VOL.48 特集:2016年の雇用と労働

働き方、市場動向、法改正の影響は?
キーワードで探る2016年の日本① 働き方

Vistas Adecco年始号恒例の、キーワードで見る今年の雇用と労働。
今回は、「働き方」「市場動向」「法改正」の3つをクローズアップし、それぞれの分野で注目されるであろう項目を識者とともに選び、2016年を見通してみた。

KeyWord 女性の活躍を後押しする
限定正社員制度

一昨年、昨年と政府で議論されているのが「限定正社員制度」。すでに一般職に限ったり、勤務地域を限定したりする制度があるが、海外では職種、地域限定がそもそも正社員の基本となっている。「日本では、正社員は職種も勤務地も無限定と、海外の考え方とは異なっています。正社員か非正社員かの二者択一における中間を取った制度として、限定正社員をつくるという議論になっています。ただし日本の一般職は補助業務に限定されてしまっており、海外でいうところの限定正社員ではありません。特定の仕事に責任を持ち、時間、空間的に限定した中で働くのが限定正社員のあるべき姿です」と濱口桂一郎氏は話す。

女性活躍の観点からも、業務の中核を担う限定正社員制度が必要だ。「現状では総合職、一般職、特定職などと分類されていますが、これでは意欲があっても活躍できません。大事なのは、各コースの垣根を自由に越えられること。正社員と限定正社員を自在に行き来できれば、ライフステージに合った柔軟な働き方が可能になるはずです」と山本勲氏も指摘する。

KeyWord 従来とは違う発想で社員の健康確保
勤務間インターバル制

終業から翌日の始業まで、決められた時間、休息を取らなくてはいけないというのが勤務間インターバル制。この制度がいま注目されている。「『繁忙期は他社との競争上、残業も必要』と残業を否定せず、残業が続く時期は、きちんと休みを取りながら仕事をしましょうという健康に配慮した働き方です。EUでは11時間のインターバルが法律で決められていますが、労働時間が長い日本でこそ導入が望ましい制度です。この制度は日々の疲れを貯めない仕組みですが、残業時間を貯蓄し、貯蓄分を休暇や時短に当てる労働時間貯蓄制度もドイツでは普及しています。こちらは長めの期間で繁忙期とそうでない時期を調整できる仕組みで、会社から見ると残業代の支払いが発生しません。日本も両制度をセットで導入すると、より柔軟な働き方が実現するでしょう」(山本氏)

濱口氏も「このインターバル制度が日本には必要」と強調する。「なぜなら、決められた休息時間を取らなければならないという、今まで日本にはなかった発想だからであり、これまでの時間に対する考え方を変えることが重要なのです」

KeyWord 新しいステージへと移る
シニアの活躍

安倍政権がかかげる「一億総活躍社会」で、女性とともに活躍が期待されているのが60代以上のシニア層社員だ。「高齢者は引退するという常識が現実と乖離しているという議論を今、政府がしています。もうすぐ65歳以上も雇用保険に加入できるという改正案が出される予定です。責任ある中核的な仕事を任せるなど、今年からはシニア社員のありようそのものが変わってくるかもしれません」と濱口氏は指摘する。

とはいえ、大手企業においてはシニアが活躍する場は少ないのが実態だ。「今後の人手不足は深刻。最近ではロボットやAIの技術が労働力不足を解消するという見方もありますが、まだまだ先の話。やはりスキルあるシニアに残ってもらうことが必要になってきます」と山本氏も話す。

ただ、シニアが活躍する上でネックとなるのが仕事の中身と報酬だ。「日本の給料制度は"後払い方式"で、若い頃は安く、中年期に高くなります。社員は中途で解雇されないよう頑張って働くため、経済合理性があるともいえます。この制度は、60歳くらいまで働けば若い頃の低めの賃金も補えるような設計のため、定年延長で伸びた分は嘱託というスポット契約になり給料は一気に減ってしまう。それまでと遜色ない仕事をしている人もいるのに、です。だから優秀な人は辞めてしまうのが現状です」(山本氏)

では、どうすれば優秀なシニアに活躍してもらえるのだろうか。「40代に働く意義、会社への貢献などについてキャリア研修を行うと、生産性が大きく上がるという研究成果があります。大切なのは、働き方を変え、モチベーションを生み出すこと。専門分野に特化する、これまで培った人脈を生かして若手サポートに徹するなど、本人もやり甲斐を感じるシニアならではの働き方があるはずです」(山本氏)

また濱口氏は「50代~60代後半までを見通せる職務内容と、入社から定年までの間の賃金カーブをなだらかに設計し直す改革が必要」と指摘する。

【図1】 雇用形態別高齢雇用者数及び非正社員の占める割合の推移【図2】 非正社員の高齢雇用者が現在の雇用形態についた主な理由別内訳(平成26年)出典:平成27年(2015)総務省「統計からみた我が国の高齢者(65歳以上)」より

独立行政法人労働政策研究・研修機構統括研究員
濱口桂一郎氏

profile
1983年、東京大学法学部卒業。厚生労働省入省。福井労働基準局監督課長、職業安定局課長補佐、欧州連合日本政府代表部一等書記官、東大客員教授、政策研究大学院大学教授などを歴任し、現職にいたる。専門は労働法政策。近著に『働く女子の運命』(文春新書)など。

慶應義塾大学商学部教授
山本勲氏

profile
1995年、慶應義塾大学商学部大学院修了。ブラウン大学経済学部博士課程(経済学博士)。日本銀行入行、日本銀行金融研究所を経て現職。労働時間や賃金、雇用形態、ワークライフバランス、ダイバーシティ、メンタルヘルスなどをテーマに定量的検証をしている。共著書『労働時間の経済分析』(日本経済新聞出版社)。

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