「寺子屋店舗制度」で考え、行動する社員を育てる 株式会社ガリバーインターナショナル

Case Study 「寺子屋店舗制度」で考え、行動する社員を育てる株式会社ガリバーインターナショナル

若手の育成には、機会を与えろ―。識者はそろって警鐘を鳴らすが「行うは難し」。だが、この難業を実行している企業がある。

クルマ買い取り販売最大手のガリバーインターナショナル。入社1~2年目の社員を「寺子屋」と呼ばれる店舗に集め2年間配属する制度を2009年から始めている。店長が監督のような立場で見守り、新人にも最大限の機会を与え、実践の中で店舗運営や営業などのスキルを育成している。この取り組みの立案者であるHRチームセクションリーダー、菊川正臣氏は「この施策で若手のやる気や責任感が増し、成長スピードが加速しました。新入社員同士の絆も深まり、離職率も大幅に低下した」と言う。

寺子屋店舗である「蔵前橋通り新小岩店」に向かうと、入社1~2年目の社員が、エントランスでの接客から商談、見送りまではつらつと元気よく行っていた。見た目は若いが、立ち居振る舞いは立派な営業マン。素人目には他社員との区別はつかない。なぜ、こうも早く「即戦力」として振る舞えるのだろうか?「 通常店だとベテラン社員に頼ってしまいがちですが、『寺子屋』では否が応でも新人が自ら考え、動くしかありません。それに、お客様にとっては新人だろうがベテラン社員だろうが『ガリバーの社員』。そのお客様の『一人前扱い』が、彼らを本当の一人前にするのです」

とはいえ新入社員の「いきなり本番」による接客は、お客様に迷惑をかける心配や、売上へのインパクトが想定される。「確かに施策を実施した当初は、寺子屋の売り上げは振るいませんでした。しかし寺子屋へのフォローを徹底することで、2013年のキャンペーンでは、寺子屋店舗の一つが、同規模店舗70~80店中、売上トップを達成しました」

売上トップとは、それだけ顧客から支持された証拠だ。一体、どのような、フォローやしかけがあったのか?
「 『予備校』と称して、閉店後に店長が講師役となり、買い取り査定などに関するセミナーを開くなど、日常業務のノウハウを教えます。また店長と新人は、原則として毎日『業務日誌』を交換。新人が書いた業務の疑問点や反省点などを、店長が翌朝までに回答するようにしています。このような店長と新人の二人三脚、そして新人同士の知恵の出し合いなどによって、目的や方向性を自分の頭で考え、問題を解決していく姿勢やスキルを身に付けていくのです」

〈写真右〉「寺子屋」店舗の一つ、ガリバー蔵前橋通り新小岩店の松下誠店長 と入社1年目の水野壮一さん。車を見るべきポイントをこと細かに伝え、新人社員も真剣なまなざしで応える。
〈写真上〉入社2年目の中村光弘さん。2年目ともなれば、査定する際の手順もてきぱきとしている。

自分で考える癖がつくと、お客様の見送りや出迎えも「何のためにやるのか?」にまで考えが及ぶようになる。そこから「よりお客様に喜んでもらうために、今度は小走りで出迎えよう」といった工夫につながる。こういったスパイラルの連続で、「“やらされ感”で携わる仕事とは違う、仕事の面白味が体感できるのです」と話す。

同社では、新人同士が、より一層“切磋琢磨”し合うため、同店舗・エリアで働く新人たちが住む住居も用意する。「寮かシェアハウスで共同生活をし、毎日の食事作りから食費などの共通費の管理も任せています」

職場も住居も共にすることで、新人たちはお互いを励まし合う。だから離職率も寺子屋開始前の約半分の15%程度にまで低下したというわけだ。この数字は生活関連サービス業の離職率24.7%(厚労省)に比べれば大幅に低い。「寺子屋というと、会社が若手に“上げ膳据え膳”をしているように誤解をされがちですが、実は、頼れるのが自分たちしかいないという厳しい制度でもあります。そういった厳しい環境で仕事に携わることで、こちらが想いもしなかった潜在能力を発揮するのです」

ガリバーインターナショナル HR チームセクションリーダー 菊川正臣 氏