働き方 仕事の未来 組織 AI開発者が説く 認知科学に基づいたニューノーマルで求められるリーダーシップ

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2022.06.09
AI開発者が説く 認知科学に基づいたニューノーマルで求められるリーダーシップ

不確実性の高い経営環境下で、組織の生産性向上や個の成長を導くようなリーダーシップには何が必要か。
時代の転換期のリーダーシップに求められる資質を、われわれはどう捉えればよいのか。
シナモンAI執行役員フューチャリスト・堀田創氏に、認知科学から見たこれからのリーダーシップのあり方や求められる資質について聞いた。

人間の行動や感情を規定する「無意識の価値観」に注目する

「何かを達成したときに最も喜びを感じる」「とにかく競争で勝つのが好き」「未知のことに挑戦するときに一番テンションが上がる」など、仕事や日常生活のどんな局面で喜びや高揚感を感じるかは、人それぞれだ。こうした自分の内面にある価値観は、普段はほとんど意識されることがないが、実は人間の行動や感情のかなりの部分を規定している。われわれが気づかないうちに、仕事に対するモチベーションを高めることもあれば、チームメンバーとの意思疎通を妨げ、コンフリクトを引き起こすこともある。

このように、われわれ人間が無意識に持っている価値観の性質や、それが感情・行動に影響を及ぼすメカニズムを理解し、人と組織のパフォーマンス向上に結びつけていくのが、堀田創氏らが提唱・実践する「認知科学に基づくリーダーシップ」である。

従来のリーダーシップは、相手を褒めたり叱ったり、賞与や昇給・昇進などの待遇を提示したり、何らかの外的な刺激を与え、行動を変容させることに主眼が置かれていた面がある。

「毎日オフィスに出勤し、上司や同僚たちと顔を合わせて同じように仕事している環境であれば、外因的な働きかけも機能しやすかったわけですが、ニューノーマル時代となりその状態が失われ、今は誰もが自分軸で考え、行動するようになっています。そのため、従来型のリーダーシップではなく、認知科学に基づいて内面から人を動かすリーダーシップが重要になっているのです」

適切な「ゴール設定」と「エフィカシー」が人を内面から動かす

図1 認知科学に基づいてリーダーシップを発揮する3つのステップ

  1. Step1自分自身のWant toに気づかせる
  2. Step2組織のパーパスを自分ごと化させる
  3. Step3ゴールへのエフィカシーを高めていく

Step1自分自身の真のWant toに気づかせる

認知科学に基づくリーダーシップを実践する第1ステップ(図1参照)は、無意識の価値観に着目することだ。チームメンバーは、それぞれ内面にどんな価値観を抱えているのか。例えば、達成感を重視するタイプのメンバーは、「どうすれば高い目標が達成できるか」という戦略の議論ではモチベーションが高まるが、すぐには達成できない遥か未来のビジョンを語り合う場では面白みを感じないかもしれない。あるいは、同じ手順で物事を繰り返すことを大切にするタイプはイレギュラーな事態を嫌うが、未知なことに挑戦するのが好きなタイプはそれを好むだろう。

「注意しておきたいのは、自分の当たり前を他人に押しつけがちだということ。達成感を重視する上司は、達成能力をビジネススキルの最上位と捉え、それができない部下を『能力がない』と決めつけてしまうことが多いのです」

いくら論理的な説得や指導を試みても、その根底に価値観の押しつけがあると相手のモチベーションは高まらない。リーダーは、相手には自分と異なる価値観があることを十分認識し、その上で相手に合わせた言葉掛けや指導の方法を考えていく必要がある。

だからこそ、チーム内で互いの“真の価値観”を理解し合うことは不可欠だ。図2に示したのは、代表的な価値観の例である。最も自分に当てはまるのはどれか、メンバー同士で共有しておくとよいだろう。

図2 個人の「好きなこと」の例

  • コレクションが好き
  • 競争で勝つのが好き
  • 何かを学ぶのが好き
  • 達成感を味わうのが好き
  • 知的な思考・理論が好き
  • 人を成長させるのが好き
  • 物事を分析するのが好き
  • プレゼンテーションが好き
  • インスピレーションが好き
  • グループを調和させるのが好き

出典:李 英俊、堀田 創著『チームが自然に生まれ変わる「らしさ」を極めるリーダーシップ』p115の図を基に作成

Step2組織のパーパスを自分ごと化させる

第2のステップは、組織のパーパス(存在意義)と個人の価値観を結びつけ、自分ごと化させることだ。組織がパーパスを掲げても、それがメンバーに浸透し自分ごと化されていなければ機能せず、メンバーたちが自分の価値観だけに従って行動すると、組織としてのパフォーマンスは生まれない。

「必要なのは『組織が実現したい世界』と『個人が実現したい世界』が重なる部分を見つけて、それを個人のゴールとして設定すること。このことをわれわれは『パーパスの自分ごと化』と呼んでいます」

Step3ゴールへのエフィカシーを高めていく

第3のステップは、設定されたゴールに対する「エフィカシー」を高めていくことだ。エフィカシーとは、日本語で「自己効力感」と訳される認知科学の概念で、簡単に言えば「自分はそれを達成できる」という確信や手応えを指す。たとえ設定されたゴールが初めて挑戦することだとしても、「きっとやれるだろう」という確信の度合いが高ければ、前向きな気持ちでスムーズに行動を起こすことができる。

エフィカシーを高めるポイント(図3参照)は、「やれる気がしない原因を潰していくこと」だと堀田氏は話す。

図3ゴール世界の臨場感が行動変容を生む

ゴール世界の臨場感が行動変容を生む

「こういう行動をとって、リーダーシップを実現させよう!」ではなく、
こういう認知をつくれば、おのずとリーダーシップが実現する」という考え方

出典:李 英俊、堀田 創 著『チームが自然に生まれ変わる「らしさ」を極めるリーダーシップ』p87の図を基に作成

「仮に、世界旅行をしたいと思っている人が『子育てがあるから無理』という理由で断念しているとします。でも冷静に考えれば、子育てが終わった瞬間に世界旅行を妨げるハードルはなくなるはず。だとしたら『お子さんが18歳になるタイミングで旅行に出掛けられるよう今から準備しておくとよいのではないでしょうか』とアドバイスしたら、実現への臨場感がぐっと高まるはずです」

これと同じように、チームメンバーがそれぞれ自分のゴールに向かうための精神的なハードルを取り除いて、臨場感の高いゴール世界を見せることが重要だと堀田氏は語る。

これを実践するには、リーダーがメンバー一人ひとりの内面の価値観をよく理解した上で、自分のゴールに臨場感を感じられるように、適切な言葉掛けやコーチングをしていくことが必要になる。

「ただ、メンバーのエフィカシーを高める努力はもちろん重要ですが、実際のビジネスの場では、リーダーがチームメンバーのエフィカシーを下げてしまう行動や言動を控えるだけでも、チームの活性化に大いに役立ちます。価値観の違いに目を向けないまま自分の価値観を押しつけるような言動はNG。メンバー一人ひとりの内面に寄り添って、エフィカシーを下げない気遣いが日常的にできるような敏感さが、これからのリーダーに求められるのだと思います」

Profile

堀田 創氏

堀田 創氏
シナモンAI執行役員フューチャリスト

慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程修了、工学博士。レコメンデーションエンジン、ニューラルネットワーク等の研究に従事。2005年、2006年にはIPA未踏ソフトウェア創造事業に2度採択された。2005年より株式会社シリウステクノロジーズに参画し、位置連動型広告配信システムAdLocalの開発を担当。在学中にネイキッドテクノロジーを創業、その後同社をmixiに売却。
日本において3回企業売却を経験。現在、シナモンAIにて、フューチャリストとして活躍し、東南アジアの優秀なエンジニアたちをリードする立場にある。マレーシア在住。