働き方 仕事の未来 人財 「仕事の未来」に関する、2023年ダボス会議で得られた4つの知見

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2023.02.28
「仕事の未来」に関する、ダボス会議2023で得られた4つの知見

2023年の世界経済フォーラム(World Economic Forum)の年次総会(通称ダボス会議)は、「分断化した世界における協力(Cooperation in a Fragmented World)」をテーマとしてダボスで開催されました。数多くの議題や課題の中で、リーダーたちは、働き方の世界にもっとも大きな影響を与えるトレンドとして、グリーンへの移行、デジタル化、現在の人手不足の3点を挙げています。

Adecco GroupのCEOであるDenis Machuelは、「スキルアップとリスキリングは、私たちが直面している大きな課題であり、企業が必ず加速させなければならないものです」と話しました。

Adecco GroupのSVP Head of Public AffairであるBettina Schallerは、「人財不足は、誰もが夜も眠れないほど深刻な問題となっています」と、Denis Machuelの言葉に続けました。

しかし、企業だけでこの問題を解決することはできません。企業と公共部門が協力して、すべての人のために未来を創っていく必要があります。幸いなことに、この点に関して、公共部門も同じ考えを持っているようです。欧州委員会(EC)のUrsula von der Leyen 委員長は、新しい欧州グリーン・ディール(European Green Deal)を発表し、2023年は「スキルの年」であると宣言することで、ダボス会議を盛り上げました。そして彼女は、グリーンへの移行を成功させる上で、グローバルな労働力が極めて重要な要素であることを強調しました。

仕事の未来(Future of Work)についてあらゆる角度から活発な議論がされた1週間のセッションから、4つの重要なポイントが浮かび上がってきました。

 

人を中心に置く

Adecco GroupのCEOに就任後、初めてダボス会議に出席したDenis Machuelは、「世界中の社会が直面している課題を解決するためにもっとも重要な資産は人です。そのため、世界はかつてないほどに、人を中心として考える必要があります」と述べ、世界の問題を解決する上で、人が中心的な役割を果たすという考えを示しました。彼は、給与に関するセッションにおいて、「人を投資の対象としてではなくコストとして考えることは根本的に間違っています」と、喚起しました。

人を第一に考えるということは、給与だけに関する話ではなく、人を個人として大事にするということです。つまり、従業員が活躍し、成長し、本来の自分らしさを発揮できる環境を整えるということです。企業と従業員が互いに最良な関係を作るには、共有の価値観と、一致した目標が必要です。Adecco Groupによるレポート「未来のグローバルワークフォース」(Global Workforce of the Future)のデータが示すのは、経営陣の共感が鍵であるこということです。実際に、経営陣が共感的かどうかは、従業員が退職を決めるときの重要な要素となっています。このことは、欧米を中心に現在進行形で進んでいる「大退職時代(Great Resignation)」と関連して理解しておくことが重要なトレンドです。

Adecco GroupのChief Sales and Marketing OfficerであるValerie Beaulieuは、「人をいたわることが新たな焦点になる」と話しました。「パンデミック以降、次々と起こる危機は、不確実性が今後も続くということを示しています。共感力は、リーダーとしてもっとも重要な能力のひとつです。私たちはEQを高め、共感を高める方法を学ばなければなりません」

スキルが新たな通貨となる

変化し続ける仕事の世界においては、人財もその変化に対応する必要があります。欧州委員会(EC)のUrsula von der Leyen委員長は、その演説の中でスキル不足問題の深刻さを世界に喚起し、スキルが新しい欧州グリーンディールの4つの柱の1であると説明しました。

この問題の緊急性は、働き手も感じています。77%の働き手が、自分が将来に必要なスキルを持っているとは考えていません。この問題に対する解決策は、将来が確約されたスキルを提供することではなく、生涯学習の機会を持つ、アジャイルな働き手を育てることであると、Valerie Beaulieuは提案します。

 

これはつまり、伝統的な教育システムを見直す必要があるということです。LinkedInのプロダクトマネジメント担当副社長兼共同創設者のAllen Blue氏は、グリーンへの移行やデジタル化といった雇用・労働市場の地殻変動により、雇用主は資格や学位以外にも目を向けるようになると述べました。これらの変革は、人財プールを開放的なものとし、そこではスキルが前面に押し出されます。

Adecco PresidentのChristophe Catoirは、この考えに賛同し、これまで採用担当者が候補者を採用する際の判断材料にしてきた経歴や資格といった分かりやすい条件以外のもので人財を見極められるようになるためには、管理職に対する訓練が必要であると語りました。

 

「私が27年前に、Adeccoで財務のキャリアをスタートさせたとき、私はその専門分野を超えてキャリアアップしようとは考えもしませんでした。しかし、私には素晴らしい上司とコーチがいて、次のキャリアへのステップとして営業職への異動を提案してくれました」と彼は述べました。「私たちには、コーチとしてのリーダーや、従業員のスキルアップを支援し、導くための定期的な人的交流が必要です。そして、管理職が潜在能力やモチベーション、ソフトスキルを見極められるようになるための教育を支援する必要があるのです」

スキルを代替するのではなく、育成するためのテクノロジー

AR(拡張現実)や没入型のテクノロジーは、採用から働き手の離職にいたるまで、仕事の世界における多くの問題を解決する可能性を秘めています。

継続的な学習により成長するアジャイルな働き手を育成するには、規模とスピードが求められます。そして、ARやAIのようなテクノロジーは、そのペースを加速させるのに役立ちます。「多くの人財を一度にスキルアップしたいのであれば、スピードが肝心です」とValerie Beaulieuは話します。「テクノロジーを使うことで、トレーニングにかかる時間を短縮することができます」

WorkdayのChief Marketing and Strategy OfficerであるPete Schlammp氏によると、スキルに基づいた経済を実現するためには、AIが必要です。このようなテクノロジーは、従業員の能力を大規模に確認し、大きな規模で従業員を育成することを可能にします。これは現時点では事実上不可能であるようなことです。1,000人以上の従業員の学習、スキル、経験をどのように把握するのでしょうか?AIを用いることで、企業内にあるスキルをマップ化し、不足分を埋めるために誰にスキルアップまたはリスキリングしてもらうべきかを特定することができます。

AccentureがCEO 570人を対象に行った最近の調査によると、データ、テクノロジー、人財が最大限活用されたときに、本当の意味での企業成長が実現できると言います。しかし、これを効果的に行っている企業は、グローバル企業のわずか5%に過ぎません。このような企業は、テクノロジーから価値を引き出すことと、事業内で人財を育てることの両方に、並行して重点を置いており、各業界の上位25%の地位を占めています。技術的な要素にしか目を向けない企業には見逃しているものがあります。データとテクノロジーだけに重点を置いている場合の生産性の向上率は4%ですが、それに加えて人の要素にも重点を置くことで、向上率は11%になります。テクノロジーは人財に取って代わることはできないのです。

未来はすべての人に役立つものでなければならない

分断はいたるところにあり、それは仕事の世界でも同じです。例えば、世界のグリーンスキルは最も裕福な先進国に集中しており、発展途上国では将来に備えるために多くの仕事をしなければなりません。デジタル革命とフレキシブルワークの分野でも、同じような分断が見られます。デジタルから疎外された人々の数は世界で初めて30億人を下回りましたが、依然として大きな課題が残っています。デジタル技術にアクセスできる人たちの中にも、世代間やジェンダー間での格差があるのです。

TelefónicaのCEOであるMaría Álvarez-Pallete López氏は、「私たちが社会として直面している大きな課題は、不平等だと思います」と述べました。「このテクノロジーの波は、何百万もの雇用を破壊し、何百万もの雇用を創出することになるからです。しかし、その移行を適切な方法で処理しなければ、社会不安に直面することになるでしょう」。私たちは皆、同じ嵐の中にいますが、同じ船に乗っているわけではないというのが現実なのです。

ダイバーシティ、インクルージョン、そしてエクイティ(公平性)は、2023年においては、もはや簡単なチェックリストの項目ではありません。社会的格差という広い問題に対処するためだけでなく、人手不足に対処しようとする企業にとって、これらを実現することが賢明な方法となっているからです。「社会的インパクトだけでなく、経済的インパクトもあるのです。なぜなら企業が求めるような候補者が見つからないからです。そして、人財不足は率直に言って企業の成長性を低下させることを意味します」と、Christophe Catoirは話します。

仕事の世界は、大規模にスキルアップとリスキリングを行う必要があるという、緊急事態に直面しています。これは、企業や公共部門を含む、私たち全員が取り組まなくてはならない課題です。効果的で、拡張性があり、かつ迅速な学習方法を仕事に取り入れることによってのみ、私たちはグリーンへの移行を成功させることができ、デジタル化による最良の結果を得ることができ、そして人々が生涯を通じてエンプロイアビリティ(雇用されるための能力)を維持できるようになるのです。これは、持続可能な雇用にとって極めて重要なことです。