仕事の未来 組織 アフターコロナを生き抜く「レジリエンス」を高める7つのポイント

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2020.09.23
アフターコロナを生き抜く「レジリエンス」を高める7つのポイント

新型コロナウイルス感染症に対する社会不安に加え、テレワークへの移行や外出自粛が強く求められた結果、多くの人は生活スタイルが劇的に変化し、精神的に不安定になりやすい状況にあるといえる。
ニューノーマル時代を迎え、ぜひ身に付けていきたいのが、「レジリエンス(回復力)」。
すなわち、困難を乗り越え、前向きな力へと変えていく、心理的な機能だ。
この分野の専門家であるポジティブサイコロジースクール代表・久世浩司氏に、レジリエンスの意義や機能、効果的に高めるポイント、マネジメント層が配慮すべき点などについて聞いた。

セルフマネジメントが不可欠な時代に

レジリエンスとは「逆境や困難、強いストレスに直面したときに適応する精神力と心理的プロセス」と定義される心理学用語だ。

具体的には、困難な出来事に直面して一時的に気落ちしても、時間がたてば気持ちがすっきり元通りになるような「回復力」、誰かにネガティブなことを言われても、心に刺さったまま動けなくなるのではなく、テニスボールのように跳ね返す「心の弾力性」、今回のコロナ禍のように不測の事態が起こり、計画が思い通りにいかなくなっても諦めず、臨機応変に対応して目標を成し遂げる「適応力」などを指す。(図1参照)

図1レジリエンスの3つのステージ

レジリエンスの3つのステージレジリエンスの3つのステージ
  • ❶底打ち
    精神的な落ち込みから抜け出し、「底打ち」した段階
  • ❷回復
    レジリエンス・マッスルを使って、再起する段階
  • ❸教訓化
    過去の逆境体験から一歩離れて、高い視点から俯瞰する段階

出典:久世浩司著「『レジリエンス』の鍛え方」(実業之日本社)

精神的なストレスと、それに伴って生まれる心理状態が、メンタル不調を引き起こしたり、仕事の生産性に影響を及ぼしたりすることが明らかになっており、このことに対応するヒントとして、レジリエンスは注目されてきた。
2010年代から欧米企業を中心に、レジリエンスに配慮した研修などが採り入れられており、日本の人事業界でも5年ほど前から関心が高まっている。

「厚労省が実施している職場のストレス原因についての調査を見ると、『仕事の量と質』『仕事の失敗、責任の発生等』『対人関係(セクハラ・パワハラを含む』の3つが上位を占めています。今回、コロナ禍によってテレワークへの移行が求められた結果、長時間労働が是正されたり、直接的なハラスメントを受ける機会は減ったかもしれません。一方で対人関係のストレスが増えている可能性もあります。上司に相談するなどのコミュニケーションを取ったり、悩みを同僚などと共有できない状態が続くと、これもストレスを蓄積させてしまう要因になります。

テレワークが当たり前のニューノーマル時代には、ストレスが原因で起こるさまざまな心理的問題に対し、一人ひとりがセルフマネジメントしていくことが求められます。そのなかでレジリエンスはますます重要になると考えられます」(久世氏)

基礎、心構え
実践的な対処の7つのポイント

レジリエンスをどのように捉えたらいいのか。レジリエンスを鍛えるにはどのような心構えや方法があるのか。久世氏のアドバイスをもとに主なポイントを見ていく。

ポイント 1レジリエンスは誰にでもあり、鍛えることが可能

まず知っておきたいのが、レジリエンスは誰もが持っている心理的な機能だということだ。私たちはしばしば「メンタルが強い人」、「心が折れやすい人」といった表現を使う。しかし、心が折れそうな出来事に直面したときに精神的に立ち直ろうとする力は、特別な人だけのものではなく、元来誰にでもあるものだ。

「ただ、ストレス体験が過度に続いたり、肉体的な疲労が蓄積されたりすると、立ち直りの力が弱まってしまう傾向はあります。つまり、レジリエンスは外部環境によって脆弱化することがある。そしてもう1つの知見として、レジリエンスはいわば『心の筋肉』のように訓練によって後天的に鍛えられることもわかっています。普段から意識的にメンテナンスとトレーニングをしておくことが重要だといえます」

また「心の回復力を高めることは、自分の精神的な弱さやネガティブな感情を否定することではない」と久世氏は付け足す。

「誤解されることもあるのですが、気持ちが落ち込んだり傷ついたりすること自体は、人として当然なのです。しかし、そこから立ち直る力がレジリエンス。ですから、心が折れないように、初めから自分の感情に蓋をしてしまうのとは違います。傷つきやすいことは、感受性が強いという意味でその人の強みでもあります。ですから、そこは否定せず、むしろ持ち続けてほしいと思います」

ポイント 2「ストレス→ネガティブ感情→行動変化」の流れを理解する

レジリエンスを高めるうえで、ストレスが人の心理や行動にどのように影響を与えるのか、あらかじめそのメカニズムを理解しておくことは有効だ。

私たちはストレス自体に目を向けがちだが、問題はその先だ。ストレスをきっかけとして、心の中に「不安」や「怒り」といったネガティブな感情が生まれることはよくある。これを放っておくと新たな不安や怒りを招く悪循環に陥っていく。知らぬ間に感情が増幅し、やがて爆発してハラスメントに当たるような行動などに結びついてしまうのだ。

「大前提として、ネガティブな感情はストレスを起因として生まれるものなので、放っておくといろいろな問題が出てくることをしっかり認識しておくといいでしょう。ストレス自体を避けられれば素晴らしいですが、人間が生きていくうえで、ストレスをゼロにすることはまずできません。ですから、ストレスが及ぼすメカニズムを理解しておき、ネガティブな感情が生まれてしまったときにそれを察知する。察知さえできれば、それに対する対処法はいくつかありますので、セルフマネジメントが可能になるのです」

ポイント 3呼吸法を使って感情をクールダウンする

久世氏によれば、ネガティブ感情への代表的な対処法は主に3つあるという。1つめは、その場ですぐに実践できるもので、「呼吸によって感情をクールダウンする方法」だ。単に気持ちの問題だけではなく、脳科学や神経科学の研究成果により、呼吸のあり方は人間の不安感の解消などに効果があることが明らかになっている。近年、注目度が高まっている「マインドフルネス」も、基本の1つとして、呼吸によって感情を落ち着かせる方法が提唱されている。

「具体的には3分間ほど、気持ちを落ち着かせるためにゆっくり呼吸します。4秒ぐらいで吸って、6秒ぐらいで吐くのを繰り返す。これぐらいゆっくりやると、かなり深い呼吸になりますので、その結果、自律神経など神経系の働きを緩和させ、安定させる効果が期待できます」

ポイント 4自分の感情や気持ちに「ラベル」を貼ってみる

ストレスが原因でネガティブな感情が出てきたなと自らが察知したら、それを放置せずに、気持ちを自分なりに整理するとよい。そのために有効なのが「ラベリング」という手法だ。今抱いている感情は言葉で表現すると何なのか、自分なりに呼称を付けて自覚していくというものだ。(図2参照)

図2もやもやした感情を、言葉にして自覚する

心の中の思い ネガティブ感情のラベル
「彼らが悪い!」 怒り・不満
「それは不公平だ!」 嫌悪・憤怒・嫉妬
「自分は役に立たない…」 悲哀・憂鬱感
「うまくいかない…」 不安・憂鬱感・無力感
「私にはできない…」 不安・恐れ
「私が悪いんです…」 罪悪感・羞恥心
「どうでもいいです…」 疲労感

心のなかに湧き起こる不快な感情を言葉にすることで、自分が感じていることを整理できる。

出典:久世浩司著「『レジリエンス』の鍛え方」(実業之日本社)

「例えば、仕事に対して少し『不安』の感情が出て、それが『憂鬱感』につながっているのだなとか、いつも憂鬱になりがちな自分が『嫌い』だから、そのせいで『苛立ち』や『怒り』が生まれているのだなというように、胸の中に漠然とした感情を言葉で整理していくのです。それだけで、気持ちが自然と落ち着くのを実感できるはずです。

実は脳の中では、感情を司る領域と理性を司る領域は違います。感情に関する脳の機能をオフにし、理性の機能をオンにすることで、感情の渦を緩和する作用が期待できます。心理療法のカウンセラーの方々も、悩んでいる患者さんに『あなたはどんな気持ちになったのですか』という問いかけをよく行っています。言葉で表現してもらうこと自体が、セラピーになるのですね。これを自分自身で行うわけです」

ポイント 5運動・音楽・表現の力でネガティブ感情から気を晴らす

ネガティブな感情は、人間の意識を強く引きつけてしまう性質がある。例えば、ある人物に「怒り」を感じたとき、当初はごく小さな感情でも、その人が立ち去った後にも注意が向いたままになり、過去の嫌な出来事などが思い出されて、感情が増幅されてしまうことがある。

そういった感情を長期間持ち越さないよう、就寝前や週末に上手に気晴らしを取り入れていくことが有効だと久世氏は話す。

「忘れようとするのではなく、別のところに意識を向けるのがコツです。最も簡単なのは、身体を使うことですね。ジョギングやフィットネス、水泳、ダンスなど、有酸素系の運動に集中することで、自分の心理の焦点が嫌なところから別のところに自然と向きやすくなります。(図3参照)
ほかにも、音楽を聴いたり楽器を演奏したり、あるいは日記を書くなど感情を文字で表現したりするのでもよいでしょう。いずれも心理学の実証研究において有効であるとのエビデンスがあります」

図3スポーツの心理的効果

  • ●テニスは怒りやフラストレーションを静める
  • ●水泳は穏やかな気持ちになり不安感を抑える
  • ●柔道や空手などの武道は憂鬱な気分を改善する
  • ●マラソンやウエイトリフティングは自信を高める
  • ●チームスポーツは寂しさを解消し社交的スキルを高める
  • ●トレッキングは大自然に触れることで精神性が向上する
  • ●ダンスは想像性を刺激し、平凡な人生から抜け出す感覚を与える

ポイント 6「感謝の気持ち」でポジティブ感情を豊かにする

以上の実践的な対処法のほかに、精神的な立ち直りを早めるため、普段から心がけたい習慣を2つ挙げる。

1つめは、日頃から「感謝の気持ち」を持つことだ。ポジティブな感情が生まれると、ネガティブな感情を相殺する効果があることが明らかになっているという。

「ポジティブな感情のなかでも、最も身近で、また意識的にも生み出しやすいのが感謝の気持ちだと考えられます。感謝の頻度は多いほどよいです。お世話になった人に、直接『ありがとう』と気持ちを伝えるのが一番ですが、心理学の研究によれば、日記に感謝の言葉を記すだけでも、意識を集中しながらすればポジティブな感情が生まれ、ネガティブな感情を相殺してくれます」

ポイント 7感情を分かち合える友人や仕事仲間を持つ

もう1つ心がけたいのは、お互いに信頼関係のある親しい人たちと、悩み事を共有したり、感情を分かち合ったりすることだ。それがストレスを緩和し、レジリエンスを高めることにつながる。

「私たちは『ソーシャルサポート』と呼んでいますが、ストレスを感じる出来事に対し、自分だけで悩み続けるのではなく、気持ちを誰かに打ち明け、分かち合い、共感してもらうことによって、レジリエンスが高まることが明らかになっています。日本では、悩みを打ち明けるのは恥ずかしいことと思っている人も多いですが、そんなことは決してないと思ってほしい。むしろレジリエンスが高い人の特徴でもあります。相談できる友人や上司、仕事仲間を持つこと、そして必要なときにはもの怖じせず積極的に気持ちを打ち明けることを、ぜひ心がけていただきたいです」

注意したいのは、テレワークが常態化し、これまで職場で当たり前に行われていたソーシャルサポートの機会が失われている可能性があることだ。

「これは会社側やマネジメント側が、意図的にそれを補う新たな機会を創出していく必要があるだろうと思います。オンライン会議システムやチャットシステムなども大変便利ですが、本当に深い悩みがあったとき、オンラインで相談できるものなのか、まだ検証する余地があります。ニューノーマル時代に、ソーシャルサポートの仕組みをどう構築していくかは、今後の重要な課題なのではないでしょうか」

Profile

久世浩司氏
ポジティブサイコロジースクール 代表
認定レジリエンス マスタートレーナー

慶應義塾大学卒業後、外資系企業での勤務を経て、社会人向けスクールを設立。メンタルヘルスの一次予防として注目される「レジリエンス研修」を企業や自治体で実施する認定講師を育成する。
著書に『世界のエリートがIQ・学歴よりも 重視!「レジリエンス」の鍛え方』(実業之日本社)、『リーダーのための「レジリエンス」入門』(PHP研究所)などがある。

久世浩司氏