2025年に閣議決定された「地方創生2.0」では、地方の人口減少を抑えることに比重を置いていた従来方針から、地域経済をどう伸ばすかに力点が移されている。しかし、地方創生の要となる自治体では若手職員の流動化が進み、従来の年功序列型の育成モデルが見直しを迫られている。一方、自治体や企業のデジタル化・DXの遅れが課題となるなかで、民間でのDXやイノベーションの経験を持つ人財が自治体に入り、新たな動きを生み始めている。今後、地方にはどのような人財が求められ、働き方はどう変わるのか。
地方自治体のデジタル化・DXや地域イノベーションを専門に研究する、立命館アジア太平洋大学 サステイナビリティ観光学部准教授・狩野英司氏に話を聞いた。
「地方創生2.0」が目指すのは人口減少でも機能する地方経済
昨年6月に閣議決定された「地方創生2.0」は、これからの10年を見据えた新しい地方創生政策である。人口減少を前提とし、人口規模が縮小しても経済成長し社会を機能させる適応策を講じることが大きな特徴だ。
立命館アジア太平洋大学 サステイナビリティ観光学部准教授・狩野英司氏によると、地方創生2.0には大きく2つの特徴があるという。
「1つは、各地域の課題を真摯に受け止めて、そこから解決策を積み上げていくことを柱に据えたことです。これまでは政府が支援メニューを決めて、助成金を支給する形でした。しかし、型にはまった支援では、課題解決の効果が薄かったのです」(狩野氏)
もう1つは、デジタル化・DXの徹底活用だという。
「コロナ禍を経てリモートワークが進み、地方でも働き方が多様化しました。また、ここ5年でデジタル活用も進み、地方における課題解決力が高まっています。深刻な人手不足に陥っている自治体や企業では、通常業務においてのDX推進のほか、地域課題の解決にもデジタル技術を活用することが求められるようになっています」(狩野氏)
とはいえ、単にデジタル人財を育成したり都市部から人財を集めたりすればよいと考えては、地方の課題解決の本質から外れてしまうと狩野氏は言う。
「確かに、地方の企業の従業員や自治体の職員には、これからさらなるデジタル・IT分野のリテラシーやスキルが求められます。しかし、デジタルを導入すること自体が地方創生につながるわけではありません。重要なのは地域課題の解決であって、デジタル活用は手段にすぎないからです。今、地方の人財に求められているのは、地域課題を解決するというマインドセットと一定のデジタルリテラシーです。専門的なスキルや知識はその後の話で、専門家の力を借りる手もあります。求められているのは、デジタルの詳しい知識よりも変革のマインドです」(狩野氏)
図1自治体職員に求められるリテラシーの変遷
自治体職員に求められる力は、「読み書き」から始まり、情報/ITリテラシーやデジタルリテラシーへと広がり、現在ではデジタルを活用した課題解決力へと、急速に高度化している。
出典:狩野氏の資料を基に作成
これは、自治体職員に限った話ではなく、企業やその他の組織も共通して求められる軸だと狩野氏は語る。
「地域課題は、自治体だけでは解決できません。地域の企業やその他の団体の協力が不可欠です。他方、企業にとって地域課題はビジネスチャンスです。ある地域の課題を解決する技術やサービスを開発すれば、全国に横展開できます。地域課題解決に取り組むことは、官民双方にメリットをもたらします」(狩野氏)
実際に、自治体と企業が共同でAIツールを活用し、道路の路面の画像から補修が必要な箇所を特定する技術を開発した事例がある。さらに、衛星を利用して、水道管の漏水リスクを把握するシステムを企業が自治体との協働によって開発した事例もあるという。
こうした技術は、1つ開発すれば全国どの地域でも、場合によっては世界に展開することも可能となる。
「これからは各地域で自治体と企業だけでなく、大学、住民といった関係者がネットワークやコミュニティーとしてつながり、課題解決に向き合う体制づくりが求められます。個人の能力だけでなく、『関係性』が地方創生の基盤となるのです」(狩野氏)
では、そういう環境のなかで今後最も求められる人財とはどのようなものなのか。狩野氏は「地域の現場の課題を見つけ、特定することができ、関係者と共に解決策を考え、実践する、プロデューサー」だという。
「多くの地方自治体では、デジタル分野に限らず、データ分析、デザイン、広報、PRと、あらゆる分野の専門人財が不足しています。今後、地域課題解決に向けて専門性を求められるプロジェクトでは、どこにどの分野の人を配置するとよいのか、そのためにどのような環境やツールが必要なのかを考えることが求められます。なぜなら、組織的な構想もなくただ専門人財を呼び寄せても、力を発揮してもらう場を作れないからです」(狩野氏)
地域課題解決の鍵を握るのは自治体の職場環境の変革
さらに、各地域の課題解決のハードルになることがあるのが、自治体の置かれた環境と独特の人事慣行や組織風土だと狩野氏は指摘する。
「1つは、地方自治体の人手不足です。日本の自治体職員数は他国に比べて少なく、職員は多くの業務を抱え込んでおり、現場は常に余裕がありません。じっくり市民のニーズを拾い、最適な解決策を考える時間がないのです。もう1つは、定期的な人事ローテーションの影響です。長期雇用を前提に、時間をかけてどのような業務も担当できる人財を育てるモデルが基本にあるため、特定の課題に長期で取り組み、専門性を身に付けた人財が育ちにくく、施策が深まらないのです。地域にネットワークを構築できても、こうした人事慣行や組織風土が課題解決の壁になることが多いのです」(狩野氏)
こうした影響が顕著に表れているのが、若手職員の流動化だという。
「旧来の組織文化や働き方に魅力を感じなくなった20代、30代の職員の流出が加速しており、人財不足に拍車をかけている」と狩野氏は明かす。その一方で、地域課題に直接関われる仕事に惹かれて、民間企業から行政の仕事に移る人も増えているという。
「自治体の職員でDXやイノベーション分野で活躍している人のなかには、民間企業から意欲を持って転職してきた人たちが少なくありません。一方で、相対的にそういう人はまだ少なく、組織文化や意思決定のあり方にギャップを感じ、力を発揮できないまま去っていく方もいます。人財を受け入れることに積極的な自治体は増えているものの、人財を生かすための仕組みづくりが追い付いていません」(狩野氏)
外部専門人財の活躍を促す自治体の最適な体制づくり
そこで狩野氏が提唱しているのが、「外部専門人財とプロパー職員のタッグ」である。外部人財は職員にはない視点や専門性を持ち、プロパー職員は組織や地域の実情を熟知している。その両者が補完し合うことで、創造的かつ机上の空論ではない現実的な解決策が生まれる。どちらか一方だけではなく、両者の協働が鍵になるという。また、狩野氏は、企業が積極的に地域課題解決に参画することを強く勧める。
「インフラ、産業、雇用、生活と、いずれも企業の関与なしには成り立たない領域です。企業が地域課題に関わること自体が、地域課題を解決するための人財育成の場になります」(狩野氏)
企業の社員は公共的な視点や新たなスキルを得ることができ、単なるビジネスではなく、「地域のために何ができるか」を考える経験そのものが、個人の成長と新たな着想につながる。同時に、自治体側も民間の知見に触れることで、これまでになかった発想や課題解決の進め方を学ぶ機会になる。
「双方向の学びと人財交流が、地域の力を高める装置になるのです。副業・兼業という働き方も、地方と人財をつなぐ新たな経路になり得ます」(狩野氏)
都市に住みながら地方のプロジェクトに関わる人が増えれば、地域にとっても大きな力になる。
「地方創生2.0は、一見、デジタル化や支援制度の在り方に見えますが、本質的な課題は『人財』のあり方です。より多くの人が地方に意識を向け、新しい関係性を築く流れを作ることが強く求められているのです」(狩野氏)
Profile
狩野英司氏
立命館アジア太平洋大学
サステイナビリティ観光学部 准教授
筑波大学ビジネス科学研究科で博士号取得。中央官庁、民間コンサルティング、政府系シンクタンク等を経て、電子政府・行政DX、業務改革、プロジェクトマネジメントなど豊富な実務経験を持つ。自治体のDX人財育成、デジタル技術活用、デザイン思考を軸に、現場で実装できる方法論の構築を進めている。複数自治体のDX推進アドバイザーや行政情報システム研究所との共同研究など、研究と実装をつなぐ活動を行う。