Vol.26 インタビュー:ホッピービバレッジ(株)代表取締役社長 石渡美奈さん

仕事と私 挑戦を通じて

毎日、一分一秒が挑戦。その先に、自分たちの新たな地平が見えてくると信じています。

失敗に終わった最初の挑戦から学んだこと

祖父が創業し、当時父が社長を務めていたホッピービバレッジに入社したのは、1997年です。入社後、まず私が取り組んだのは、新商品開発でした。すでに「女性がマーケットの主役」といわれていた時代でしたが、当時のホッピーはデザインも広告展開も昔のまま。これから取り込まねばならないターゲット層の一人である私が、手を伸ばしたいと思う 商品ではありませんでした。

そこで私は、ブランドを再構築するため、ホッピーを焼酎で割った新商品「hoppy-hi」を企画。入社前に勤めていた広告代理店で学んだブランディングの手法などを活かして取り組んだのですが、ここで大きな壁にぶつかりました。社内でサポートしてもらう体制がなかったのです。新人の私が、周囲の協力を得ないまま突っ走ったことが原因でした。何とか新商品発売にこぎつけましたが、わずか1年半後に撤退。私の最初の挑戦は、手痛い失敗に終わりました。

しかし、この失敗から得たこともありました。新しいターゲット層ばかりを意識したため、昔からのお客様が支持するホッピーのスタイルから離れすぎてしまい、この商品がそもそも"ホッピー"であることが伝わらなかったのです。ホッピーは、祖父の代から長い時間をかけて作ってきたブランド。変えていいものと変えてはいけないものがあること、また変えていくには、ステップが必要であることを学びました。

石渡美奈さん

profile
1968年東京生まれ。立教大学卒業後、日清製粉に入社。人事部に所属し、93年に退社。広告代理店でのアルバイトを経て、97年、祖父が創業した会社、ホッピービバレッジ(旧:コクカ飲料)に入社。広告宣伝担当、副社長を経て、10年、創業100周年の年に3代目社長に就任。5年間で年商3倍、年30%の増益を果たす。近著は『技術は真似できても、育てた社員は真似できない』(総合法令出版)。

経営を学び、社内の人材・組織改革に挑む

ホッピーが発売55年を迎えた02年、父から「次のバトンは、いずれあなたに渡す。その、『いつの日かの第三創業期』に、同じ思いを持って、一緒に歩んでくれる社員を育てていきなさい」と言われ、経営実務を任されました。私もこの時期から、「経営とは何か」を考えながら、本格的に人材・組織改革に取り組むようになりました。

当時の私は仕事で経営者の方にお会いするたびに、経営者としてどのような勉強をされたのか、常に尋ねていました。そういった中、中小企業の業務改善策を教える小山昇さんと出会い、彼が主宰する実践経営塾に入塾。そして、「環境整備」「ボイスメールの採用」など、そこで学んだ現場改善策を次々と社内に持ち込みました。ところが、社内は大混乱。戸惑いが、社員の間に広がりました。

結局、私が実行しようとしている取り組みについて、社員への十分な説明が足りなかったのです。その後は反省を踏まえて、実践経営塾に社員も参加してもらい、私が目指す方向性を共有するなど、共に学び育つ「共育」をスタートさせました。

「共育」による改革に弾みをつけたのは、06年から開始した新卒採用の時からです。新入社員たちは、素直な気持ちで、私が目指す方向性への理解に努め、改革へ向けて積極的に動いてくれました。やがて、この時のメンバーが作ってくれた気運は既存の社員にも良い影響を与え、少しずつ改革が浸透。ようやく私が学んできたことが実を結び始めたのです。

石渡美奈さん

大学院への挑戦がもたらした第三創業へのロードマップ

私が社長に就任したのは10年4月。社内改革を進めるとともに、数々の取り組みを通して「ホッピーブランド」の回復を図ってきたことが功を奏し、年商約8億だった会社は約40億にまで拡大しました。ところがその一方で、私は行き詰まりを感じていました。初期の改革が一定の成果を上げ、次に向かうべき方向がわからなくなったのです。まるで、階段の踊り場にいるような気持ちでした。

そんな時です。ある方に、「これまで培った経験値を理論で紐解いてみませんか。次のステージが見えてくるかもしれませんよ」と声をかけていただきました。直感で「これしかない!」と思いました。その方から早稲田大学ビジネススクールの寺本義也教授の紹介を受け、私の新たな挑戦への扉が開かれました。

私が選んだコースは、MOT(技術経営)に特化したコース。社長としての職務をこなしながら、毎週金曜・土曜の授業でみっちり学んだ2年間は、時間的にも精神的にも厳しい日々でした。しかし、その成果は絶大。最も大きな成果は、当社の課題が「リーダー層の不足」であることに気付き、それをテーマとした研究に取り組んだことです。理論で紐解いたことを現場で実証していく。頭で考え実践していくという往復運動をしながら、「リーダー層育成」に取り組み、最終的には次に向かうべき当社のロードマップを描き出すことができました。

ホッピービバレッジは今、第三創業に向けてのスタートラインに立ったところです。これまでさまざま挑戦に取り組んできましたが、今も日々、一分一秒が挑戦です。成功したことにはさらに磨きをかけ、うまくいかなかったことはその場で変えていく。こうしたあくなき挑戦こそが、社員と自分、ホッピービバレッジを新しい地平へと導いていく。そう信じています。

技術は真似できても、育てた社員は真似できない2012年1月、新刊『技術は真似できても、育てた社員は真似できない』(総合法令出版)を上梓。東日本大震災での混乱、突然の売上ダウン、百貨店への出入禁止事件などのハプニングに、どんな人財戦略を描いたかを綴った。