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2022.08.23
組織文化の醸成に重要なカルチャーモデルのつくり方とは

「せっかく採用した人財がすぐにやめていく」「上層部と現場の意見が異なり物事が進まない」
「パーパスを掲げても一体感が得られない」――。多くの企業から聞こえる悩みだ。
組織の開発やカルチャー醸成の支援に取り組む唐澤俊輔氏は、これらの原因として「企業文化が社内外と共有できていないこと」を挙げ、「カルチャーモデルを設計する必要性」を指摘する。
唐澤氏にカルチャーを醸成する意義や活用の仕方について語ってもらった。

ビジネスモデルのようにカルチャーのモデルも示すべき

カルチャーモデルとは、唐澤俊輔氏が提唱する組織開発のための方法論だ。

「事業と組織は両輪だといわれます。事業戦略でビジネスモデルを示すように、組織戦略でも意思決定のプロセスや現場への権限委譲の度合い、コミュニケーションの取り方、大事にしていることなど、いわゆる組織文化を言語化して、カルチャーモデルを明示することが重要です」

その理由として、唐澤氏は「カルチャーモデルは企業の競争優位性の土台になるからだ」と指摘する。現にGAFAなどのグローバル企業は、カルチャーの設計と明示に力を注いでいるそうだ。

「数あるECサイトのうち、Amazonがほぼ1人勝ちしているのは、Amazonにはっきりとしたカルチャーがあり、それを消費者と共有できているからでしょう。組織づくりにも非常に有効です。たとえばNetflixは『カルチャーデック』という文書にカルチャーを詳しく言語化して公表しています。これがあることで採用の際には自分に合いそうな会社だと判断した人が集まってくるので、ミスマッチが起こりにくくなります」

ただし、古くから根付いている企業独自の文化を文書にまとめればいいわけではない。

「上司に意見しにくい文化が、報告書類の改ざんにつながった企業の例もあります。カルチャーは経営そのものに大きく影響を及ぼします。戦略としてとらえて自社のカルチャーを設計することが重要です」

パーパスと実際の組織の一貫性が重要

昨今、企業のパーパスを掲げたものの「社内に浸透しない」という声が多いが、「行動が伴っていなければカルチャーとして浸透しない」と唐澤氏は断言する。

「カルチャーはその企業や組織に所属する人々の日々の行動や言動の積み重ねの結果です。パーパス、あるいはミッション、ビジョンでSDGsへの貢献を掲げているなら、社員全員がペットボトルの飲料をやめ、ごく当たり前にマイボトルを持ち歩くようになって初めてカルチャーになるのです」

そのためには、行動指針であるバリューや制度設計、採用などすべての施策をパーパスと整合させなければならないと、唐澤氏は強調する。

「メンバーシップ型で終身雇用を前提に安定して成長したい企業であれば、バリューにしっかりそれを反映させるべきです。経営判断で迷ったときに立ち返り、安定的な事業運営をすることを再確認して無理なことをしないと判断できます。あるいは、イノベーティブな組織づくりのためにジョブ型雇用を取り入れるなら、人事制度も採用の方法も変える必要があります。年功序列で新卒一括採用を行い、3年ごとにジョブローテーションさせたままジョブ型雇用を導入してもうまく機能はしないでしょう。一貫性がなければパーパスは絵に描いた餅になってしまうのです」

自社を4象限に当てはめてまずは「経営スタンス」を決める

具体的なカルチャーのつくり方として、唐澤氏は、「現状のカルチャーを棚卸しする」「ビジョン・ミッションを設定する」「カルチャーの方向性を決める」「カルチャーを言語化する」「カルチャーを浸透させる」という5つのプロセスを挙げる(図1参照)

図1 カルチャーをつくる5つのステップ

1 現状のカルチャーを棚卸しする(カルチャーモデルの7S)

組織のカルチャーを構成する要素を整理すると、次の7つになる。

Stance:組織としてのあり方
Shared Value:行動指針
Structure:行動指針
System:制度
Staff:人の採用や育成
Skill:組織としてのスキル、強み
Style:組織風土
2 ビジョン・ミッションを設定する

すでに、ビジョン・ミッションあるいはパーパスを掲げている会社ならば、改めて自社にとってそれがふさわしいのか、ありたい姿なのか検討する。

3 カルチャーの方向性を決める

上の7つの要素をどうしたいのか決め、カルチャーモデルを設計する。7要素を整合させること。

4 カルチャーを言語化する

人事制度や採用計画など、具体的な施策に落とし込む。

5 カルチャーを浸透させる

社員がバリューに基づいた行動を日常的に行い、カルチャーを自分の言葉で語れるようになるまで浸透させる。

ここでは「①現状のカルチャーを棚卸しする」の、スタンスの見つけ方を紹介しよう。

経営スタンスは、「カリスマリーダー経営」「チームリーダー経営」「全員リーダー経営」「複数リーダー経営」の4つに分類できるという(図2参照)。

図2 経営スタンスの4象限

経営スタンスの4象限 経営スタンスの4象限

出典:唐澤俊輔著『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』p133の図を基に作成

「カリスマリーダー経営」は、カリスマ経営者がリードして組織が成長するタイプだ。「チームリーダー経営」は、経営陣がチームで意思決定し安定した経営を進めるというスタイルで日本の大手企業に多い。「複数リーダー経営」は子会社別、事業別などに組織を分散させ、各責任者に権限を委譲するタイプ。「全員リーダー経営」は、大きな方向性を規定し、後は個人に任せるスタンスをとり、スタートアップ的組織やIT系ベンチャー企業に多い。

「自社は4象限のどこにいるのか、どこに行きたいのか、何人かで議論し可視化しましょう。社長は左上だと言うけれど社員は右上だと思っているということもあります。そのギャップもしっかり認識して共有することが重要です」

認識のギャップを分析することではじめて、どこを目指すのか方向性について議論することができる。なお、議論の際は、言葉の意味合いまで明確にすることが大事だ。「スピーディーにやろう」と聞いて、質より早さを重視すべきと捉える人もいれば、二度手間を避けるため最初から完璧を目指すことと捉える人もいる。自分たちにとっての「スピーディー」とは何なのか、コンセンサスをとっておかないと、実務の際に意思決定の遅れを生みかねない。

多様性が価値を生む今こそ価値基準の明確化が重要

「カルチャー設計には経営トップのコミットは絶対に必要。社長、経営層、そして多様な部門や職種、年齢の人が、忖度抜きに議論するのが理想です。もし経営層でない人がカルチャーモデル設計に取り組みたいなら、社長とも社員とも話のできるミドル層を仲間に入れるといいですね。一方で自分も有志を募り、みんなでワークショップや議論の場をつくっていくという方法が良いと思います」

唐澤氏は、今後は多くの日本企業が、4象限のなかの「チームリーダー経営」から「全員リーダー経営」すなわちスタートアップ的組織に移行すると分析する。

「人口増加が止まり市場の伸びも鈍化した今、前年と同じことをして成長し続けるという状況は望めなくなっています。これからは非連続な成長を求めなくてはいけない時代です。それには似た人が集まって改善を重ねるのではなく、多様な人が集まり化学反応によるイノベーションを起こす必要があります」

凝集性の高さを強みにしていた組織から、多様性を強みにする組織への変革が迫られるわけだ。

「また、昨今多くの企業が注力しているDX推進にも、スタートアップ的組織への変革が有効です。DXの意義は、顧客に対して一貫して価値を提供できる体制を整えること。『チームリーダー経営』の、縦割りの部門内で改善を重ねる組織から脱却し、部門横断的に情報を共有できる組織にならないと実現は不可能です。

多様な人、多様な部門が集まると、これまでのような阿吽の呼吸は成り立たなくなります。だからこそカルチャーを言語化し、バリューとして価値基準を明確にすることが重要です」

これからも成長を続けるために、カルチャーづくりは急いで取り組むべき課題といえそうだ。

Profile

唐澤俊輔氏

唐澤俊輔氏
Almoha LLC共同創業者COO

デジタル庁 人事・組織開発。グロービス経営大学院 客員准教授。2005年に日本マクドナルド入社。社長室長やマーケティング部長として組織変革を牽引、Ⅴ字回復に貢献。2017年メルカリ入社。
執行役員VP of People & Culture兼社長室長としてカルチャーの言語化や浸透を図り組織の成長とグローバル化を推進。2019年にはSHOWROOM COOに着任し事業と組織を成長に導く。2020年より現職にて、人事・組織開発のためのコンサルティングや人事システムの開発を行う。