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AIは自律稼働する「エージェンティック」の時代へ
アンバサダー設置による導入促進と模索し続ける姿勢がカギ

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2026.09.08
AIは自律稼働する「エージェンティック」の時代へ アンバサダー設置による導入促進と模索し続ける姿勢がカギ

AIエージェントの登場により、AIが対話の相手の域を超え、組織において人と協働・共存する働き手になるといわれている。一方で、日本が世界的なこの潮流に乗り遅れ気味である状況は否めない。
AI導入コンサルティングの最前線に立つ、株式会社クラフターの代表取締役社長小島舞子氏に、日本企業が抱える構造的な課題と、それを突破するための戦略を聞いた。

米国ではAIエージェントの「次」が早くも登場――エージェンティックAIとは

2025年に発表されたAdecco Groupの最新調査「Global Workforce of the Future(2025年版)」では、世界の働き手の55%が「今後12カ月でAIエージェントが自社に導入される」と予測しているとの結果になった。対して日本では、この数値はわずか20%弱にとどまっている。この差は何が原因となっているのか。

まず確認すべきは、日本のAI活用の「現在地」だ。小島氏は、組織におけるAI活用を3つのフェーズに分けて説明する。すなわち「①社内GPTの普及」「②ワークフローへの組み込み(AIエージェント)」「③目標設定による自律稼働(エージェンティックAI)」だ。

「特に注目したいのが、米国で概念化が進む『エージェンティックAI』です。従来のAIエージェントは、人間がタスクや手順を説明し、ワークフローのなかに当てはめることで自律性を発揮させていました。一方、エージェンティックAIは、人間が『最終目標』さえ伝えれば、自ら判断し、最適な手段を選んで動きます」(小島氏)

例えばセールスの現場なら、「アポイントを取って」という指示に対し、AIが自らビジネスSNSやメールを使い分け、効率を判断しながら行動する段階に入っているという。

一方で、日本国内の現状は、最も手前にある「社内GPTの普及」のフェーズで足踏みをしている。東京商工リサーチの調査(2025年8月)によると、国内で生成AIの導入を推進している企業は全体の25%程度にすぎず、その内訳にも大きな偏りが見られる。

「資本金1億円以上の大企業では、部門単位の活用を含めれば導入率が40%を超えていますが、中小企業では20%程度まで低下します。さらに深刻なのは、全体の約半数が『導入方針すら決めていない』と回答している点です」(小島氏)

日本が「AIは何ができるのか」を模索している間に、世界はすでに「AIに何を任せるか」という目標設定の段階へ進んでいるのだ。この状況に、小島氏も危機感を覚えている。

日本のAI普及を阻む心理的ハードルとDX化の遅れ

なぜ日本では、AIの導入が進みにくいのか。小島氏は、各企業の現場から上がってくる「AI推進が進まない理由」の共通点を挙げる。

「最も多いのは『社内のリソース不足』です。具体的には、AIを専門に担当する人財がいない、あるいはその予算が確保できないといった問題です。次に挙げられるのは『セキュリティ面への懸念』。情報漏洩のリスクや個人情報の取り扱い、さらには、AIがもっともらしい嘘をつく『ハルシネーション』への恐れも、心理的なブレーキとして目立ちます」(小島氏)

とはいえ、AIが日々発展する現状で、こうした理由を言い訳にしてはいられない。AIを前提とした業務設計ができている企業と、そうでない企業の間では、格差が開き続ける一方だ。それでも日本企業の重い腰がなかなか上がらない背景には、さらに強固な「ある障壁」の存在がある。

「AIエージェントが価値を発揮しやすい領域の一つとして、バックオフィス業務が挙げられます。例えば海外の先進企業では、新入社員のオンボーディング(受け入れ態勢)の事務手続きが完全に自動化されているケースも少なくありません。海外ではSaaSの活用が当たり前に行われていて、さまざまなツールがAPIで連携しています。新入社員が加わったら、AIが自動でメールや社内チャット、開発ツールといった業務に必要な各種アカウントを発行し、配属先の部署に応じた権限を付与するのです。一方、日本企業の多くでは、いまだに名簿管理もExcelで行っているような実情があります。AIがアクセスできるデータがデジタル化・構造化されていないため、AIエージェントが入り込める余地がないのです」(小島氏)

この「Excel文化」こそが、日本企業のAI活用やDX全般を阻害するボトルネックになっているというのが小島氏の見立てだ。それを示唆するのが、日本のデジタル投資における「空白の30年」だという。

「非製造業におけるソフトウェア投資にも、世界との差が大きく表れています。1995年の投資額を基準とした2021年時点の投資額は、米国では9~10倍にまで増えているのに、日本では2倍にも届かない水準にとどまっています(図1参照)。
この30年間、日本企業の多くはソフトウェアへの投資を惜しんできたということです。背景には、何事も『Excelがあれば十分対応できるだろう』という発想もあったのではないかと思います。現場でExcelを使いこなす人たちの頑張りに頼り続けた結果、日本企業ではAIを使いこなすために必要な土壌が育たないままになったと考えています」(小島氏)

図1日本の非製造業におけるデジタルへの投資は1995年から横ばい

日本の非製造業におけるデジタルへの投資は1995年から横ばい

非製造業におけるソフトウェア投資の各国経年変化を見ると、米国のみならず英国やドイツと比べても、日本の投資が低迷していることがわかる

出典:厚生労働省「令和7年版 労働経済の分析」

また小島氏は、AIのような「知能型ツール」が他のITツールと決定的に異なる点について、その「学習コスト」の高さがあると指摘する(図2参照)。

「経費精算管理ツールや、Zoomなどのオンライン会議ツールは、一度使い方を覚えれば誰でも扱えます。しかし生成AIの場合、勉強し続けなければ本当の意味では使いこなせません。導入初期はみんなが面白がって触るものの、ほどなく『思い通りの答えが出ない』『ハルシネーションが起きる』といった壁にぶつかり、利用意欲が急低下する時期(学習曲線の谷)が訪れます。この谷を乗り越え、自分の業務に最適化させるまで試し続けられるかどうかが、活用の成否を分けるといえるでしょう」(小島氏)

図2生成AIを含む知能型ツールの特徴

生成AIを含む知能型ツールの特徴

メールソフトや経費精算管理システムなどの「一度覚えれば終わり」のツールとは違い、生成AIの学習曲線には、利用意欲が失われる「谷」が2つも現れる。これを乗り越えられるかどうかが、AI活用の明暗を分ける

出典:小島氏の資料を基に作成

企業としては、「AIツールのアカウントを配って終わり」ではなく、社員がこの学習曲線を先に進むための継続的なフォロー体制を構築することが欠かせないのだ。

「AIアンバサダー」の設置で全社的な浸透を加速させる

ここで改めて、日本企業特有の「Excel文化」を乗り越え、本気のAI導入を実現するにはどうすればいいのかを考えてみよう。小島氏は、AI導入を成功させている企業の共通点として「経営陣の本気度」を挙げる。

「組織内へのAI導入において、働き手個人ができることは驚くほど少ないのが現実です。役員クラスが『AI活用を進めるぞ』と強くプッシュして経営戦略の中心に据えない限り、組織は動きません。ソフトバンクや日清食品のように、トップが自らAIの重要性を発信し続け、全社員に『これは避けては通れない本気の取り組みなのだ』と認識させることで、現場の社員も初めて本気を出すのです」(小島氏)

そのうえで、全社的な浸透を加速させる施策として、小島氏は「AIアンバサダー」の設置を推奨する。「部署内に一人はいるだろう『AI好きな人』を、公式にアンバサダーとして任命し、職務の一環としてAI活用を任せるのです。彼らの役割は、社内のユースケースを収集して共有し、周りのメンバーに『これなら自分の部署でも使えそうだ』と思わせることで、組織全体が動くきっかけを作ることです。また、部署内の初級者に対して、AIの活用を現場レベルで浸透させていくインフルエンサーのような役割も担います。さらに、業務のなかで何がAIに置き換えられるかを具体的に考え、調査・実行する役割も含まれるでしょう」(小島氏)

ある程度活用が進んだら、社内で「AIアプリ開発コンテスト」を開催するのも効果的だという。現場の人間だからこそ気づく「この繰り返しのタスクはAIに任せられるのでは?」といった発想を経営層がしっかりキャッチし、それをROI(投資対効果)の検証へとつなげていく流れこそが、組織をアップデートするといえる。

「効率化」の先にあるAIの真の価値を見極める

いうまでもなく、企業にとってAI活用はもはや経営課題になっている。にもかかわらず、AIに対する認識が単なる「効率化ツール」のレベルで止まっていることも、日本企業での浸透が進まない一因といえる。それを表しているのが、日米のAIに対する「期待値」の差だ(図3参照)。

図3生成AI活用の指標に関する日米比較

生成AI活用の指標に関する日米比較

PwCコンサルティングの調査では、生成AIへの期待度について日米で大きな差があることが浮き彫りになった。「社員の生産性向上」を目標とする点は共通しているが、その先の視点が大きく異なる

出典:PwC Japanグループ「生成AIに関する実態調査 2024 春 米国との比較」

「米国企業はAIに、効率化の先にある『売上拡大』『顧客満足度の向上』など、事業へのダイレクトなインパクトを求めています。わかりやすい例でいうと、Google Meetの字幕機能のように、AIを自社のプロダクトに組み込むことで、ユーザーの利便性を高め、競合他社との差別化を図ろうとしているのです。
こうした『攻めの姿勢』こそが、日本企業のAI活用に最も欠けている視点かもしれません」(小島氏)

「社員エンゲージメント」への期待値も、日米で差が大きく出たところだ。「米国では、AIを導入することが社員のロイヤリティ向上につながるという認識が浸透しつつあります。AIを使えない会社は時代遅れと見なされ、社員のエンゲージメントが下がってしまう。日本でも、大学でAIを当たり前に使ってきた世代が入社してきたとき、AI活用が遅れていると『なぜこんな作業まで人間がやらなくてはならないのか』と失望させるリスクがあります。社用スマホが支給されない会社に若手が集まりにくいのと同じ現象が、今AIで起ころうとしています」(小島氏)

若手に「選ばれる」ためにも、AI導入は必須になっている。一方で、せっかく入社してきたAI世代の能力を最大限に生かすには、別のリテラシーも必要だ。

「私たちの会社クラフターには『人間は議事録を取らない』というルールがあります。なぜなら、それはAIに任せられる仕事だから。新入社員にはメモ取りのような作業ではなく、AIを使うことで浮いた時間を、より本質的な仕事に充ててもらいたい。そのためにも既存の社員や管理職は、AI世代の『AIならもっと簡単にできるのに』という発想に対して『ラクをするな』などというのではなく、むしろ意見を吸い上げる体制を整えることが必要です」(小島氏)

「様子見」ではなく模索し続ける姿勢を持つ

組織にとってAI活用が必要不可欠な課題となっているなか、現時点ですでにAI導入に後れを取っている企業に、一発逆転のチャンスはあるのだろうか。小島氏「リープフロッグ(技術の飛び越し進化)」の可能性を示唆する。

「中国でクレジットカード決済を飛び越えてQR決済が普及したように、AI活用の後発組は、自分であれこれ試行錯誤せずとも、先駆者が苦労の末に作り上げた完成度の高いエージェンティックAIを、いきなり『ロボットを一人雇う』感覚で導入できるメリットがあります。ただし、その恩恵にあずかれるのも、そのときまで会社が存続していればこそです」(小島氏)

今、AIは進化の真っ只中にある。リスクを恐れてじっと様子見をしていても、その結果が出るのを待つ間にも、取り残されていってしまうだろう。

「だからこそ、これから何が出てくるかわからない状況を楽しみながら、今の自分たちのやり方を疑い、AIと共にどう変わっていけるかを模索し続ける。その姿勢こそが、AI時代の最大の武器になるはずです」(小島氏)

小島舞子氏

小島舞子氏
株式会社クラフター 代表取締役社長

書類検索AIプラットフォーム「Crew」を企画開発。2022年マネックスグループに同社を売却。一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)協議員、一般社団法人Women AI Initiative Japan理事。Forbes Japan Women in Tech 30選出。著書に『企業競争力を高めるための生成AIの教科書』(Gakken)。