仕事の未来 働き方 好きな仕事でシニアの特権「大人の自由」を楽しむ 大江英樹氏

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2019.09.25
大江英樹氏 経済コラムニスト/オフィス・リベルタス代表

会社勤めの人になら、いずれは訪れる定年退職。その後も仕事は続けるべきか、どう働いてどのように収入を得るべきか、不安を抱えている人も少なくないだろう。
元会社員で、定年・再雇用を経た後に新たな仕事を始め、今や経済コラムニストとして執筆や講演などで大活躍する大江英樹さんに、自身の経験も交えたお話を伺った。

──大江さんは長年勤めた会社を離れ、67歳となった現在、どのような働き方をされているのですか。

私は証券会社に定年まで37年間勤務し、半年の再雇用を経て起業しました。今の私の仕事の目的は、定年後のサラリーマンが幸せな生活を送れるように支援することです。

本業の経済コラムニストとしては、年間150本程度の記事を執筆し、書籍は平均年3冊を出版。シニア層向けのライフプランニングや資産運用などをテーマにしたセミナーや講演の講師は、年140回ほど務めさせていただいています。

時間に制約があったサラリーマン時代の働き方とは違い、自分のペースで好きな仕事ができていると実感しています。原稿を書き始めるのは、早朝から朝食までの1~2時間。出勤する妻を最寄り駅まで送った後、家事をこなしてからスーパー銭湯に羽をのばしに行ったりすることも。海外旅行の最中も原稿書きは日課。もう究極の公私混同で、どこまでが仕事か趣味かわからないといった感じですね(笑)。

──自由で充実したお仕事ぶりがうかがえます。会社勤めをしていたときから、今の仕事のための準備はしていたのでしょうか?

いいえ。実は、思いもよらず経済コラムニストになっていました。起業当初は現役時代に携わっていた、確定拠出年金をベースにした投資教育の仕事をしようと考えていました。ところが会社を立ち上げたものの、1~2年はほとんどオファーがなし。

かわりに時間はたっぷりあるので、興味のおもむくまま個人投資家の集まりに出席してみたり、個人的な趣味とかプライベートの集まりに参加してみたり。すると、そこから勉強会の講師を頼まれたり、思いがけず新聞や雑誌での連載の仕事が舞い込んだりして今の仕事につながりました。

とにかく、さまざまな方面で人とのつながりを持つことは非常に重要なことです。ぜひ定年前の現役世代のうちから、趣味でもボランティアでも、今いる環境とは別のところにいる人たちと、できるだけたくさんの人脈をつくることをおすすめします。

さらに、いただいた仕事に対しては「ギブ・アンド・テイク」ではなく、「ギブ・ファースト」の精神、つまり相手からの見返りを求めない姿勢で、手を抜かずに取り組みました。その結果、時間はかかりましたが起業して4年ほど経過したころには、冒頭でお話ししたようなペースで仕事をしています。

──定年まで働きづめだったので、リタイア後はゆっくりしたいとお考えの人も多いと思いますが、定年後に仕事を続ける理由はなんでしょう?

私は常々、定年後も「働いたほうがいいですよ」とアドバイスしています。働くことで老後の3大不安である「お金」「健康」「孤独」はほぼ解消されるからです。働けばいくばくかの収入が得られるのでお金の不安がなくなる。家に閉じこもらずに適度に動けば健康にいい。いろんな人に接するから孤独に陥ることもないといった具合です。

ただ、私が働くことのメリットを強調しても、長年会社員を続けてきた人は「年金だけでは食べていけないだろうから、定年後も仕方なく働く」というのが本音でしょう。でも、世の中には私のケースも含めて、いろんな仕事、いろんな働き方があります。自分に合った仕事や働き方が見つかれば、楽しみながら働くことも絵空事ではありません。

──定年後の働き方には「再雇用」「転職」「起業」とさまざまなパターンがありますが、それぞれ注意すべきことはありますか?

定年退職した会社に「再雇用」されて働くことが一番簡単に思われますが、実は難しい。元々管理職だった人が再雇用後は、元部下が上司になっていたり、仕事の権限がなくなったりして、やりがいを感じにくくなるのです。再雇用の人がバリバリ働いて、アレコレと口を出すようなら、現役世代にはいい迷惑ですよね(笑)。

再雇用で働いたとしても、雇用が終了する65歳以降のことも考えてほしいと思います。人生100年時代なんですから、この時期は、その後の人生の準備期間ととらえて、必要な勉強や新しい仕事につながる活動をすればいいでしょう。再雇用だと出勤は週3~4日でいいという企業もありますから、準備に要する時間は十分確保できるはず。今は副業も認める会社も増えています。興味のあることを副業でやってみるのも手でしょうね。

ほかの会社への「転職」はハードルが高そうなイメージがありますが、実際にはそうでもないのです。現役時代の仕事を生かせる企業を探せば60歳以上でも可能性はあります。海外勤務が長かった人は中小企業の海外進出をサポートする仕事などに需要がありますし、ベンチャー企業などは経理や営業、法務の人財が手薄な場合があるので、経験のある人が重宝されます。

「起業」は転職以上にハードルが高いと思われているでしょうね。確かに40代ぐらいで起業をする場合は、家族の生活を背負っていますからハードルが高くなります。でも定年後に起業する場合は、すでに年金や退職金などで一定の生活基盤ができているので、現役並みの収入を得る必要はありません。目安として月4万~5万円ぐらい稼げれば十分。10万円稼げたら立派なものです。ですから自分が好きなこと、やってみたかったことにチャレンジしやすいと思いますよ。起業までいかなくてもフリーランスで働くのも手です。

──起業といっても大それたことを考える必要はないのですね。

はい。注意すべきは、仕事がうまく回り出してもあまり手を広げ過ぎないこと。事業を拡大しようとすると、借金をしたり人を雇ったりしなければならなくなる。定年後の起業でそこまでリスクを冒すのは避けたいところです。

もしうまくいかなくても会社をたためばいいだけのこと。前述のとおり年金と退職金で一定の生活基盤は確保できているので、「とりあえず2~3年やってみよう」という気楽な姿勢で始められます。

一歩踏み出す勇気と、仕事上の責任を取る覚悟があれば、好きなことを仕事にして、シニアライフの特権である「大人の自由」を手にできると思います。ただ起業には「向き・不向き」があります。表にまとめたのでご自分の場合はどうかチェックしてみてください。

向く人 向かない人
  • 好奇心が強い
  • 何でも自分でやりたい
  • 変えることが好き
  • 人とのつながりが多い
  • 摩擦をいとわない
  • 安定志向
  • 面倒なことは嫌い
  • 我慢強い
  • 知らない人と接するのは苦手
  • バランス感覚が強い

※大江英樹氏作成

──とはいえ、定年後に自分が何をしたいのかよくわからない人も多いのではないでしょうか。

確かに、企業で50代向けに定年後のライフプランセミナーなどを行うと、「自分は趣味もないし、やりたいことと言われてもわからない」という声は多く聞きます。でもそれは頭で考え込むばかりで、一歩踏み出していないから。行動してみないと「何が仕事になるのか」「自分ができることのうち何が世の中に求められているのか」は永遠に見えてきません。

私自身は、「コツコツ投資家の会」「フランス語」「ジャズ演奏」「京都検定」「映画の会」など、興味があることに対してはどんどん行動し、さまざまな環境に身を置いています。もしかしたら、そういった自分の好きなことで意外な能力を発揮し、仕事につながることもあるかもしれませんよ。

私の周囲には、製薬会社勤務の方が定年後にパン屋になったり、銀行に勤めていた方が、檀家の人の税務相談にのるお坊さんになったり。会社員時代からは想像できなかったことを仕事にしている人はたくさんいます。

──最後に、「老後のお金が不安」「老後は2000万円必要」などといわれていますが、元証券会社でマネープランがご専門の大江さんから、定年後のお金についてのアドバイスをお願いします。

まず、定年前の50代になったら「ねんきん定期便」で自分の年金が「いつから」「いくら」もらえるのか確認しましょう。年金生活に入ったときにその金額の範囲内で暮らせるように家計の見直しをすることをおすすめします。

年金の範囲内で暮らせないようなら、どうあれ働く必要があります。平均的なサラリーマン家庭なら年金額は現状で月22万~23万円程度。住宅ローンの返済が終わっていれば、あまり困らない額だと思います。

退職金や自分で貯めてきた老後資金については、使うのをできるだけ先送りするように努力してください。病気や介護などでまとまった費用が必要になったり、高齢期に施設に入居することになった場合の一時金等に備えて、なるべく手を付けないことを心がけましょう。

やってはいけないことは退職金での投資デビューです。運用しなければと焦っている人もいるかもしれませんが、まとまったお金を一度に投資すると、相場が崩れたときに大損するおそれがあります。

シニアが投資をするなら、増やすというよりもインフレになったときに備えて、お金の価値の目減りをカバーする投資をするのがおすすめです。

Profile

大江英樹氏
経済コラムニスト/オフィス・リベルタス代表

大手証券会社を定年退職後、2012年9月に株式会社オフィス・リベルタスを設立。行動経済学、資産運用、企業年金、シニア層向けライフプラン等をテーマとし、各種メディアへの寄稿や書籍の執筆、研修や講演を行っている。日経電子版のコラム『投資賢者の心理学』をはじめ、行動経済学を題材とした執筆多数。近著に『「定年後」の“お金の不安”をなくす』(総合法令出版)、『定年前』(朝日新聞出版)など。