組織 仕事の未来 テレワークで求められる自律的な働き方とコミュニケーション

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2020.12.24

ニューノーマル時代の働き方として、テレワークが本格的に定着しつつある。
しかし、通勤の負担がなくなるなどの恩恵がある一方、生産性が下がり、コミュニケーションが希薄になるといった、負の影響を指摘する声も根強い。働く現場としてテレワーク環境が当たり前になったとき、社員を自律的・主体的な働き方に導くには、どのような取り組みが必要か。上司と部下の関係性は、どうすれば維持できるのか。
組織力の向上につながるマネジメントについて、アデコグループで、人財育成・組織変革を展開するリー・ヘクト・ハリソン事業部 本部長の馬場一士が解説する。

アウトプットに対する責任意識が重要に。「自律的な働き方」の要件

日本国内で新型コロナウイルスの感染拡大が本格化してから、すでに半年以上が経過した。テレワーク環境への急激な移行に伴う当初の混乱期は過ぎ、テレワークという環境下で、いかに社員の生産性やコミュニケーションの質を維持するか、ニューノーマル時代にふさわしいビジネスモデルをどう構築するか、そのための人財をどう確保・育成するかに、企業の課題意識は移行している。

これらの課題を克服するための重要なキーワードとなるのが「自律的な働き方」だという。

「普通に考えれば、テレワークへの移行によって長い通勤時間の負担が減り、個々の働き方の自由度も増して、生産性は上がるはずです。しかし企業へのアンケート調査を見ると、むしろ生産性が下がったという声が目立ちます。日本では自律的に働くという意識が浸透してこなかったため、テレワークになり、従来の働き方とはまったく違った個人だけの環境になったことで、どのようなマインドセットで働けばいいのか、うまく捉えられていないのだと考えられます。

社員たちが自由度の高い環境で自律的に働けることは、イノベーション創出にとっても有効です。個人も企業も、改めて『自律的な働き方』の重要性について認識すべきです」

では、「自律的に働く」とはどういうことなのだろうか。いくつかの観点が考えられるという。

「当然ながら、『上司の監視の目がなくてもちゃんと働く』といった意味だけではありません。仕事とプライベートを上手に切り分けて、働く時間と生活の時間の両方をバランス良く充実させることも『自律的な働き方』としてとても重要です。現状では、仕事とプライベートの垣根が曖昧になり、ついつい休まず働き続け、気持ちも体も休まらないというタイプの人が見受けられますね。これは結果的に生産性を落とす要因にもなります」

また自律性というと、誰にも頼らずに仕事することだと思いがちだが、必ずしもそうではない。自分だけでは解決できない課題に直面したとき、自ら声を上げてサポートを求めることも業務では欠かせない。

「テレワーク環境では、上司は部下の細かな悩みに気づきにくいもの。部下もそれを理解し、組織のパフォーマンスのためにも、メンタルヘルスの観点からも、自分から声を上げるという意味での自律性を大切にしてほしいです」

さらに、もう1つ重要なのが「アウトプットに対する責任意識」だ。同じ職場で働いていれば、上司は部下の仕事ぶりを直接見て評価することができるが、テレワーク下では難しい。おのずと、仕事の成果、すなわちアウトプットを中心に評価せざるを得ない。

「今後は部下の側も、勤務時間の長さや仕事のプロセスではなく、限られた時間でどれだけ質の高いアウトプットを生み出せたかが問われます。仕事全体を自分ごととして主体的に捉え、責任意識を持って取り組んでいくことが重要です」

図1テレワーク環境で効果的に仕事をする

スキル

  • 優れたコミュニケーション
  • チームワークや協力を推進
  • 関係構築スキル
  • ITスキル

テクノロジー

  • 電話会議またはビデオのプラットフォーム
  • インスタントメッセージ
  • Eメール
  • ファイルシェアリング

プロセス

  • コミュニケーション
  • 協業体制
  • チームビルディング
  • 意思決定

「自律的な働き方」に導くためのポイント

上司に求められるスキル
以上を踏まえて、上司が部下を「自律的な働き方」に導くためのポイントをいくつか挙げる。

ポイント 1部下の自律性を引き出すのは上司の役割

自律的な働き方を促すには、上司の役割が大きいと馬場氏はいう。
「部下の行動を変えるには、上司の価値観や行動を見直すことが先決です。例えば、悪天候のため出社しないと判断をした部下を叱りつけるような姿勢はもちろん論外。職場に部下がいないのがコロナ以降の通常のスタイルなのだから、大ざっぱに仕事を割り振ってから事後的に指導するやり方ではなく、個々の業務の目的や意義、優先順位、期限、求められる成果などを事前に伝え、どのような時間感覚で進捗確認するのかを明確にしておく必要があります」

ポイント 2部下の理解を深めるための「質問力」

「自律性を引き出す」とは、仕事を任せっぱなしにすることではない。むしろ業務指示を出した後のきめ細かいサポートが重要になる。業務の難易度や複雑さ、個々の部下の経験値などを踏まえて適切なサポートをしていくことで、自律性は育まれていく。このサポートは上司の役割だ。そこでは、部下1人ひとりに対する理解が欠かせない。

主体性を尊重しながら理解を深めていくために求められるのが、コーチングスキルとしての「質問力」である。情報収集を目的とする通常の質問ではなく、相手に思考の整理を促したり、気づきを与えたりする質問のスキルを指す。

「例えば何か仕事を任せる際、『この仕事の優先順位をどう考えてる?』『アウトプットをどんなふうにイメージしているか、教えてもらえる?』などと丁寧に質問を重ねていくことで、部下は自分で考えるようになります。その返答によって部下の資質や理解度が見えてきますし、互いの関係性も深まります。

最近は研修等でコーチングスキルを学ぶ機会が増えていると思いますが、日本ではいまだに『上司は威厳が大事』といった考えが根強いのか、部下と目線を合わせて、部下自身の強みを引き出すようなコーチングスタイルを苦手とする人が多いようです。しかし、ニューノーマル時代では、コーチングは上司にとって必須スキルであるという認識をぜひ持っていただきたいです」

ポイント 3コミュニケーションの質的強化を図る

テレワークが定着すれば、社内コミュニケーションの量が減るのは間違いない。オンライン会議ツールやチャットツールを活用したとしても、対面での会話に比べれば、やり取りできる情報量は限られてしまう。そこでコミュニケーションの質を高める工夫が必要だ。

ここでも上司の役割は大きいと馬場氏は話す。

「1-on-1のオンライン面談ではなかなか雑談がしにくいので、少しでもカジュアルな議論ができるようなトピックから会話を始めてみるのは効果的でしょう。複数人でのオンライン会議では、発言の機会が特定の人に偏らないよう、上司が率先してファシリテーターとなって他の社員にも発言を求めたりすることが必要です。そうした工夫をぜひしていただきたいです。

テレワーク下では限られたメンバーでのコミュニケーションになりがちなので、あえて他部署の人にオンライン会議に参加してもらい、社員の関係性の輪をちょっと広げてみるのも良い方法です」

ポイント 4社内コミュニケーションの棚卸しとツールの適切な活用

コミュニケーションの質的強化を図るためにも、オンライン会議システムやチャットツールなどを適切に使う工夫が必要だ。これまでの対面会議を、すべてオンライン会議に移行すればいいというわけではない。

「単なる業務の進捗確認であれば、わざわざオンライン会議などせず、システム上の共有フォルダに進捗表などを置いて誰でも見られるようにしておけばよいでしょう。一方で、内容が複雑ですぐに結論の出ないような案件の場合、メールやチャットで話し合おうとすると、思いの外時間がかかってしまうことが多い。電話なり、オンライン会議なりで口頭で話し合った方がお互いにストレスも少なく、短時間で済むはずです。テレワークを機に社内コミュニケーションを棚卸しして、内容や性質に応じて、どの手段を使うかのがよいか考え直す必要があります」

図2適切なコミュニケーションツールを使う

適切なコミュニケーションツールを使う
適切なコミュニケーションツールを使う

ポイント 5上司・部下の信頼関係がますます重要に

部下が自律的に働くためには、今まで以上に上司と部下との信頼関係を醸成していくことが求められる。

「上司がいわば高い所から指揮・命令するような態度で部下に接していれば、部下側も萎縮してしまいます。仕事に対しても『上司に言われたからやる』という姿勢になりがちで、自律性は育まれず、アウトプットへの責任意識も生まれにくいでしょう」
ニューノーマル時代の上司にとって、部下との関係性を構築するスキルは、コーチングスキルと同様に重要になると馬場氏は強調する。

「関係性を構築するためには、できるだけ部下一人ひとりに興味を持ち、業務以外の会話を重ねていく地道なプロセスが重要です。そんななかで上司もプライベートな話題や自己の内面性を少しずつ開示して、互いの精神的な距離感を縮めていく。今後はこういう取り組みをより意識的に行っていく必要があるでしょう。

コーチングも関係性構築のスキルも難しく感じるかもしれませんが、あくまでスキルですので、一定の枠組みのなかでトレーニングすれば必ず身につくものです。自律的な働き方の実現に向けて、ぜひこうしたスキル習得に前向きに取り組んでいただきたいです」

馬場一士

馬場一士
リー・ヘクト・ハリソン事業部 本部長
リー・ヘクト・ハリソンについて