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AIエージェントの時代―求められるのはゼロからイチを生む 「本質志向」のリスキリング

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2026.04.24
AIエージェントの時代―求められるのはゼロからイチを生む 「本質志向」のリスキリング

生成AIが世界のビジネスの現場を席巻している。今や、目的を伝えると自律して成果を生み出す「AIエージェント」に進化した。この時代に不可欠なのは、明確な目的設定、目的達成までの逆算設計、人々を魅了する物語づくりだと一般社団法人AICX協会代表理事の小澤健祐氏は言う。AI時代に求められる本質的なリスキリング、その核心に迫った。

ベーススキルの習得には「目的・逆算・ブランド化」がカギ

AI時代のリスキリングとは、という問いに、AIエージェントの実装・普及に努める一般社団法人AICX協会の代表理事・小澤健祐氏は率直な思いを語る。

「プログラミングやマーケティング、ライティングやデザイン、さらにはセールスのスキルも、生成AIが進化したAIエージェントに聞けば対応できてしまえるのです。そうしたなかで、何のスキルを学び直し、磨くのか、私は疑問に感じています。重要になってくるのは、AIエージェントをいかに活用するかというスキルです」

このスキルはベーススキルとも言われる。その軸は図1のように3つに分かれる。まず「目的を決める」、次に目的達成までを「逆算する」、最後に人々を魅了する「ブランドにする」である。小澤氏は料理に例えて説明する。

図1身につけるべきベーススキル

身につけるべきベーススキル

AIエージェントの時代には、AIに指示を出す、「目的設定力」、目的達成までの「逆算設計力」、人々を惹きつける「ストーリーテリング力によるブランド化」が求められている

出典:小澤健祐氏の資料を基に作成

「例えば、オリジナルのカレーをブランド化するとしましょう。そこで自分が作りたいカレーを『具材にじゃがいもは入れず玉ねぎ3個で作る』『玉ねぎは1個ずつみじん切り・粗みじん・ざく切りにする』という具合に目的を決められるのは、人間にしかできません。そしてその目的を果たすためには、作る手順や所要時間を逆算して設計する必要があります。さらに、他人に食べたいと思ってもらえるようにブランディングすることは人間に依存したスキルです」

こうした人間にしかできない発想を、いかに身につけて実行できるかが重要だと小澤氏は言い、さらにプロセスを順序立てて説明する。

「目的を決めるということは、課題を見極め、本質に到達すること。次に逆算は論理的な考えを基に戦略を築くことです。そして魅力的なストーリーを語る対人折衝によって物事を優位に進め、ブランド化し、ファンになってもらうという流れです」

今、日本ではIT業界も含め、AIリテラシーやプロンプト(指示)能力、システム思考などを高めるハードスキル志向が先行している傾向がある。小澤氏によれば、AIには模倣ができない経験や内省に基づく高次元な能力であるメタスキルや、人間ならではのソフトスキルも重要だということを忘れてはならないという。

例えばメタスキルには、顧客の言葉の裏に隠された懸念を察知する能力、熟練の職人が言葉で説明しきれない「指先の感覚」での微調整、経験豊富なリーダーによる「場の空気」を読む適切な対応力などがある。

また、ソフトスキルにはAIが提示したデータ解釈の偏りを見抜き、判断する力やAIの提案をわかりやすく説明し、納得させる対人折衝能力などがある。AIエージェントの時代だからこそ、このメタスキルとソフトスキル、そしてAI協働する技術知としてのハードスキルに注目し、意味を正しく理解しておくべきだろう。

AIエージェントを活用するこれからの企業組織のカタチとは

ではAIエージェントは、企業組織の中でどのように利用されるべきなのだろうか。小澤氏は、「AI活用の4象限」(図2参照)を使って「AIアーキテクト」への転換に活用するべきだと提言する。

図2AIの4象限を理解し、AIアーキテクトへ転換

AIの4象限を理解し、AIアーキテクトへ転換

生成AIの専門職の「ビルダー」や、経験の浅い「ユーザー」、経験豊富な「プロフェッショナル」も、AIエージェントを活用してベーススキルを習得すれば、「AIアーキテクト」に成長してAIと業務知識を有効活用して業績を上げるビジネスパーソンへの転換を目指せる

出典:小澤健祐氏の資料を基に作成

企業の人財はAI活用度合いによって4つの属性に分けられるという。「AIアーキテクト」とは、業務に精通し、かつビジネスの目的から逆算してAIエージェントを使って戦略・戦術を立案できる人財で、業績を上げるビジネスパーソンと言い換えられる。「AIをつくる側」であり、この役割としては他に、AI技術に詳しく、プロンプトテンプレートやワークフローを提供できる「ビルダー」がいる。

一方で「AIをつかう側」には、経験が浅く知識量の少ない「ユーザー」と、経験豊かでパフォーマンスが高い「プロフェッショナル」がいる。

この状況を踏まえ、「AIアーキテクト」に属人化された暗黙知のスキルをテンプレート化して提供することで、「ユーザー」をはじめ全社で活用されるようになれば、会社の業績は飛躍的に高められるという。

「仕事のパフォーマンスが低かった『ユーザー』でも、仕事のやり方を仕組みとして理解し使えるようにマネジメントしていけば、成功体験やキャリアを積むことで、自分なりに仕事への意見が持てるようになります。前述のカレーの例にしても、煮込む時間を増やし、このスパイスを加えるともっとおいしくなるのでは、といった前向きな提案が出てくるようになれば、経験を重ねていくうちに『プロフェッショナル』へと成長していきます。また、『プロフェッショナル』もこれまでの経験を生かし、生成AIの使い方を熟知することで、『AIアーキテクト』へ転換していけるのです」(小澤氏)

AIエージェントの時代には、「ユーザー」から「AIアーキテクト」に成長した人財が、さらに後発の「ユーザー」を育てていくような好循環を生み出す経営・組織マネジメントが必要だという。これによりAIの活用能力がより高まり、会社の生産性を高めることにもつながる。

今後はどの企業においても、AIエージェントが活用される時代となる。情報収集やデータ分析、コンテンツ制作といった多くの仕事が高度に進行するなか、省力化、コスト削減は進み、人間の仕事が奪われるといった懸念もいよいよ本格化しつつある。

「ハリウッドでは、映画製作への生成AI導入に対して俳優や脚本家による反対運動が起き、欧米では生成AI活用に否定的な労働運動も起きています。どのように解決、収束していくかはわかりませんが、このAIエージェントの時代の流れを止めることはできない。むしろAIに奪われることのない、人間にしかできない能力とは何かを見極めることが重要になります。その職種が『AIアーキテクト』なのです」(小澤氏)

AI時代に一層重要性を帯びる独自色を打ち出す企業カルチャーの構築を

企業でのAIエージェント活用がスタンダードになる時代だからこそ、「AIアーキテクト」が重要視すべきものがあると小澤氏は話す。

それが企業のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)である。企業の存在意義、将来像、共有すべき価値観を表すものだが、これらを明らかにしておかないと、どの企業もAIエージェントによって均質化してしまい、独自色を打ち出すことができない。魅力的な企業カルチャーがあれば、ファンや顧客が定着し、魅了されて入社を志望する人財も集まってくるだろう。

「例えば、鳥井信治郎氏の名言『やってみなはれ』は広く知られている。AIエージェントもそうしたステートメントを理解してタスクを実行するので、会社の存在意義を今まで以上に言語化することが求められます」(小澤氏)

明文化されたMVVがない企業やカルチャーの浸透が浅い企業の場合は、経営者やAIアーキテクトが主体となり、全社で自分たちの企業を見つめなおしてつくればいい。

「どんな企業なのか、今後どのような企業を目指すのか、また経営者と従業員とで共有したい価値観などをまず確認し、言葉に落とし込んでいくことが重要です。議論を重ねて共有することが、MVVの策定、企業カルチャーの醸成、さらには企業ブランディングへの第一歩となるでしょう」(小澤氏)

人事とDX部門の連携不足はAIエージェント活用の遅れを招く

AIエージェントの活用にあたり、今、日本の多くの企業で生じている課題が、人事部門とDX部門の連携不足だという。両部門の典型的な役割の違いを示したのが図3である。生成AIが進化・発展を遂げる以前は、部分的なデジタル化やITツールの導入によって業務の効率を高めるという狭義でDXが捉えられていた傾向がある。

図3求められる人事部門とDX部門の相互連携

求められる人事部門とDX部門の相互連携

生成AI(AIエージェント)活用には、人事部門とDX部門の連携が重要となる。組織とツール、双方向の導入が生成AI活用のカギであり、KPIと成功基準を統一し、目標設定を一致させるべきと小澤氏は語る

出典:小澤健祐氏の資料を基に作成

「これまでは、事業モデルの転換をはじめとする企業の根幹を変革するというDX本来の役割を果たすことは難しかったといえます。その意味で、AIエージェントはDXのラストステージとも位置付けられるのです」と小澤氏は話す。

AIエージェントを企業内で誰もが使いこなす時代を迎える今、小澤氏は、「DX部門と人事部門がこれまで以上に連携することが重要です。新しい組織のあり方として、DX部門と人事部門を統合するのも一つの方法だと考えます」と提言する。

これが実現すれば、バックオフィス部門がより強化され、業務効率改善はもちろん、従業員満足度や意思決定の迅速化、コストの削減など、組織全体に好影響をもたらすに違いない。AIの組織的な導入においては、人事部門にこそDXが必要だという。

ゼロからイチを生み出す本質志向の人財育成の視点

小澤氏は、昨今のリスキリング志向について懐疑的な思いを抱いているという。冒頭でAI時代のリスキリングとはという問いに対し、人間にしかできないベーススキルを説明したのは、今こそAIにできないこととは何かを追究すべきと考えているからだ。

「私が大切にしているのは、5つの行動指針です。それが好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、冒険心。これは偶然をキャリアに変えるブランド・ハプンスタンス理論の教えです。小手先のスキルよりも、こうした指針で事象に接することでゼロからイチを生む発想に出合える気がしているからです」

Profile

小澤健祐氏

小澤健祐氏
一般社団法人AICX 協会 代表理事

「人間とAIが共存する社会をつくる」をビジョンに掲げ、AI分野で幅広く活動。書籍『生成AI導入の教科書』『AIエージェントの教科書』の刊行や、今までに1500本以上のAI関連記事の執筆を通じて、AIの可能性と実践的活用法を発信。年間登壇は300回以上。一般社団法人AICX協会代表理事、一般社団法人生成AI活用普及協会常任協議員を務める。Cynthialy取締役CCO、VisionaryEngine取締役、AI HYVE取締役など複数のAI企業の経営に参画。日本HP、NTTデータグループ、Lightblue、THAなど複数社のアドバイザーも務める。NewsPicksのAI番組「AI DIVE」のメインMC。千葉県船橋市生成AIアドバイザーとして行政のDX推進に携わる。NewsPicksプロピッカー、Udemyベストセラー講師、SHIFT AI公式モデレーターとして活動。AI関連の講演やトークセッションのモデレーターとしても多数登壇。AI領域以外では、2022年にCinematoricoを創業しCOOに就任。PRやフリーカメラマン、日本大学文理学部次世代社会研究センタープロボノなど、多彩な経験を活かした活動を展開中。