AIの進化は、AIエージェントの登場によってますます加速している。改めて、AI時代における「人ならではの価値」とは何なのか。起業家であり、アート思考キュレーターとしても活躍する若宮和男氏に、AI時代の組織と個人のあるべき姿について聞いた。
時代は「工場のパラダイム」から「アートのパラダイム」へ
AIと「共にあること」が当たり前になりつつある今の世界で、私たちが直面している本質的な変化とは何なのだろうか。それは、「工場のパラダイム」から「アートのパラダイム」へのシフトだと若宮氏は表現する。
「20世紀を支配していたのは、『工場のパラダイム』でした。そこでは、『同じもの』を大量に作り続けることが正義であり、『違い』は不良品や事故のもととして排除されました。日本はこのモデルに最適化することで、ジャパン・アズ・ナンバーワンと称される繁栄を築いたのです。しかし、モノも情報も飽和し、さらにAIが登場した今、『同じもの』の価値は相対的に下落し続けています。なぜなら、同じことを正確に繰り返す作業は、人間よりも機械やAIのほうが得意だからです」(若宮氏)
この変化に伴い、新たに台頭してきたのが「アートのパラダイム」だ。
「アートの世界では、誰かが作ったものと同じものを作っても価値は認められません。むしろ、他の誰も作っていない自分らしい表現、すなわち『違い』こそが価値の源泉になります。AIが当たり前になった時代を生き抜くには、このパラダイムシフトに適応することが、組織にとっても個人にとっても必要だと考えます」(若宮氏)
「いびつなコアバリュー」が競争のあり方を変える
そのために、まず組織に求められるのは、「機械型組織」から「身体型組織」へのアップデートだ(図1参照)。
図1「機械型組織」と「身体型組織」
組織は「身体型」へのアップデートが求められる
|
機械型組織 |
身体型組織 |
| パラダイム |
工場 |
アート |
| 意思決定 |
アタマ |
カラダ |
| ルール |
マニュアル |
余白 |
| 行動原理 |
操作 |
触発 |
| 構造 |
静的 |
動的(塑性) |
| 再現性・効率性 |
高い |
低い |
| 柔軟性・じん性 |
低い |
高い |
AIが当たり前の今、良質な製品を不備なく速く大量に生産することで価値を生み出していた「機械型組織」から、違いや個別性によって価値を生み出す「身体型組織」へのシフトが重要となる
出典:若宮氏の資料を基に作成
「かつての『工場のパラダイム』に基づく組織は、均一な部品としての人間を効率よく組み合わせる『機械型組織』でした。昭和を代表するアニメの一つである『機動戦士ガンダム』では、主人公がマニュアルを読んでコックピットからロボットを動かします。これはトップがある種のセオリーに則った意思決定を行い、それに基づいて現場が一律で動く、機械型組織の象徴ともいえます。一方、平成に入って『新世紀エヴァンゲリオン』の時代になると、もはやマニュアルは存在せず、操縦者と生物的な機体がシンクロして動きます。時に暴走もしますが、その分、変化に対して高い適応力を持つ。アートのパラダイムにおいて力を発揮するのは、エヴァンゲリオンのような『身体型組織』なのです」(若宮氏)
また工場のパラダイムでは、正解の反対は「不正解」だった。しかし正解のない現代においては、「不」と「正」を合わせた「歪(いびつ)」という字がむしろキーワードになる。身体型の組織では、個々のメンバーの「いびつさ」を生かして全体の強みへと変換する発想が求められると若宮氏は話す(図2参照)。
図2「個のいびつさ」を殺す組織から生かす組織へ
身体型組織の構造は「日本の城の石垣」に例えられる。同じ形のレンガを隙間なく積み上げる効率重視の組織作りではなく、形がバラバラな石を絶妙に組み合わせることで堅牢な壁を作るイメージだ
出典:若宮氏の資料を基に作成
「ただ、一つハードルがあります。この考え方は、『大きくて強いことが良い』という単線的な評価軸を持つ、従来の資本主義的発想とは相性が良くないのです。確かに時価総額や社員数の多さを競う『右肩上がり成長』の軸においては、軍隊のように同質性の高い組織のほうが圧倒的に有利です。それゆえ、いまだに機械型組織の形を捨てきれない企業は多いです。しかし、この価値観の軸を回転させてみるとどうなるでしょうか。新しい軸があれば、これまで小さくて非効率と見なされていた組織も、一躍トップランナーになり得るのです」
新しい軸を持ち、これまでにない価値を創出していくことが、これからの組織の勝機になるのだ。
「極端な言い方をすれば、軸さえ決めてしまえば、その軸に沿って成長するための具体的なアイデアは、AIがいくらでも考えてくれるでしょう。だからこそ、企業のコアバリューが唯一無二であることが、これからの時代はとりわけ重要です。聞こえの良い言葉を掲げても、誰も反対しない代わりに、誰も突き動かせないでしょう。他社と同じモノ・コトを提供しているだけでは、その組織が存在する意義は薄れてしまいます。企業は、そこで働く人たちの力を最大限発揮させるためにも、自分たちにしか提供できない、その組織ならではの『いびつなコアバリュー』を描くことが重要といえます」(若宮氏)
「守破離」のプロセスで自らのいびつさを再発見する
AI時代を生き延びる組織の条件として、独自のコアバリューを持つことが求められるのと並行して、組織のなかで働く個人もまた、自らの「いびつさ」を個性として再発見し、生かしていくことが重要だと若宮氏は話す。単一的な形の歯車になるのではなく、組織が描いた全体図に欠かせないパズルの1ピースとして、自分の個性を生かす道を探るのだ。
誇れる「いびつさ」などないという人に対しては、若宮氏は意外にも「誰かを徹底的にコピーすること」を勧める。「守破離」という伝統的なプロセスにも通じる自分らしさの発見方法だ。
「まずは尊敬できる先輩や上司のやり方を、寸分たがわず真似してみる。しかし人間はAIではないので、どこかで必ず『このやり方では無理だ』となる部分が出てきます。その、どうしても型通りにできない部分こそが、あなたの持つ『いびつさ』、自分らしさの萌芽です」(若宮氏)
自分の「いびつさ」を発見したら、少しばかり「逸脱」しよう。守破離でいう「破」のプロセスだ。
「新規のプロジェクトを提案するとか大きなことではなくとも、例えばオフィスの机に大好きな花を飾ったり、問い合わせ対応のクロージングに、自分らしい一言を付け加えたりするなど、日常のなかでも自分らしさを発揮することはできます。誰の決裁もいらない、ささやかな逸脱でもいい。自分の感覚を信じて小さく動き、工夫することから、自分らしさや自分ならではの価値が発揮されます」(若宮氏)
さらに若宮氏は「あえてレールを外れる」ことの価値も強調する。「私自身、建築設計からアート研究、大企業での新規事業、そして今のメタバース事業と、一見脈絡のないキャリアを歩んできました。しかし振り返れば、すべての経験が現在につながっている実感があります。過去の意味は、未来の行動によっていくらでも変えられる。そのときは突拍子もなく思える行動が、めぐりめぐってその人の個性を唯一無二のものにし、AIには代替不可能な価値を形成するのです」(若宮氏)
AI時代、独自性を追求する企業にとってダイバーシティ経営はより一層重要なテーマとなるのかもしれない。
Profile
若宮和男氏
起業家/アート思考キュレーター
建築士、アート研究者を経てドコモ、DeNAにて複数の新規事業を立ち上げ、2017年uni'queを創業し2018年の「すごいベンチャー100」に選出。2023年4月メタバースクリエイターズを創業、IVS LAUNCHPAD SEED 2024で3位入賞。新規事業、アート思考、ダイバーシティなどで取材、講演多数。著書に『ハウ・トゥ・アート・シンキング』『アート思考ドリル』(ともに実業之日本社)。福岡女子大学客員教授、長野県立大学客員准教授。