専任のブラザー、シスターとともに企業全体で新入社員を育てる アサヒビール株式会社【前編】

Case Study2 専任のブラザー、シスターとともに企業全体で新入社員を育てるアサヒビール株式会社

離職率は1%未満、「働きがいのある会社」調査(GPTWジャパン調査)では07年から6年連続でベストカンパニーに選出―。こうしたデータからも証明されるように、アサヒビールは社員の愛社精神が強く、組織全体で若手を育成する風土で知られる。このようなカルチャーを醸成してきた施策の一つが、新入社員が指導役の先輩社員から仕事のいろはを学ぶ「ブラザー・シスター制度」だ。

同制度の歴史は古い。「現在の社長にもブラザーがいる」(人事部主任、土井基嗣氏)ほどだ。新聞のコラムでは、「ブラザー」から「得意先にほれられるよりほれろ」と教えられた話や、入社10年後に父親から家業を継ぐよう打診されたが「ブラザーたちを裏切りたくない」思いから同社で一生働こうと決めたという同社の社長・会長・相談役を歴任した福地茂雄氏(80歳)のエピソードも紹介されていた。これほどに、先輩、後輩の熱い絆が築かれる同制度とは、どのようなものなのか?

「4~8月の間、本配属前の新入社員1人に営業職の先輩社員1人が『ブラザー』『シスター』として付き、同行営業などを通じて、社会人としてのマナーや基本を教えるなど、公私にわたり面倒を見る制度です」(土井氏)

ブラザー、シスターは原則入社3年目から8年目の若手だ。当然のことながら、この年代の若手が新人を引き連れて営業するのは、負担がかかるはず。自分の営業成績へも影響を与えかねない、面倒な役はやりたがらないだろう。だが同社では、09年よりブラザー・シスター役を「公募制」としたところ、「毎年、定員をオーバーするほど応募がある」(土井氏)と言う。中には2度3度応募し、繰り返しブラザーを担当する社員までいるそうだ。一体、なぜ同社の社員はそこまで育成に熱心なのか?

「もともと人の繋がりを大切にする社員が多いことに加え、皆が先輩社員に仕事を教えてもらったという恩義があり、その恩を自分も返したい気持ちがあるのです」

新入社員の育成において、同制度の効用は大きい。

「新入社員は、どんな疑問や質問も、すぐに聞ける人がいるという安心感が持てます。また新入社員には、もれなく1人指導役が付くために、成長度合いにばらつきが出ない。さらにブラザー、シスターもリーダーシップやマネジメントを実地で学ぶことができ、成長できる。加えて、職場全体に“育成マインド”が広がりやすいという利点もあります」

例年、ブラザー、シスターたちは新入社員を受け入れる前に人事部主催の研修を受ける。

「そこで人事部が新入社員の育成の目的やゴールを示し、彼らは育成スケジュールを作成します。なおかつ講師を招へいし、コーチングの基礎も学んでもらいます」

こうした下地がある上に、ブラザー、シスター役になってからも、新入社員の育成目標や達成指標を示した「OJTシート」を用意するなど、人事部が積極的に関与し育成をバックアップしている。

「社員全体が、ブラザー、シスターに勇気づけられた経験を持ち、会社全体でこの制度を奨励しているため、ブラザー、シスターもやりがいを感じながら、後輩の指導にあたれるのです」

一方、新入社員は、ブラザー、シスターの背中を見て育ち、感謝を忘れない。彼らとの付き合いは、本配属後はもちろん、公私ともに生涯にわたって続くという。

「その後、異動や転勤などを重ねるなかでも、新人時代のブラザー、シスターとの関係は続くため、当社の社員は直属の上司や先輩、同僚以外にも、いつでも悩みを相談できる人を担保できるのです」

だからこそ同社の驚異的に低い離職率や高い愛社精神が育まれるというわけだ。こうした制度が脈々と続く背景には、同社の「人こそが最も大事な経営資源であり、人の成長がグループの成長に繋がる」という考えがあることは確かだろう。

アサヒビール株式会社 人事部 主任 土井基嗣 氏
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