「社会保障と税の一体改革」と雇用のあり方を考える

Interview:鈴木 準 氏(株式会社 大和総研 調査提言企画室長 主席研究員)
雇用形態や年齢にかかわらず、生き生きと働ける環境作りを

政府が進める「社会保障と税の一体改革」。その実現を目指す法案によって、月収8.8万円以上の短時間労働者まで厚生年金の適用が拡大されるなど、企業の負担は増大しつつあります。この改革を踏まえた上で企業はどう人事制度を考えていくべきか。大和総研・主席研究員の鈴木準氏に伺いました。

雇用対策に影響する企業の負担増

なぜ、「社会保障と税の一体改革」が必要なのか。それは、超少子高齢社会の下でも社会保障制度を持続させるために、「給付は引退世代中心、負担は現役世代中心」という現状を見直し、全世代でより公平な制度へ改革する必要があるためです。しかしながら、現在の案は、現役世代への給付を充実させるなどの目配りが必ずしも十分ではないと思います。

また、消費税率引き上げによる増収分は社会保障給付等の財源にあてる、とされています。これについて、雇用主の保険料負担がそれだけ増えなければ、企業が雇用を増やしやすくなるという見方があるかもしれません。しかし、消費税の増税でモノの価格が上がり、実質賃金は下がるわけですから、企業はある程度、名目賃金を上げざるを得ない状況になる可能性があります。保険料を消費税に置き換えたからといって、安易に雇用を増やせるわけではないと思います。

さらに今回関心が高まっているのは、短時間労働者への厚生年金や健康保険の適用拡大です。これらの社会保険は現在、週30時間以上勤務する労働者に適用されているところ、従業員501人以上の企業について、週20時間以上、月収8.8万円以上の層まで拡大されます。特にパートの比率が高い企業では、労使が負担する保険料に大きな影響が出るでしょう。

これによる厚生年金と医療保険を合わせた企業の負担増は年間数百億円とみられますが、今後、適用範囲のさらなる拡大が検討され、より負担額が増大する見込みです。その他の改革項目も含め、企業の負担は長期的に増えていく公算があります。低成長時代を迎え、これまでの年功序列型雇用システムが成立しなくなった今、企業は人事制度・雇用管理の改革を迫られています。

新たに厚生年金が適用される短時間労働者の割合

誰もが意欲的に働くことができる環境作りが重要

一つ明確なことは、日本は長期的には労働力不足の時代を迎えるということです。限られた人財を最大限に活かす工夫をしなければ、企業が継続的に発展することは困難でしょう。これは、今や雇用者全体の35%を占めるいわゆる有期雇用労働者も含めた問題です。

たとえば重要なのが、従来なら引退世代だった60歳代以上の方々の力を活かしていくという視点です。企業側にも、長いキャリアの中で培ってきた知識やスキルを持つ層を活用したいという潜在的ニーズはあるはずです。ただこの層を再雇用するノウハウが不足しているのが現状だと思います。世界一健康寿命が長い日本は、現在の「高齢者」という概念を見直し、60歳~70歳代前半までの世代が活躍できる環境を人事戦略として考えていく必要があります。

一つ明確なことは、日本は長期的には労働力不足の時代を迎えるということです。限られた人財を最大限に活かす工夫をしなければ、企業が継続的に発展することは困難でしょう。これは、今や雇用者全体の35%を占めるいわゆる有期雇用労働者も含めた問題です。

たとえば重要なのが、従来なら引退世代だった60歳代以上の方々の力を活かしていくという視点です。企業側にも、長いキャリアの中で培ってきた知識やスキルを持つ層を活用したいという潜在的ニーズはあるはずです。ただこの層を再雇用するノウハウが不足しているのが現状だと思います。世界一健康寿命が長い日本は、現在の「高齢者」という概念を見直し、60歳~70歳代前半までの世代が活躍できる環境を人事戦略として考えていく必要があります。

(株)大和総研 調査提言企画室長 主席研究員 鈴木 隼

profile
1990年東京都立大学法学部卒業後、大和総研入社。現在の主要担当分野は、日本経済、税制・財政問題、人口問題などに関する調査・分析。

VOL.27トピックス