「働きがい」のある会社にするために、まずは従業員の意識を知ることが大切ーGreat Place to Work® instituteJapan 代表 和田 彰氏

“人を規制する”人事から“人を育てる”人事へ

従業員が「働きがいがある」と考える会社には、どのような特徴があるのか。
また、そこで人事部が果たしている役割とは……。
いくつかの企業の取り組みを見ながら、「働きがい」とは何かを探る。

Interview 和田彰氏 (Great Place to Work® Institute Japan 代表)
まずは従業員の意識を知ることが大切

「働きがい」をつくる5つの要素

「働きがい」という言葉を正確に定義するのは難しい。たとえば、同じ職場、ポジション、待遇で働いていたとしても、その仕事に「働きがい」を感じるかどうかは人によって異なるだろう。また、時間に追われる仕事を「忙しい」と捉えるか、「充実している」と考えるかは、その人次第である。

しかし、働きがいの定義が不可能なわけではない。働きがいを企業の仕組みや取り組みの問題と捉え、独自の指標で調査しているのが、米国サンフランシスコに本部を持つGreat Place to Work®(以下、GPTW)である。同社は、1998年から『フォーチュン』誌上で「働きがいのある会社ベスト100」を毎年発表しており、現在、この調査は世界47カ国で行われている。

同社は、働きがいのある会社とは、「従業員が勤務する会社や経営者・管理者を信頼し、自分の仕事に誇りを持ち、一緒に働いている人たちと連帯感を持てる場所」と定義する。それを具体的な要素に分解したのが図2 だ。働きがいには3つの要素、すなわち「信頼(従業員の会社に対する信頼度)」「誇り」「連帯感」があり、「信頼」はさらに「信用」「尊敬」「公正」の3要素に分解される。従業員にとっての働きがいは、この5つの要素によって構成されることになる。

GPTWの日本支部代表を務める和田彰氏によれば、この5 つの要素の中で、とりわけ人事に関わるのが「尊敬」と「公正」の2つだという。
『尊敬』は、個に対する配慮を示す指標です。ワークライフバランスを推進しているか、メンター制度を導入しているか、教育・研修の機会を保証しているか、福利厚生の仕組みを整えているか、などが具体的な要素です。一方、『公正』は、評価制度などに関わる指標です。働きに見合った報酬があるか、昇進の機会が平等か、ダイバーシティの観点を持った組織作りを推進しているかといった視点です」

図2

意識調査で「納得感」をつくる

働きがいは、必ずしも制度の整備によってのみもたらされるものではない。重要なのは、制度の有無にかかわらず、その会社の理念やカルチャー、価値観などを従業員が共有していることであると和田氏は指摘する。
「会社の理念や価値観が明確であり、それに対する従業員の納得感があることが働きがいにつながります。もちろん理念や価値観は会社によって違いますが、そこに一貫した信念があり、ブレがないことが重要です」

それを従業員にしっかり伝えることも必要だ。「納得感」をつくり出すためには、良いところだけでなく、悪いところも伝える姿勢が重要だという。その有効な方法の一つが人事部主導で行う社員の意識調査だ。
「意識調査は、場合によっては会社の弱点や問題点をあぶり出すことになるため、忌避されるケースも少なくありません。しかし、従業員がどのような不満を感じているかを知らなければ、環境を改善することはできません。まずは、従業員の意見に耳を傾ける姿勢や、変化を見せることが大切です」

GPTWは、働きがいのある職場を実現する取り組みがもたらす効果として、以下の5点を挙げている。

●より質の高い人材を確保できる ●優秀な人材の転職率が低下する ●顧客満足度が向上する ●企業の変革、創造性、リスク抑制が促進できる ●生産性と収益が向上する

「従業員が生き生きと働くための取り組みを行うことで、会社の業績や評判が向上し、働きがいの促進につながります」
そのようなサイクルづくりを主導することが、人事部の役割と言えそうだ。

和田彰(わだ・あきら)

profile
1970年生まれ。Great Place to Work® Institute Japan代表。メーカーにて人事制度企画、採用、人事管理などを担当した後、コンサルタントとして、各社の等級・評価・賃金制度などを手がける。2009年より現職。https://hatarakigai.info/