組織 仕事の未来 ニューノーマル時代に求められるリーダーシップとEI(感情的知性)

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2020.11.06
ニューノーマル時代に求められるリーダーシップとEI(感情的知性)

コロナショックがもたらしたのは負の影響ばかりではない。
これを変革の契機と捉え、生産性の向上やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を加速させる企業は増えている。
急速に導入が進んだテレワーク環境においても、コミュニケーションの質を維持し、社員のエンゲージメントを高める努力をしている組織は少なくない。
こうしたポジティブな変化の原動力の1つに、時代に即した新しいリーダーシップがあると考えられる。
不確実性の高い環境下で求められるリーダーシップモデルとして「セルフ・ディスラプティブ・リーダー」を提唱するコーン・フェリー・ジャパン 共同代表 滝波純一氏に、次世代リーダー育成のポイントなどを聞いた。

創造的破壊を推進するリーダーシップが重要に

未来のリーダーに必要なスキルに関するコーン・フェリーの最新レポートによれば、世界の投資家のおよそ2/3にあたる67%が、現在のリーダーシップモデルは「未来にフィットしていない」と捉えているという。経営環境の不確実性が高まり、従来型のリーダーシップが機能しにくくなっていることが指摘されている。(図1参照)

図1マーケットの期待とリーダーの能力のギャップ

マーケットの期待とリーダーの能力のギャップ

日本の投資家の48%は、すべてのリーダーの中で将来のビジネスを主導する能力を備えているのは21~30%程度だと考えている。今の日本のリーダーは「Trust(信頼)」と「Drive(活性化)」が弱く、「Accelerate(スピード)」は優れている。 出典:コーン・フェリー ホワイトペーパー「セルフ・ディスラプティブ・リーダー 日本の展望」から抜粋

では、これから求められるリーダーシップとはどのようなものか。

「グローバル競争の激化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の加速など、今はまさに経営環境において破壊的な変化が起こっています。リーダーがこの状況に対応するには、自社のビジネスモデルや組織のあり方を根底から問い直し、自ら『創造的破壊(ディスラプティブ)』する姿勢が求められます。実際、自分自身の価値観や立ち居振る舞いまでを変えてビジネスや組織を再構築し、成果をあげている人財は、経営層にもマネジメント層にも少なからずいます。われわれは彼らを『セルフ・ディスラプティブ・リーダー』と呼びます」(滝波氏)

セルフ・ディスラプティブ・リーダーに共通する5つの要素

コーン・フェリーが有する15万人分のリーダーシッププロファイルを分析したところ、セルフ・ディスラプティブ・リーダーに共通する資質・能力が抽出できるという。「A.D.A.P.T. モデル」と定義する5 つの要素は次の通りだ。

❶ ANTICIPATE(先見性)
自社が挑むべき将来の社会的課題を明確に定義することで、不透明な状況下にあっても組織が進むべき方向を示す。
❷ DRIVE(活性化)
パーパス(目的意識)を育み、その社会に対する貢献を体感できる環境を整えることで、人々を活気づける。
❸ ACCELERATE(スピード)
絶え間ない技術革新とビジネスモデルの実現に向け、仮説検証を高速に回すことで、アイデアを実行に移す。現場に権限を移譲し、迅速なプロトタイピングを可能にするプロセスを取り入れてイノベーションを推進する。
❹ PARTNER(パートナーシップ)
組織の枠を超えて協働し、それぞれの強みを有効に掛け合わせることで単独では難しい成果を創る。
❺ TRUST(信頼)
多様化する働き方・雇用形態に柔軟に対応し、個々の成長や自己実現をサポートすることで信頼関係を構築する。

つまり、過去の成功体験などにとらわれず、先見性や目的意識によって組織を導き(①②)、スピード感を持ってアイデアを実行に移(③)、自前主義にこだわらず社外と積極的にパートナーシップを構築し(④)、自分と全く違う価値観の人々とも信頼関係を構築していく(⑤)という人物像だ。いずれも重要な資質だが、従来のリーダーシップモデルでは必ずしも重視されてこなかった。

「しかし、コロナショックを契機に、リーダーシップの地殻変動が起こっています。世界的な感染拡大を受けて、各国の製薬メーカーのトップが相次いで大規模なパートナーシップ構築に動いたのはその一例です。

ワクチンや治療薬の研究開発は各社にとって最重要の機密事項。他社と手を組むなど従来なら考えられなかったはず。この未曾有の危機を乗り越えるには、そうした壁を乗り越えた協力関係、信頼関係が不可欠だと、優れたリーダーたちが直感したのでしょう。日本国内でも、自前主義の発想が根強いモノづくり企業が、オープンイノベーションに前向きに取り組む例が出てきています。いずれも、セルフ・ディスラプティブ・リーダーたちがA.D.A.P.T. モデルの資質を発揮した結果だと考えられます」(滝波氏)

今後特に求められるのはEI(感情的知性)をベースとした能力

ウィズ・コロナにおけるリーダーシップで特に意識したいのが「DRIVE(活性化)」だ。われわれが企業の一員として、帰属意識や一体感を持ち、生き生きと活動していくうえで、職場の仲間との日常的な交流は不可欠だ。しかし、コロナ禍によりテレワークが常態化した結果、仲間とのつながりを持つ機会が大幅に失われてしまった。すると「自分は何のために働いているのか」、「今の仕事は自分にとってどんな意味があるのか」といった価値観や目的意識が、今まで以上に重要な意味を持ってくる。働く側にとって、自分の仕事そのものが所属する企業との唯一の接点となり、帰属意識や働きがいを大きく左右するからだ。

「だからこそリーダーが社員に向けて、自社は何のために存在し、ここで働く意味は何なのかについて、誰もが共感できるような言葉で発信し、動機づけていくことが大切になります。最近のリーダーシップ論において、EI(感情的知性)が重視されているのもそのためです。優れたグローバル企業の経営トップも、『危機的な状況下ではエモーショナルなコミュニケーションが重要』、『リーダーは戦略よりパーパスを語るべき』と言っています」

リーダー育成も見直しが不可欠自己認識を深めることが出発点

コーン・フェリーの調査によれば、セルフ・ディスラプティブ・リーダーの要件を満たす人財は全体の15%程度だったという。

「これではまったく足りません。A.D.A.P.T.モデルの素養を備えた人財を自社内で発掘して育成したり、外部から登用してリーダーシップを発揮してもらう必要があります」

リーダーシップモデルが変わった以上、その育成モデルも見直しが求められる。従来のリーダーシップ研修では、選抜された10~20 人ぐらいの社員に対し、アクションラーニングなどを取り入れながら1年ほどかけて研修するケースが多かった。

しかしA.D.A.P.T. モデルを備えた人財、つまり自らを創造的に破壊するような人財は、そもそも従来の選抜基準からは抜け落ちてしまう可能性が高い。そのため最近は、研修の対象を絞るのではなく、現場の社員をマネジメントするすべてのファーストラインマネージャーを対象に簡単なオンラインのアセスメントテストを受講してもらい、自分の資質・能力やなりたい人物像を自覚してもらうような研修プログラムを取り入れる例が多いという。

「A.D.A.P.T. モデルで示されているような資質・能力は、お仕着せの研修で身につくものではありません。内省を通じて、自分の強み・弱みは何か、どんなキャリアを歩みたいかなど、自己認識を深めるプロセスがまず必要です。

自分の現状と、目指す人物像とのギャップを認識することが、主体的な学びの出発点としてとても重要になります」

Profile

滝波純一氏

滝波純一氏
コーン・フェリー・ジャパン株式会社共同代表

京都大学工学部卒・同大学院応用システム科学修士。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経営学修士(MBA)。東レ、ボストン・コンサルティング・グループを経て、ヘイコンサルティンググループ(現コーン・フェリー)に入社。2019年から日本共同代表。金融、医薬品、消費財、流通、情報通信などの業界に対し、組織改革、リーダーシップ開発、グローバル人事制度設計、M&A支援など、コンサルティング経験を豊富に有する。