高 東也氏
大阪大学 経済学研究科 准教授
2014年ワシントン大学セントルイスにて博士号を取得。2014年よりアーカンソー大学経済学部の助教授、同大学の准教授を経て、2022年12月より現職。その他、大阪大学社会経済研究所招聘研究員、慶應義塾大学経済学研究科招聘教員を歴任。専門はマクロ経済学、技術とスキルの代替性、経済格差、機械学習を用いたマクロ経済分析など。国際的な学術誌に多数の論文を発表。

AIの技術進化が急速に進むなかで、人間に求められるスキルも大きく変わっている。
AIエージェントの実装が進み、知的労働の多くをAIが担う時代において、われわれはどんな資質・スキルを強みとして磨いていく必要があるか。企業や個人はどのようにスキル開発を進めることが求められるのか。AI技術の最新動向と、人間の労働やスキルへの影響に詳しい大阪大学大学院経済学研究科准教授の高東也氏に話を聞いた。
AIテクノロジーは目覚ましい速度で進化を続けている。人間の指示を待つことなく自ら判断・行動できる高度な自律性を備えた「AIエージェント」の実装が進み、2025年は「AIエージェント元年」と呼ばれた。
現在は、世界中のネットワーク上のあらゆる結節点にAIエージェントを配置し、それらが互いに情報共有・連携しながら、複雑なタスクを自律的にこなす「エージェンティックWeb」という構想も進んでいる。ただし、高度な自律化が進むとはいえ、AIは「ツール」であり、活用主体はあくまで人間だ。人間側も、AIの進化に合わせてスキル設定の見直しやスキルの高度化を図っていくことが欠かせない。
「米国では、自社のビジネスに最適なAIエージェントの活用モデルを設計したり、AIエージェントをいわばチームメンバーの一員として位置づけてマネジメントしたりするスキルが重視されており、実際にそのような求人が増えています。日本でも今後、こうした人財ニーズが高まっていく可能性があります」(高氏)
日々進化するAIを適切にマネジメントし、協働を実践していくために、人間側には具体的にどのようなスキルが求められるのだろうか。その核心を突き詰めると大きく2つに整理できると高氏は話す。一つは、特性を理解したうえで目的に応じて「AIを使いこなす能力」。もう一つは、倫理的な判断や分析的思考など、AIでは代替できない「人間ならではの能力」である。
こうした話はこれまでも繰り返し語られてきたが、重要なのはこれらのスキルをできるだけ高い解像度で捉え、実際のスキル開発に落とし込んでいくことだ。高氏は、AI時代に求められるスキルをより具体的に捉えるため、「スキルピラミッド」の枠組みを用いて4つに整理している(図参照)。
「AIリテラシー」を基に、AIが大量のデータから学習した確率モデルであるという正体を知り、批判的思考と評価能力で限界やバイアスを見抜く力が必要。
出典:高東也氏の資料を基に作成
「非認知スキル」は、ピラミッド全体の土台となるスキルである。たとえ高度なAIであっても、AI自体は意志を持たない。課題解決への意志や情熱、目的の設定、倫理的な判断、さらに共感に基づいて信頼関係を構築する力などはいずれもAIは担えないため、人間が追求すべき要素といえる。
AI時代は「人間らしさ」が問われる時代でもあると高氏は強調する。
「AIが浸透していくと、表現が均質化され、美しく洗練されたものばかり世の中に溢れる可能性もあります。すると逆に、不完全さや、遊びや無駄を含む人間的な要素がむしろ魅力的な特徴として評価されるかもしれない。これらを生み出す人間独自の非認知スキルは、ぜひ強化していくべきものです。企業としても、従業員の好奇心や遊び心など、一見不効率とも思える要素を排除せず、受け入れるような組織風土を醸成していくことが、AI時代のスキル開発という意味でも重要になるのではないでしょうか」(高氏)
「基礎的認知スキル」は、読解力や計算力、記憶力といった学力テストなどで測定される知的能力を指す。これらも人間特有の能力と考えられてきたが、最近は生成AIが急速に代替し始めている。とはいえ、そのすべてがAIに置き換えられるわけではない。AIの出力結果の妥当性を吟味したり、文脈を踏まえて解釈したりする分析的思考や批判的思考は、人間特有のスキルとして引き続き重要である。
「日本の学校教育や企業の人財育成で重視されてきたのは、主に読解力や計算力といった『正解を導く力』でした。半面、前提を問い直したり、複数の視点から批判的に検証したりする思考力は、相対的に評価されにくかった。生成AIが『正解を導く力』を急速に肩代わりするようになった今、教育や人財育成も、他者との対話や議論を通じて深く考え、分析的思考や批判的思考を育てていくようなモデルへと転換していく必要があるでしょう」(高氏)
AIに対する基本的な理解と、それを倫理的かつ効果的に活用するためのスキルを指すのが「AIリテラシー」。ChatGPTなどの言語系生成AIは、大規模言語モデル(LLM)を用い、事前学習した膨大なテキストデータから確率的に最も自然な言葉の並びを導き出して文章を生成しているにすぎない。学習データの中身もブラックボックス化しているので、ユーザーがその信憑性を確かめることもできない。
「細かなアルゴリズムまで理解する必要はないものの、大まかにでもAIの出力の仕組みを把握しておくことは大切です。最低限の理解があってこそ、情報の信憑性を疑ったり、背景にあるデータソースを意識したりしながら、AIをツールとして適切に活用できるようになります」(高氏)
ピラミッドの最上層に位置するのが「専門的スキル」だ。これもAIの登場により変化が起こっている。システム開発におけるプログラミング、コーディングや、法律事務所における法律文書の作成などは高度な専門的スキルとして捉えられてきたが、生成AIによって代替されつつあるからだ。
新たに求められる専門的スキルとして高氏が挙げるのが「AIマネジメントスキル」である。AIエージェントの実装が進めば、複数のAIを部下やアシスタントのように機能させるのが当たり前になる。AIを自分の業務のなかでどのように位置づけ、どの役割を担わせるかを設計し、適切に指示を出していくマネジメント能力が今後の専門的スキルの柱になると考えられる。
もう一つの方向性として高氏が強調するのが、複数の専門スキルの掛け合わせによる新たな専門性の創出だ。例えば、プログラミングスキルだけではAIに代替される可能性が高いが、プログラミングに加えて法務の知識を持つ人財であれば、AIを活用してシステム開発を進めつつ、著作権や契約上の法務リスクなどを同時に検証するといった役割を担える。
「その意味で、これからの時代はスキルの『ダイバーシフィケーション(分散化)』が重要になります。特定のスキルに過度に依存するのではなく、複数のスキルを組み合わせて身につけることで、AIに代替されるリスクを避けながら、新たな専門性を発揮できるようになると期待されます」(高氏)
最後にもう一つ重要なのが、これらのスキルを固定的なものとして捉えない視点だ。これまでもデジタル化やグローバル化などを背景に、経済・ビジネス環境は大きく変化し、求められるスキルも更新されてきた。AI時代はその変化が劇的に加速する可能性が高い。そのため今後は個別スキル以上に、「新たなスキルを素早く身につけるスキル」や「スキルを使いこなすスキル」など、より上位のスキル=“メタスキル”の重要性が高まっていく。
「新卒一括採用や長期雇用が前提となってきた日本企業では、働き手はスキル習得を企業側に委ねがちで、自ら将来の変化を見据えて学び続けるという意識はそれほど強く求められてこなかった。企業も働く個人も、求められるスキルを常に更新される動的なものとして捉え、メタスキルの習得に注力していくべきではないでしょうか」(高氏)
高 東也氏
大阪大学 経済学研究科 准教授
2014年ワシントン大学セントルイスにて博士号を取得。2014年よりアーカンソー大学経済学部の助教授、同大学の准教授を経て、2022年12月より現職。その他、大阪大学社会経済研究所招聘研究員、慶應義塾大学経済学研究科招聘教員を歴任。専門はマクロ経済学、技術とスキルの代替性、経済格差、機械学習を用いたマクロ経済分析など。国際的な学術誌に多数の論文を発表。