人ひとり異なっているので、同じピースは2つとして存在しないはずですよね。ですから、それぞれがそれぞれの役割で力を発揮して、つながり合える社会が完成するのではないかと思っています。

「人と違ってもいい」という寛容性をお互いに持って、一人ひとりがやりたいことを貫ける社会は、持続可能な社会になると私は考えています。

Profile

ラウラ・コピロウ(Laura Kopilow)氏

ラウラ・コピロウ(Laura Kopilow)氏
フィンランド大使館 商務部 商務官

フィンランド・エスポー市生まれ。高校生の時に函館に留学・ホームステイし、早稲田大学に留学。国費留学生として北海道大学大学院に入学、修了。フィンランドのアパレル企業や日本人専用旅行代理店などに勤務後、日本の大手IT企業での就職を経て、2018年よりフィンランド大使館商務部でファッション・ライフスタイルを担当。