VOL.29 特集:「働きがい」のある会社にするために人事ができること

“人を規制する”人事から“人を育てる”人事へ

Case Study3 実践事例働き方に“革命” を起こすためのさまざまな仕組み NPO法人フローレンス

職場の変革とビジョン実現をつなげる

2005年から訪問型・共済型病児保育サービスを開始したNPO法人フローレンス。待機児童問題解決のための小規模保育サービス「おうち保育園」など、子育てと仕事を両立できる社会の実現を目指し活動を行っている。

フローレンスでは、「働き方革命事業部」と名づけられた部門が人事業務を担い、従業員が生き生きと働ける組織づくりに取り組んでいる。この事業部がスタートしたのは、08年のこと。

「中途採用を積極的に行ったことで、ある時期、育児中の従業員が一気に増えたんです。それをきっかけに、社内の『働き方』を変えていく取り組みをスタートさせました」
事業部長の中村優子さんは、同事業部発足の経緯についてこう説明する。

フローレンスは、「子育てと仕事、そして自己実現の全てに、誰もが挑戦できるしなやかで躍動的な社会」を実現するというビジョンを掲げている。この「社会」には、もちろんフローレンス自身も含まれる。まず、自らの職場を変えなければ、社会を変えることはできない。そうした気づきが、「働き方革命」の原動力となった。

働き方革命事業部・事業部長の中村優子さん(左)と、同事業部の井上真梨子さん(右)。

「働き方革命」取り組みの4つの柱

働き方革命事業部の取り組みの柱は4つ。「社内への価値観の浸透」「コミュニケーション促進」「人材育成」「働き方革命」である。

「社内への価値観の浸透」は、組織のビジョンや行動規範などを従業員と共有するための取り組みだ。入社時のビジョン研修、従業員同士がお互いの良いところを評価し合う「ピカリパット制度」といった仕組みがここには含まれる。

「コミュニケーション促進」は、従業員間のつながりをつくるための取り組みである。四半期ごとに行われる全社会議、マネージャー層が順番に新しく入社した従業員の「メンター(相談役)」となり、仕事に対する考え方や働く姿勢などを指導するメンタリング制度のほか、入社時のウェルカムランチなどがある。

「人材育成」は文字通り、資格取得や研修の機会を幅広く整える取り組み。「働き方革命」には、業務の効率化や、在宅勤務の奨励、子育て支援制度が含まれる。

(写真右)毎朝15分、スタッフ全員でオフィスの掃除を行う。
(写真左)スタッフ全員が手作りの名札を着用。ニックネームを記したり、家族の写真を入れるなど、周りが覚えやすくなる工夫を凝らしている。

これら数々の「革命」の成果は、1日1.5~2時間だった平均残業時間が1日19分にまで減ったことや、離職率の低下などに明確に現れている。

新しい仕組みがつくられる過程には3つのケースがあると話すのは、同事業部の井上真梨子さんだ。
「経営者から経営課題が示されるケース、現場から課題が出るケース、事業部内で独自に制度を考案するケースの3つです。制度づくりそのものに決まったルールはなく、働き方革命事業部でアイデアを出し合って制度をつくっています」

職場変革の過程で得たノウハウは、外部の企業に広く提供している。それが多くの企業の「働き方革命」につながるからだ。働きがいのノウハウを広めることで社会に貢献し、それが従業員の誇りとなり、働きがいがさらに向上する──。そうした理想的なサイクルが成立している。

フローレンスが目指すビジョンに沿った行動をする同僚を見つけたら、掲示板に貼る「ピカリパット制度」。学生インターンのアイデアから始まった。