組織 仕事の未来 テレワークだけでなく「シニア雇用」などにおいても重要にージョブ型雇用 2021年の雇用と労働②

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2021.02.17
テレワークだけでなく「シニア雇用」などにおいても重要にージョブ型雇用 2021年の雇用と労働②

コロナ禍でテレワークが急速に普及したことに伴って、「ジョブ型雇用」の導入を検討する企業が日本でも増えている。ジョブ型雇用とは欧米で定着している雇用形態で、職務(ジョブ)をあらかじめ規定し、それに最適な人財と雇用契約を結ぶものだ。

職務定義書(ジョブディスクリプション)で職務内容や責任範囲、必要な能力などを細かく定めるので、自分の職務以外の仕事を任されることはない。

これに対し日本では、職務を限定せずに採用する「メンバーシップ型雇用」が一般的だ。その企業で求められる知識・技能を幅広く身に付けるのに適しているが、その半面、テレワーク環境では、上司が部下の仕事ぶりや進捗を逐次把握して、評価したり育成したりするのが難しく、運用しにくい面がある。そこで、あらかじめ職務を明確化するジョブ型雇用への関心が高まったという経緯がある。

しかし、「テレワークとジョブ型雇用の相性がいいのは事実ですが、ジョブ型雇用への安易な期待は禁物」と濱口氏は強調する。ジョブ型/メンバーシップ型の概念はもともと同氏が提唱したものである。

「現状ではジョブ型雇用の意義が、テレワーク下での仕事の差配や評価のあり方の問題と混同されてしまっています。日本のメンバーシップ型雇用では、誰にどの職務(ジョブ)や作業(タスク)を任せるか、上司の判断にゆだねられている。同じ空間にいないとやりにくい面はあるでしょうが、普段から明確な指示の下で仕事の差配がなされていれば、テレワーク環境でもできないことはないはずで、『ジョブ型か?メンバーシップ型か?』という議論とは異なる問題だといえます。ジョブ型雇用への移行は新卒一括採用モデルを根底から見直し、自社の人財ニーズをすべて明文化して採用していく必要があり、欧米のような完全なジョブ型雇用への移行は難しいでしょう」(濱口氏)

濱口氏は、メンバーシップ型を前提としたうえで、多様な人財を獲得していく手段としてジョブ型を活用することを想定している。グローバル人財やAI人財など、専門性の高い人財に対しては職務をあらかじめ明確化して採用し、評価・報酬も別の枠組みとする。

メンバーシップ型とジョブ型をいわば一国二制度のような形で導入する方法である。

このような考え方に基づくジョブ型の導入は、今後、企業がシニア世代の就労拡大を図っていくうえでも有効だと濱口氏は話す。

改正高年齢者雇用安定法の施行により、企業は2021年4月から、70歳までの就業機会を確保することが求められる。仕事人生が長期化すればするほど、同じ領域で経験や実績を積み重ねて高い報酬とポジションを得ていくようなキャリア形成は維持しにくくなる。

企業側としては、70歳まで能力を発揮し、いきいきと働けるようなキャリアのコースを整備していく必要がある。

「そもそも管理職に不向きな人財もいます。そこで、誰もが一様に旧来型の出世コースを目指すのではなく、例えば40代の中堅社員ぐらいから、特定の専門職としてずっと働くことを選べるような制度を導入する。年功制ではなく、職務に対して給与を支払う仕組みにすれば、60歳を超え、定年再雇用で70歳まで働いても同じ賃金水準を維持できる。このようなシニア世代までを想定したジョブ型雇用の活用には、大きな意味があると思います」(濱口氏)

Profile

濱口桂一郎氏

濱口桂一郎氏
独立行政法人労働政策研究・研修機構
労働政策研究所長

東京大学法学部卒業。労働省(現厚生労働省)入省。
東京大学大学院法学政治学研究科附属比較法政国際センター客員教授、政策研究大学院大学教授などを経て現職。専門は労働法政策。近著に『働き方改革の世界史』(筑摩書房)。