組織 仕事の未来 「労働者保護」と「ビジネスの成長性」のバランスが焦点にーギグワーカー 2021年の雇用と労働③

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2021.02.23
「労働者保護」と「ビジネスの成長性」のバランスが焦点にーギグワーカー 2021年の雇用と労働③

「ギグワーカー」とは、ネット経由で単発の仕事を請け負う働き手を指す。Uber(ウーバー)に代表されるシェアリングサービスや、ネットを通じて仕事を受発注するクラウドソーシングの普及に伴い登場した働き方だ。コロナ禍で外出自粛が求められるなか、料理宅配サービスなどのニーズが急拡大し、ギグワーカーも世界的に増えている。新たな雇用の受け皿になるとの期待がある半面、課題となっているのが労働者保護の枠組みをどう設計するかだ。

ギグワーカーはパートやアルバイトなどの雇用契約を結んでいないケースが多く、個人事業主に当たるため、最低賃金や労災保険などの制度が整備されていない。労働者保護が足りないままでは人員を安定的に確保するのが難しくなるが、逆に保護が行き過ぎればビジネスとしての成長性を損なう可能性もある。このバランスをどう判断するかが争点となっている。

「すでに海外では極めてホットな議論がなされています。特に動きが激しいのが米国。カリフォルニア州では2020年1月に、ライドシェアの運転手を個人事業主ではなく従業員だとする州法が施行されました。しかしライドシェア事業者などの間ではそれに反発する声も強く、その後、同州の住民投票で法制化を覆す提案がなされ、賛成多数を獲得するという事態になりました。それだけ、労働者保護とビジネスの成長性に対する意見が拮抗しているということです」(濱口氏)

今後はギグワーカーの増加に伴い、日本でも同様の議論が活発化していく可能性はある。

労働者保護のルールづくりは、シェアリングサービスの中長期的な成長のためにも欠かせない。日本総合研究所の山田久氏は次のように分析する。

「現状では、事業者側にとって要員を低コストで活用できるメリットがありますが、ビジネスの安定的な成長に不可欠なのは『コスト削減』と『価値創造』のバランスを図ること。価値創造の努力を怠り、コスト面だけの競争になれば、労働条件が悪化し、いずれビジネスが成り立たなくなる。適切な成長を促す意味でもルールは必要で、例えば企業が一部を負担する社会保険や就業保険のような制度を設計していくことが考えられます。将来的にはギグワーカーが技能を身につける教育の枠組みも求められるでしょう。職業訓練の場を提供したり何らかのコストを負担してもらったりするなど、政府対応だけでなく企業の参加を義務づけていくことが必要だと思います」

Profile

濱口桂一郎氏

濱口桂一郎氏
独立行政法人労働政策研究・研修機構
労働政策研究所長

東京大学法学部卒業。労働省(現厚生労働省)入省。
東京大学大学院法学政治学研究科附属比較法政国際センター客員教授、政策研究大学院大学教授などを経て現職。専門は労働法政策。近著に『働き方改革の世界史』(筑摩書房)。

山田久氏

山田久氏
日本総合研究所 副理事長

京都大学経済学部卒業後、1987年に住友銀行(現・三井住友銀行)入行。経済調査部、日本経済研究センター出向を経て、1993年に日本総合研究所調査部出向。調査部長兼チーフエコノミストなどを経て2019年より現職。2015年、京都大学博士(経済学)。著書に『賃上げ立国論』(日本経済新聞出版社)など多数。