働き方 インタビュー・対談 組織 人財 リーダーの役割とは、自分を知りメンバーの言葉に耳を傾けること 伊藤羊一氏

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2021.12.15
リーダーの役割とは、自分を知りメンバーの言葉に耳を傾けること

Zアカデミア学長、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部長、グロービス経営大学院客員教授などさまざまな役職を兼任しながら、『1分で話せ』『0秒で動け』といったベストセラーを著してきた伊藤羊一氏。
最新著書の『FREE,FLAT,FUN ──これからの僕たちに必要なマインド』では、リーダーシップやマネジメントに関する独自の考え方を説いている。
伊藤氏が考えるこれからの時代のリーダーシップとは──。

「ヨコの関係」におけるリーダーシップのあり方とは

リーダーシップのあり方が変化しているのは、簡単に言えば、社会構造が変わったからです。以前は、しっかりしたヒエラルキーのある大きな組織でたくさんの“もの” をつくることが社会にとっても経済にとってもよいことでした。つまり「タテの関係」が機能していたわけです。しかし、バブル崩壊以降、世の中はタテからヨコに変わりました。

「ヨコの関係」とは、職位の高い人も低い人も、忙しい人もそうでない人も、ロジカルな人もエモーショナルな人も、みんな対等にアイデアを出し合えるような関係です。ヨコの関係においては、権威や経験は通用しません。すべてをフラットなコミュニケーションのなかからつくりだしていかなければなりません。

ヨコの関係におけるリーダーの役割の一つは、1on1コミュニケーションのなかで、メンバーの話を聞くことです。1on1は、リーダーが自分の言いたいことを伝える場ではありません。相手に好きなだけしゃべってもらう場です。人はしゃべることで頭のなかがクリアになります。自分の考えが整理されて、悩みから解放されていきいきと働けるようになります。それをサポートするのがリーダーの仕事です。いい質問をしようと、あまり意識する必要はありません。単に「聞く」のです。

人の成長とは「気づきの回数」である

もちろん、リーダー自身に意志がないとメンバーはついてきてくれません。メンバーの話に耳を傾けながらも、「自分はどうか」ということは明確にしておく必要があります。「自分はどうか」をはっきりさせるためには、「自分を知る」必要があります。しかし多くの人は、日々の生活のなかで、自分を知る作業を驚くほどやっていません。理由は2つあります。1つは「忙しすぎる」から、1つは「自分を知ることが怖い」からです。

自分自身を振り返ると、昔の理想と現在の自分とのギャップに絶望して、落ち込んでしまう。そんな人が少なくありません。以前の僕もそうでした。しかし自分に正面から向き合わなければ、自分を知ることは決してできません。

自分に向き合う最良の方法は、それを日常の仕組みにしてしまうことです。やるべきことは4つです。まず、その日の最後に「一日で一番印象的だったことを言葉にする」こと。次に「それが自分にとってどんな意味があるか」を考えること。3つめに「そこから気づきを得る」こと。そして4つめが、「その気づきをもとに何かをやってみる」ことです。

これをとにかく毎日やり続けます。そうすると、だんだん自分にとって大切なこと、心地よいこと、やりたいことが見えてきます。毎日の振り返りに加えて、週に1度、月に1度の振り返りを行うとさらに効果的です。

もう一つ、これまでの人生をロングタームで振り返り、ライフラインチャートをつくってみることもおすすめします。それによって、「結局のところ自分は何なのか」がよく見えてきます。人の成長とは、気づきの回数である。そう僕は断言します。自分を振り返り、気づきを得ること。それが成長に必要な唯一の要素です。毎日の振り返りと、ライフラインチャートづくりは、自分を成長させるために欠かせない作業といっていいでしょう。

図1 自分を知るための手順

Step1言葉にする 一日の最後に「今日一番印象的だったこと」を言葉にしてみる。仕事のことでもプライベートのことでもよい。
Step2意味を考える それがなぜ自分にとって印象的だったのかを考え、その出来事の「意味」を探ってみる。
Step3気づきを得る 「意味」を探ることから、「ああ、そういうことか」という気づきが生まれ、自分にとって大切なこと、不快なこと、やりたいこと、やりたくないことなどが見えてくる。
Step4やってみる 次の日は、その気づきをもとに、やりたいことをやる、やりたくないことをやらない、不快なことを避ける、大切なことを守るなど、具体的な行動を起こしてみる。

大切なのは「だらだら話す」こと

仕事には生産性や効率が求められます。しかし、コミュニケーションに生産性を求めてはいけません。大切なのは「だらだら話す」ことです。時間をかけて話さないとわからないことがたくさんあるからです。仕事に生産性や効率化が必要なのは、余った時間でだらだら話すためといってもいいくらいです。

僕は『1分で話せ』という本を書いていますが、知り合いからは「羊一さんって、1分で話せたためしがないよね」とよく言われます。「1分で話す」ことと「だらだら話す」ことは矛盾しません。人はだらだら話しているうちに、何を言っているかわからなくなってきます。そうなると相手に話が通じなくなるので、自分の言いたいことをシンプルに構造化する技術が必要です。それがすなわち「1分で話す」技術です。

コロナ禍以降、だらだら話すことがなかなかできなくなっています。オンラインでのコミュニケーションは効率化という点で素晴らしいメリットがあります。しかし、オンラインでだらだら話すのはなかなか難しいものです。コロナ禍は、対面でだらだら話すことの大切さをあらためて僕たちに教えてくれたような気がします。

熱量を伝え、「自分はどう考えるか」を常に問う

Adecco Groupがグローバルで実施したリーダーシップに関する調査結果によれば、リーダーに対するチームメンバーの不満が少なくない一方で、リーダー層の半数近くがマネジメントの方法に悩んでいるようです。リーダーの皆さんが課題と感じているのは、とくに「オンボーディング」「スタッフが仕事で苦しんでいるタイミングの把握」「キャリア開発のサポート」などということでした。

リーダーへの不満も、リーダー自身の課題も、1on1コミュニケーションで100%解決する。そう僕は言い切ってしまいたいと思います。メンバーとの1対1の対話を継続し、一人ひとりがいきいきと働けるようにすることがすべてです。一人ひとりと顔を合わせて話をすれば、「全然大丈夫です」と言っていても、大丈夫じゃないことがわかります。「大丈夫じゃないこと」を率直に言ってもらえるような関係を根気強くつくっていくことがリーダーの役割です。

メンバーに率直さを求めるなら、自分自身も率直でなければなりません。コミュニケーションとはあくまで双方向的なものだからです。自分がカッコつければ、相手もカッコつけて本音を言わなくなります。逆に自分の弱さをオープンにすれば、相手も心を開いてくれます。

1on1で自分が話す局面になったら、僕は自分の「熱量」を伝えることを大切にしています。熱量は、自分の「生きざま」を相手に見せることから生まれます。僕は54 歳ですが、僕の生きざまは、大げさにいうなら、今この瞬間に集約されています。相手と話しているその瞬間に自分の生きざまのすべてがある。そう考えることから熱量が生まれ、相手の心に自分の言葉が届くのです。

コミュニケーションによって、一人ひとりが悩みから解放されることによって、仕事は間違いなく効率化します。しかし、それは時間のかかる作業です。効率化は決して効率的には実現しない。そのことを強調しておきたいと思います。

僕がリーダーや組織のあり方について「これでいいのかな」とまがりなりにも考えられるようになったのは、つい最近のことです。それまでは、長い試行錯誤の期間がありました。30代、40代の皆さんはまだまだこれからです。「何が正解か」ではなく、「自分はどう考えるか」を常に問いながら、新しい時代にふさわしいリーダーシップを身につけていただきたい。そう思っています。

Profile

伊藤羊一氏
Zホールディングス Zアカデミア学長

日本興業銀行、プラスを経て2015年よりヤフー。現在Zアカデミア学長としてZホールディングス全体の次世代リーダー開発を行う。またウェイウェイ代表、グロービス経営大学院客員教授としてもリーダー開発に注力する。2021年4月に武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)の学部長に就任。代表作に52万部超ベストセラー『1分で話せ』(SBクリエイティブ)。ほか、『1行書くだけ日記』(SBクリエイティブ)、『FREE,FLAT,FUN』(KADOKAWA)など。

伊藤羊一氏