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多様な価値観のなかで、個人の能力を生かして働く
―イギリスに見る働き方―

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2026.03.04

ヨーロッパ諸国のなかでも独特の文化や価値観を持つイギリス。企業が社員を大事にする文化が根付いており、福利厚生も手厚い。そんなイギリスで、人々は仕事に対してどのような価値観を持っているのか。またリーダーにはどんな資質が求められるのか。27年間ロンドンで暮らし、フリーランスのライターとして活動する江國まゆさんに話を聞いた。

プライベートを充実させるため、メリハリをつけて働く

――イギリスの人々が持つ、仕事に対する価値観やスタンスについて教えていただけますか。日本とはどう違うのでしょうか。

日本では、働くことに生きがいを感じたり、自己実現のために働いたりする価値観がありますよね。それは素晴らしい反面、長時間労働になったり、プライベートの時間を削ったりして働く人もいると思います。 

しかし、イギリスでは基本的に仕事は「生活の手段」という位置づけです。仕事は仕事としてしっかりこなすけれど、人生において優先事項は仕事よりもプライベートです。日本では有給休暇を使い切らない人もいますが、イギリスでは休暇は「必要なもの」。自分へのご褒美として休暇でリセットするのが一般的な風習ですね。人が人らしく働くために、休暇を大切にするということです。

ただし個人主義を基本としながらも、チームの調和を大事にする側面があり、そこは日本にとても近いと感じます。 

――一般的な働き方について教えてください

勤務時間は業種によって異なりますが、朝9時から午後17時までの会社が一般的だと思います。だいたい1日7~8時間働き、残業の文化はありません。企業との契約次第ですが、朝早めの時間から働き、夕方は保育園への子どものお迎えの時間に合わせて退社するなど、決められた労働時間内でフレキシブルに働くことが可能です。 

優秀な人財を確保するために、企業ではできる限り働きやすい労働環境を作ろうと努力していると思います。大きな企業になればなるほど社員の働き方、心身の健康にも十分に配慮する傾向があります。そのため無料で心理療法士などにメンタル相談ができる環境も整っています。

正社員以外の雇用形態であっても、休暇制度などを含めて、なるべく正規雇用者に近いベネフィットが与えられるようになっているはずです。このように、社員を大事にする文化が根付いています。

London Piccadily Circus

――採用は、日本の新卒一括採用に見られる職務内容や勤務地を限定せず、転勤や配置転換によりさまざまな職種・職務を経験するメンバーシップ型ではなく、ジョブディスクリプション(職務)に沿って採用するジョブ型雇用でしょうか

はい、大前提として企業は性別や年齢、性的指向、宗教、家族構成、結婚や子どもの有無など個人の特性によって採用の是非を判断してはならないということが法律としても定められています。役割によって人財を募集し、その役割に合った最適な人を採用します。そのため、採用時の契約書にはジョブディスクリプションが必ず明記されています。 

ロンドンに関してはイギリスのなかでも非常に特殊で、人口の半分以上を外国人が占めています。1000万人以上が暮らしているので、多様な人種や文化、価値観のなかからいかに求めるジョブに見合った人を採用し、生かしていくかが企業にとっての課題になります。

日本では子どもの頃から周囲と同じであることを求められますよね。いわば謙遜が美徳とされる社会です。でも、イギリスでは「自分の考えを持つように」と教えられて育ちます。親も子どもを褒めて育てるので、自己評価がとても高いのです。採用面接でも自分をより良くアピールするスキルに長けており、時には自分の持っている能力以上によく見せることもします。言い換えれば企業側は適切に能力を見極めることが求められます。

――履歴書と面接だけで正しく判断するのは難しそうです

そうですね。そのためすぐに正社員として雇用するのではなく、数カ月間の試用期間を設けて、パフォーマンスを見てから正式採用する企業が多いです。日本では、試用期間を設けていてもよほどのことがない限り継続雇用される場合がほとんどだと思いますが、イギリスは求めるジョブに適しているかをシビアに判断するので、試用期間で契約が終了するケースもあります。また、その後も採用時に決められたジョブディスクリプションに対して評価が見合わない場合は警告され、それでも能力が満たなければ法的に決められた手順を踏んで、解雇されることもあります。 

――1つの企業でどれくらいの期間働くのが一般的なのでしょうか

イギリスでは新卒で入社した会社で定年まで勤めあげることはほぼありません。ジョブチェンジは非常に活発で、業界によって異なりますが、半年から2年くらいで会社を変える場合もあれば、4~5年働いてから転職するパターンも多いですね。

ステータスや給与を追い求める人も多いので、合わないと思えばすぐに転職します。能力が高い人であればもちろんヘッドハンティングも一般的ですし、より給与の高い会社へと移っていこうとするのはごく当たり前のことですね。

Llondon Co-working

プロセスよりも結果を評価する

――ビジネスパーソンにはどのような業界が人気なのでしょうか。

大きなお金を動かし、給与や報奨が高い金融業界は花形ですね。メディアやクリエイティブな業界も人気だと思います。イギリスでは一般的に、嗅覚が鋭い投資家たちが新たなベンチャーに投資することで次世代のカルチャーが生まれていく傾向にあります。投資先はテクノロジーや飲食業界が多いと思います。

London City of London

――どのような人が評価されるのでしょうか。

これは非常にシンプルで、結果を出している人です。結果を出すために残業を頑張る、といったプロセスが評価されることはあまりありません。効率良くテキパキと働き、営業成績をしっかり出している人が評価されます。

そして、リーダーになるとマネジメント能力と査定能力が求められます。日本のようなマイクロマネジメントではなく、リーダーはもっとスマートに全体を見てチームをまとめあげることが求められます。

また、中間管理職であれば、経営層と部下の間をうまく取り持つ必要があります。社員全員を正当に評価するため、年一度の評価システムが採用されています。この時に部下の自己評価と上司の評価をすり合わせ、双方の評価を合致させなければなりません。経営層と部下の間に立ち、部下に納得してもらうのも中間管理職の役割です。非常に難しいポジションだと思います。

一方、経営層に求められるのは、圧倒的に業績ですね。社員の生活がかかっていますから、収益をしっかり上げられる人が経営リーダーに選ばれます。

――社会人になった後、会社以外での学びの場はありますか?

自分が望むスキルを伸ばすためのスクールがたくさんあり、「アダルトエデュケーション」と呼ばれています。無料と有料の両方があり、多様な学び方が選べるようになっています。日本では社会人の学び直しというとITスキルや英語などの語学を想像するかもしれませんが、プログラミングなどは大学で習得するか独学の人が多いですね。料理を学んで飲食店を開業するようなケースにアダルトエデュケーションを活用します。語学の習得は、プライベートと仕事との両方の目的があると思います。 

London After Work

差別をなくし、多様性を受け入れる

――ビジネスの場でAIはどの程度活用されていますか?

顧客管理やマーケティング分析の分野では活用が進んでいると思います。またヘルスケアアプリなど医療、介護の領域でも活用されています。

企業では、まずはトップや担当部署が新しい技術を学び、社内に導入するかどうかを判断します。現場の人は指示された仕事を時間内にしっかりこなすというスタンスで働いているため、現場の社員から業務改善のためのAI活用のアイデアが出てきたとしたら、まずは直属の上司や担当部署が精査し、経営層に報告する流れだと思います。業務改善などを考えられる人はリーダーや管理職になっていき、さらに、自らアイデアを考えられる人は起業する傾向にあると思います。

役所のデジタル化も進んでいますが、日本と同様でまだ過渡期にあると思います。

私自身がAIに助けられているとしたら、リサーチで英語の資料を読み込む際に、ざっとスムーズに頭に入れるために多用している翻訳ツールですね。意味が通らないところはやはり原文に戻る必要がありますが、簡単により早く意味がとれるので、重宝しています。

 

――江國さんから見たイギリスの魅力は何でしょうか。

私が暮らすロンドンは特殊な街なので「イギリス」では括れないかもしれませんが、この街の一番の魅力は価値観が多様であることだと思います。世界的に見ても人種のるつぼであり、多種多様なルーツを持つ人たちで構成されていて、自分の価値観だけにとらわれていると、取り残されてしまいます。

少なくとも社会的には多様性を受け入れることが必要な構造で、コンプライアンスもしっかりしているので、企業は雇用のバランスをとるのが大変だと思いますが、誰にもチャンスが開かれていることも、ロンドンの魅力だと思います。

 

Profile

江國まゆ

江國まゆ氏
編集者、ライター 「あぶそる〜とロンドン」編集長 

岡山県倉敷市出身。ロンドンを拠点に活動するライター、編集者。東京で書籍・雑誌編集・ライターを経て、1998年渡英。英系制作会社にて数多くのローカライゼーションを手がけ、2009年からフリーランス。イギリスに関する情報を各種媒体に寄稿中。新著に『ロンドン、物語のある旅』(自由国民社)など。