VOL.43 特集:新卒採用、「長期化&人財不足」の現状と対策

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就職バブル再来か─といわれる今年の新卒一括採用。採用に頭を痛める企業も少なくなさそうだ。変化が訪れた今、どのような対策をとればいいのか。
また新卒一括採用というシステムは今後も続くのか?慶應義塾大学の太田聰一氏に聞いた。

終身雇用と年功序列制度が形骸化し、ダイバーシティ(多様性)の時代といわれる。スキルを持つ即戦力の人財を獲得する転職市場が活況となり、“もはや新卒一括採用は時代遅れ”との意見も一部にはある。だが若年者の雇用問題を研究する慶應義塾大学経済学部教授の太田聰一氏は、「新卒一括採用の慣行は、企業、学生、大学の3者にとって、今もメリットは大きい」と語る。
「大手企業では、新卒採用および研修制度が整った中で4月にまとめて人財を獲得できるため、社員育成の効率面で優れた制度といえます。また、社内の人口ピラミッドのバランスを取ることもできます。

一方、学生にとっては卒業前に就職先が決まることで安心することができますし、大学は働くためのスキルを提供しなくても、企業が採用してくれることで社会的責務を果たすことができます。さらに社会全体で見ると、日本は欧米などと比べて相対的に若年失業率が低いのですが、その理由の一つは新卒一括採用が広く普及しているからです」

加えて、新卒の採用者数を増減させることで、企業は長らく構造変化に対応するようにしてきた。こうした"完成されたシステム"が現在でも新卒一括採用を有効なものとしている理由にある、と太田氏は指摘する。

しかし不況が長期に及んだ場合、新卒採用者数を極端に抑える就職氷河期がおとずれる。
「就職氷河期が長引き、大学を卒業した後、再チャレンジするのも難しい状況が生まれてしまいました。このように、不況になると新卒一括採用は、その"もろさ"が露呈するのです」

だが現在では"就職バブルの再来か"と言われるほどの"売り手市場"となっている。さらに今年度から採用広報が3カ月、選考開始が4カ月も後ろ倒しとなった。
「目下、企業からは“学生が来てくれない”という嘆きの声が多数挙がっています。特に深刻なのは中小企業です。そもそも採用にコストや手間暇をかけられない中小企業は、新卒一括採用では不利なのですが、選考スケジュールの後ろ倒しによって、大企業の後から採用を始めると活動期間が短く、採用がより難しくなる可能性があります」

では中小企業はどのような対策を取ればいいのか?
「そもそも中小企業の多くは、採用スケジュールを順守する必要はないはずですから、早い時期から自社情報を学生に密に発信していくべきです。中小企業の場合、"うちに来ると大きく成長できる"など、自社のセールスポイントを多く発信する機会を積極的にもつことが大事だと思います」

当面は売り手市場、中小企業の採用難という状況が続くと太田氏は見る。だが「将来的には新卒採用が現状のままかどうかは疑問が残る」と言う。なぜなら、2018年以降は18歳人口の本格的な減少が始まるからだ。
「若年人口が減れば、将来的には新卒採用だけでは足りず、中途採用が中心となる採用を視野に入れることになるでしょう。すると、大手企業でも徐々に中途採用者をうまく活用して成長する企業も出てくると思われます。そうなると、新卒者を育てる会社と新卒者は必要ないと考える会社に分かれることも考えられます」

さらに高齢者の雇用延長という社会的情勢もある。
「企業には高齢者の一層の活用が求められ、今後、公的年金の支給開始年齢がさらに後ろ倒しになると、将来的に70歳まで雇用を保障しましょうという話が出てくるかもしれません。そのとき不況だと、再び新卒採用数が減るリスクも考えられます。ただ若年就業者は将来その人数が大きく減るため、希少価値がかなり上がります。このため、これまでのような世代間対立はあまり起きないと予想されます」

長かった氷河期の影響で社内人口ピラミッドが崩れ、新人社員の教育係がいないなど若手減少の弊害も大きく、企業はコンスタントな新卒採用の必要性を十分認識している。このため中途採用者のボリュームが増えても、新卒者のニーズが続くことは確実だ。では、若年者が希少価値となった時代の新卒採用は、どう変化する可能性があるのだろうか?
「若手の人財確保に苦労する企業は、就職後ブランクがある人(フリーターなど)の中から"原石"を見つけようという話が出てくると思います。また、国内の大学に留学している外国人学生も注目されるでしょう。グローバル展開する企業の中には、全世界から優れた人財が集まればよいというスタンスの会社もすでにあるようです。ただ人事システムが完全に欧米化された企業は、一部を除くとまだほとんどありません。

今後も日本企業は日本人を中心とした新卒採用を展開していくと思いますが、長い目で見ると、世界中から優秀な人財を集める企業がある程度の比率で出てくる可能性は捨てきれません」

太田聰一氏
慶應義塾大学経済学部教授

profile
1987年京都大学経済学部卒業。89年にロンドン大学LSE大学院に入学。2005年より現職。若年雇用問題に詳しい。著書に『若年者就業の経済学』など。

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