VOL.51 特集:人事評価制度の新たな潮流 個人と組織のパフォーマンスを最大化するマネジメント

Case Study 上司との頻繁な対話で成長意欲を高めるギャップジャパン株式会社

人事考課におけるレーティングを廃止

Gap、BananaRepublic、OldNavyなどのブランドを展開するギャップジャパン。同社では、3年前にグローバルレベルでGPS(Grow、Perform、Succeed)と呼ぶ新たなパフォーマンス・マネジメントプロセスを導入し、全従業員の自己成長を重視した人事評価制度の確立に取り組んでいる。ギャップジャパン人事部シニアマネージャーの佐藤陽子氏がGPS導入の経緯を説明する。「特にアメリカの西海岸で、数年前からレーティング(人事考課における順位付け)を廃止した人財マネジメントを導入する企業が増えています。ビジネスを巡る環境が不安定で予測が難しくなり、従来通りの人事政策では対応できないという危機感があるからです。そこで弊社も、新たな成長のためパフォーマンス・マネジメントを変える必要があると認識したのです」

GPS導入で変わったのは、社員間での比較となる順位付けをやめ、代わりに部下と上司の面談を充実させたことだ。なぜ順位付けをやめたのか。

ギャップジャパン株式会社
人事部
シニアマネージャー
佐藤陽子 氏

「さまざまな報告でも、また社員へのヒアリングでも、順位が良い悪いに関係なく、成績順位ではモチベーションは上がらないことが分かったからです。また『A』『B』『C』『D』『E』と細かく評価付けをする労力とコストも大きく、レーティングがもたらす価値は低いと認識したからです」業績評価は他の社員との比較ではなく、以前の自分と比べ、どんな学びをし、どれだけ成長したか、どれだけ会社に良いインパクトをもたらしたかが基準となる。その結果でボーナス額が決まってくるという。

また、上司と部下の面談はこれまで年3回だけだったが、GPSでは月1回30分以上と増え、さらに個人目標の設定内容も変わったという。「以前の面談では、職責に合わせた目標を多数のタスクリストとして設定し、どれだけこなせたかを確認していました。しかしGPSでは、自分の職責にこだわらず、まず仕事の意味や目的を考えた上で、自分は何をすべきかを考える面談に変えました。タスクの数も減らし、より大きな目標を立てます。ただ、どのような目標を設定するかは個人差が大きく、この点については試行錯誤しながら学んでいるところです」部下が考える個人目標が会社目標に近づくと、モチベーションがアップすると佐藤氏は話す。「個人目標が会社目標に近づくと、仕事の範囲が広がり、仕事の意味付けも深くできるようになります。ひいては仕事自体が楽しくなる。そんな目標を立てられるよう人事部からも働きかけていきたいと考えています」

部下のモチベーションアップが上司の評価に直結

GPSでの面談の目的は、上司が部下のモチベーションを上げ、部下の立てた目標を上司が後押しすることにある。これが上司の評価にも直結する。そのため上司にはコーチング的なノウハウも必要になってくるという。「安心して上司と部下が話せるよう『何がうまくいきましたか』『何がうまくいきませんでしたか』『よくするため、何ができますか』という3つの質問を基本とするなど、上司だけでなく部下側にも、効果的に面談ができるよう事前にトレーニングを行いました」このような会話から上司は、部下の考え、強み弱みを把握し、新しい取り組みを始めるよう促していく。「日本人はうまくできなかった点を問題にしやすいのですが、そうではなく、できたこと、素晴らしかったことにフォーカスする。それを自然と伝えられると、部下のやる気が上がります。良い点に注目することは、これからのマネージャーに必要な資質だと思います」

まだ導入3年だが、マネージャーの部下育成に対する意識はかなり向上したと実感しているという。

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