VOL.53 特集:“21世紀型人財”を育成するタレントマネジメント

Case Study 英国ピルキントン社の買収を機に、グローバルタレントの育成へ
日本板硝子株式会社

2006年、英国ピルキントン社の買収を機に、一気にグローバル企業へと舵を切った日本板硝子(NSG)。ピルキントンは社員数、売上高ともにNSGの2倍の規模を持っていたが、注目すべきは多国籍企業として先行するピルキントンの人事制度・人財育成制度をNSGに積極的に活用したことだ。両社の組織統合に関わってきた人事部の梯(かけはし)慶太氏が説明する。

「2008年にCEOや事業・ファンクション部門のトップが外国人に代わったため、語学の問題を始め、日本人社員にとっては苦しみを伴う合併でした。しかし10年を経て、リーダー育成プログラムへの日本人参加者も現れ、グローバルで働く覚悟ができてきたと実感しています」

買収後10年間で段階的に人事制度をグローバルな仕組みに統合し、評価基準となるコンピタンシーモデルも改めた。ピルキントンがノウハウを培ったリーダー育成プログラムは英語で行われるため、日本人にはどうしても語学の壁がある。そこで導入当初の3年間は国内で類似のプログラムを日本語で実施したが、4年目からは退路を断ち英国で英語により実施される本来のプログラムに一本化したという。

日本板硝子株式会社 執行役員
グループファンクション
人事部 人材開発・報酬部長
兼 アジア統括部 部長
梯慶太 氏

「リーダー育成プログラムのコアは、ジュニアマネジメント職向けのED1と上級マネジメント職向けのED2の2コースです。ED1は、イギリスで実施され、湖水地方にあるアウトドア・エクソサイズを含め2 週間、精神的にも肉体的にもチャレンジングな環境のもと、自己認識を徹底的に行い、リーダーシップを磨きます。ED2はより戦略性を重視、2011年からは一部にINSEAD(フランスの経営大学院)から講師を招いています」

さらに2011年からは、ハイポテンシャル人財に的を絞り、トップを含むタレント育成チームがキャリア開発計画をモニタリングする、ピルキントンにもなかった新たな人財育成の仕組みを始めた。

「毎年マネジメント人財の潜在性(ポテンシャリティ)を評価します。このうち、ハイポテンシャル人財はマネジメント全体の5%程度で、毎年一部が入れ替わります。ハイポテンシャル人財は個別にキャリア開発計画が作成され、他部門や海外へ異動するなど、より複雑なリーダー経験を積みます。育成チームはキャリア開発計画作りに関与し、育成の進捗をモニタリングします」

では、どのような人財が選抜されるのだろうか?「現職でパフォーマンスや専門性が高くても、将来のリーダーとしての潜在性を持っているとは限りません。潜在性は統一したリーダー特性で測ります。例えばリーダーとしての素養があること、自己成長志向があること、成果達成指向があること、失敗から学ぶことなどが含まれます」

グローバルレベルでのハイポテンシャル人財の評価基準、育成の仕組みが日本人にも整い、語学力も向上した。だが日本人の場合は、特別な問題点もあるという。

「日本の組織には、身近にグローバルリーダーのロールモデルはたくさんいません。グローバル経験のない上司と人事部がグローバルリーダーを育てないといけないというジレンマがあるのです。この解決のため、ハイポテンシャル人財には外国人上司および部下を持つ環境を経験してもらうようにしています。また日本人は、対人関係力に弱いという評価結果が出ています。その大きな要因は、海外に比べマネジメントへの昇進スピードが遅く経験期間が短かったことです。今後はハイポテンシャル人財については早期選抜・登用を進めていくつもりです」

そのうえで、日本でグローバル人財を育成するために人事部に求められることとは何か?

「日本人だけではグローバルな人事の仕組みは設計できません。日本の仕組みの押しつけでは、外国人は納得しないからです。まずは外国人人財を適正に評価できる目利き力を付け、日本人と外国人が一緒になって、適材適所を判断できるようになること。そのスキルは人事部だけでなく、事業部門も持つべきでしょう」

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