北欧に学ぶ「高福祉社会を実現する、世帯単位ではない個人重視の税制と透明性の高い政治」

組織と人の今とこれから

高い税負担ながら手厚い社会保障、フレキシブルな働き方、新ジャンルでのビジネスの立ち上げが続く市場――。
国民一人あたりのGDP調査でも常に上位にあがり、世界から注目を集める北欧各国。いくつかのテーマに分けて探ってみる。

Taxation system 7.高福祉社会を実現する 世帯単位ではない個人重視の税制

“高負担高福祉”の前提条件は、国民が総出で働き、税金を納めることだ。よって北欧の税制は世帯単位ではなく、個人単位が徹底している。しかも働くほど恩恵を享受できる「勤労インセンティブ」を高める仕掛けが埋め込まれている。その一つがスウェーデンが06年に導入した「勤労税額控除」で、一定所得層まで、所得に比例して税金還付額が高くなる仕組みだ。

失業保険にしても、この「勤労インセンティブ」要素が色濃い。「以前の賃金の8割保障は、失業200日目までで、201~300日までは70%に下がる。より厳しいのが、職業安定所が案内する、本人に合ったと思われる仕事に、妥当な理由なくして就かないと支給が減額され、それが度々続くと支給停止になることです」(湯元氏)

「自身の生活の基盤は自身の労働から」といった思想が、税制から社会保険にまで通底している。

Politics 8.透明性の高い政治

手厚い失業保険や育児休業保険など社会保障制度が充実しているとはいえ、それでも、なぜ北欧国民が高い負担を受け入れているのか疑問は残る。その鍵を握るのが、国民の政治や政府に対する絶大な信頼だ。国民は国家に貯金する感覚で税を支払っている、とはよく言われる話。このような国民と国の信頼関係はどうやって成り立っているのか?

「一つは地方分権型の税システムのため、受益と負担の関係が見えやすいから。また政府も国民の信頼を失っては国が破綻することを認識しており、国民に対して真実を述べ、国の状態を共有することを旨としている。このため政府の情報公開は徹底しています」(湯元氏)

加えて、国民が総じて高い教育を受け、成熟度が高く自治意識が強い。自らの投票行動が自分たちの生活に密接につながっていることを理解しており、国政選挙の投票率は軒並み80%を超えることも忘れてはならない。こうした積み重ねがあってこそ、充実した生活・働く環境が実現されたといえる。